第18話

七月一日 四神学園大学中庭 特設リング前 九時〇〇分


「さぁ、始まりました! 四神学園大格闘部会最強を決める、トーナメント大会、四神格闘統一祭! 八人の腕自慢が名乗りを上げました! 今回の大会の運営は格闘部会、新聞部と放送研究会がサポート、プロレス研究会が観戦ガイドを発行しています。そして、私が本日の司会進行と実況を担当させていただきます、放送研究会の南方望です。よろしくお願いします!」

 七月。

 四神学園大学格闘部会肝いり、統一トーナメントの開催の日がやってきた。トーナメントが行われる会場は四学大の中庭に設営された。SGWEの持っているリングを持ち出したものだ。

リングの周りには、すでに百人程の学生が観戦に繰り出している。どの学生も興味津々といった風だ。

観客の手にはそれぞれ、プロレス研の発行した『四学格闘統一祭トーナメント完全ガイドブック』が携えられている。三日前に印刷所から届いたそのガイドブックはプロレス研の渾身の作品だ。刷った二百部は一部三百円で頒布され、あっという間に完売した。

出場する八人のプロフィールだけではなく、それぞれの格闘技の深い知識やうんちくなどが満載の、読むだけで格闘技に詳しくなった気がするような、そんな内容の冊子だった。

観客で冊子を入手できたものは、みな興味深そうに紙面に食い入っている。そもそも、今日集まったのは異種格闘技大会を観に来るぐらいの学生たちなのだから、プロレス研究会に入る素養は充分にある者たちなのだ。アピールは上々であろう。

「始まっちまうな」

「始まっちゃうッスねぇ」

 リングサイドにいささか不安げな面持ちで、賢治と陽子は佇んでいた。龍斗と久遠は選手控室で待機している。ここ三ヶ月の龍斗を見ていて、たしかに彼には実力が付いたとは、ふたりも思う。だが、その前の、性根の優しすぎる龍斗を知っているだけに、本当に戦えるのだろうかとも思ってしまうのだ。


「それでは選手入場です!」

 放送研究会の南方の呼び込みで、控室に待機していた選手たちが入場してくる。

「格闘部会を代表し、最強の称号を獲得に来たァ! 柔道部主将、笹川将冶!」

 柔道着に黒帯を締めた、ガタイの良い角刈りの笹川。

「昨年度都大会ベスト四ォ! キックボクシング部二年、駒田武!」

 試合用トランクスにタンクトップで駒田は軽快にリングに上がる。

「インターハイ出場の実力は如何ほどかァ!? ボクシング部三年、鈴木圭一郎!」

 首から紐でつなげたグローブを下げた優男が鈴木だ。

「日本の国技、その真価が発揮されるのかァ!? 相撲部主将、大田原大吾!」

 学内でもよく目立つ巨漢、大田原はとてもよく落ち着いている。

「組み付いたら最後、リフトが極まるゥ! アマレス部二年、佐原誠!」

 一見細身だが、筋肉がしっかりとついたバランスのいい体をしている佐原。

「その実力は未知数、どういう闘いを見せるのかァ!? 空手部一年、秋月雄志龍!」

 今大会で唯一の一年だが、秋月は気圧されることもない。

「人気は学内でも随一ィ! SGWEのフェニックス、久我山幸!」

 花道を一気に走り込んできて、トップロープを飛び越えてド派手にリングインする、久我山。普段の興行でファンがついている久我山には黄色い声援が飛ぶ。

「そして、ラストはこの人! 創部三十年の格闘ウォッチ能力は実戦でも通用するのかァ!? プロレス研究会、志貴龍斗!」

 龍斗はゆっくりと花道を歩いてきて、ゆっくりとリングインした。ガチガチに緊張している様子が、リングサイドからも見て取れる。

「あちゃぁ、大丈夫かよ……」

 その様子に賢治は思わず目を覆った。その様子では格闘部会の猛者達と対等に闘いあえるとは到底思えない様子だった。


「それでは、これより四学大格闘部会主催、統一トーナメントを開催します! 選手による組み合わせ抽選の後、試合の開始となります!」

 開幕のセレモニーの後、司会の南方の進行でトーナメントは進んでいく。選手たち八人の前に、抽選カードの入れられたボックスが用意された。

八人がそれぞれボックス内のカードを引いていき、ホワイトボードの対戦表に名前が書き込まれていく――そして。

「さぁ、対戦カードが出揃いました! 第一試合、空手部秋月 対 SGWE久我山! 第二試合相撲部大田原 対 アマレス部佐原! 第三試合柔道部笹川 対 キックボクシング部駒田! 第四試合ボクシング部鈴木 対 プロレス研志貴! 以上の組み合わせで決定しました!」

 観客がざわめく。どのカードにしても、注目と言える組み合わせが生まれている。そこここで、試合の行く末を予想しては、ああでもないこうでもないと語り合われている。

「はぁ、龍斗の相手はボクシングか」

「実力者っスねぇ」

 今回エントリーした者は、全国レベルの力を持っていると目されているのがほとんどだ。柔道部の笹川は二年前の全国大会に出場しているし、一年の秋月ですら、高校の時に国体に出場しているのだ。四学格闘部会にはその他にも全国レベルの学生がごろごろしているが、異種戦に興味がなかったのか、参加してきていない。今回の大会が成功すれば、次回以降はもっと参戦者が増えるのではないかと、格闘部会では期待されている。

「鈴木さんといえば、去年のインターハイでもいいところにいったんっスよね。かいちょーは大丈夫っスかね……」

「そればかりは、やってみないとわからないかな」

 ふたりの背後に、唐突に久遠が沸いて出た。

「うわっ、久遠サンじゃねぇか!」

「びっくりしたっス」

 驚くふたりを尻目に腕組みしてリングを見据える久遠。その頭のなかでは、既に試合のシミュレーションが何パターンか行われているようだ。

「なかなか興味深い組み合わせの異種戦が観られそうだね」

 武の達人の久遠をもってしても、試合展開の予想がつかないトーナメントになりそうだ。

「それでは、このあと九時半より試合の開始となります!」

四学大格闘部会統一トーナメントの幕が開く!

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