1-04 理不尽勝手きわまる召喚理由

 私が無理矢理『召喚(しょうかん)』されたこの異世界は、よくあるファンタジーRPGのような世界で、冒険者たちはパーティと呼ばれるグループを組んでダンジョンに潜(もぐ)り、生計を立てていた。


 私をこの世界に呼び寄せたファウルは勇者の称号を持つ冒険者で、この辺りでは有名な冒険者パーティ「ヒット」のリーダーをしている。パーティメンバーが4人とも揃(そろ)ってイケメンのため、彼らはちょっとしたアイドル的存在らしく、若い女の子たちから熱狂的な支持を得ていた。

 そんな「人気者」の彼らが、なぜわざわざ別の世界から、パーティに組み入れる人間を呼び寄せる必要があるのか? その理由はすぐにわかった。彼らは<お針子(はりこ)>が欲しかったのだ。


 この異世界の冒険者になるには、職業を選択してギルドに登録する必要がある。

 この世界のギルドというのは冒険者専用の組合(くみあい)みたいなもので、国や各地域の権力からは独立した、一つの大きな組織だ。各地に拠点を置いていて、ダンジョンが近場にあるような町には、必ずギルド支部が設けてある。

 冒険者になりたければ必ずギルドへの登録が必要で、それにはまず、冒険者用の職業を選ばなければいけない。

 その職業選択には、本人にある程度の素養がなければならず、今まで登録できた基本職業は、<戦士><武闘家><魔法使い><神官><道具使い><芸術家>の6種類だった。

 そのどれにも素養がなければ、冒険者にはなれないというのがこの世界のルールらしい。

 そんな中、ギルドがこのほど、冒険者として登録できる新しい職業を発表した。

 それが、<お針子>である。


 その新職業<お針子>の登場とほぼ同時に、いくつかの新しいダンジョンが見つかった。

 これは何かあるに違いないと、冒険者たちは躍起(やっき)になって<お針子>職に就(つ)ける素養や技能を持った人材をスカウトし、パーティに加えようとした。

 その結果、あっという間に異世界住民の<お針子>需要(じゅよう)は、供給不足になった。


 そんな中、ファウルたちは自分たちのパーティに組み入れるに相応(ふさわ)しい外見と才能を持った<お針子>を選(え)り好みしているうち、出遅れたことに気付く。

 彼らはそれでも最初のうちは、<お針子>などいなくても、自分たちだけで十分やっていけると思っていたらしいが、新しく登場したダンジョンの最深層に辿り着くには、<お針子>の力が絶対に必要になってくるという情報を聞き、慌てだした。

 しかしもうすでに、フリーの<お針子>など、どこを探しても見当たらない。それならばと、既に誰かのパーティに入っている<お針子>を引き抜こうと画策(かくさく)したが、素行(そこう)の悪いファウルたちはギルドに目を付けられていて、引き抜き行為をした場合、即刻冒険者証を剥奪(はくだつ)される通告を受けていた。


 なぜ私がこんなことを知っているかといえば、彼ら自身がべらべら、しゃべっていたからなの。私がこっそり聞いているとも知らずに、彼らはいつも、悪行の自慢や、落とした美女の話など、くだらない話ばかりしていたのよ。本当にうんざりする。


 さて、そんなわけで彼らは、いよいよ最終手段に出た。この異世界とは違う世界から、<お針子>を『召喚』することにしたのである。

 その『召喚』によって現われた私に、ファウルはこう告げた。


「いいかい、君が異世界から来たことは、絶対に誰にも、言っちゃいけない。異世界から来た人間は投獄されて、ひどい目に合わされるからね。大丈夫、オレたちが君を守ってあげるから、君はいつもオレたちの後ろにいて、他の人たちと口をきいちゃいけないよ」


 気持ち悪いくらい優しい声でそう言われ、私はまたもやゾッと鳥肌を立てた。

 彼らが言うには、違う世界から人間を『召喚』するのは違法だが、ばれずに済めばいい話で、現状まったく問題ないとか何とか。

 私は呆(あき)れ返った。ひどすぎる。

 つまり、強引に『召喚』された私は帰る手段もなく、こいつらを頼る以外にここで生きていく方法がないということになる。――そんな馬鹿な。

 あまりの理不尽さに震えながらも、とりあえず私は従順なフリをして、なんとかこの現状を打開する方法がないか、探ることにしたのだ。

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