第9話
四月十四日 池袋 四神学園大学学生会館プロレス研究会部室 十五時二十三分
龍斗が久遠に師事しはじめてから十日が経った。大学も授業が始まり、新入生も学校に馴染み始めている。ちなみにプロレス研の新歓の結果は散々なもので、見学者は何人か来たものの正式入部希望者は現れなかった。
今日は龍斗の修練は一旦休みで、部室に集合している。
「マズイことになったわ」
集合して開口一番、久遠が深刻な表情を浮かべた。
「どうしたんスか?」
冷蔵庫から缶コーラを取り出し、皆に配っている陽子が不思議そうな顔をした。
「私が滞在している家の主の友人が、彼氏と同棲を始めると言い出してね。滞在する場所がなくなってしまったのよ」
家を持たずに長期滞在している久遠にとって、滞在する場所は死活問題だ。実家は埼玉だといっていたが、そこに滞在していないのはなにか事情があるのではないかと推察し、プロレス研の面々も迂闊な事がいえないでいる。
「それなら、僕の借りてる下宿に泊まります?」
龍斗が提案した。
「下宿に?」
「ええ。大家さんがちょっと変わり者なんですけど、空き部屋がありましてね。ただで……とはいかないかも知れないですけども、交渉次第ではだいぶ安く泊まれるんじゃないかと」
「それはいいわね。それでは、今日の授業が終わっているのならば、案内を頼んでもいいかな?」
「俺は今日はもう終わってるぜ」
「あたしも終わってるっス!」
「あー、僕はちょっと教授に呼ばれてるんだよなぁ」
龍斗だけこの後の用事が入っていた。通学に使っているナップザックのポケットから龍斗は家の鍵を取り出すと、賢治に向けて投げた。賢治は阿吽の呼吸でそれを掴みとる。
「賢治、久遠さんを案内してあげて。用事が終わり次第、僕も行くから」
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