1ー03 ピンチなときほど、クールダウン

 え、え?! ちょっとこれ、どういうこと?! ここどこ、あんたたち、いったい誰?! それ、何のコスプレ?! 今日どっかでイベントでもあるの?!


 そんな風に心の中で叫びながら、床にへたりこみ、驚愕(きょうがく)の表情でパニクる私に、イケメンの一人がにっこり笑って声を掛けてくる。

 その男はファンタジー世界を舞台にしたゲームに出てきそうな、豪華な衣装を身にまとった、金髪碧眼(きんぱつへきがん)・剣士風の美男子だった。


「ようこそ、<お針子(はりこ)>のお嬢さん。君を歓迎します」


 は? 歓迎するってどういうこと? 何かのイベントに招待された覚えはないよ?


 相変わらず私の頭の上には「?」がいくつも飛び交い、おさまる気配はない。

 目を見開いて口をぽかんと開けている私に、別のイケメンも話しかけてきた。


「君はこれから、この世界で<お針子>として、オレたちとパーティを組むことになったんだ。よろしくね」


 彼らが口々によろしく、と言ってきたあと、最初に声を掛けてきた金髪碧眼のイケメンが、私に手を差し出した。


「さあ、立ちなよ。オレの名前はファウル。この世界のことを説明するよ。あ、言葉、通じてるよね? 『召喚(しょうかん)』された人間には、自動翻訳(じどうほんやく)が働くはずだから」


 そのファウルと名乗った男を改めて見た途端、私はゾッとして、鳥肌を立てた。

 普通の女子なら、目の前のイケメンにうっとりして目をハート型にさせ、別の意味で鳥肌を立てるようなシーンだけど、私のは違うの。正真正銘の、嫌悪感。だって私、イケメンアレルギーなのよ。私の今までの人生の中で出会ったイケメンで、性格の良い男は一人もいなかった。私の経験則と直感が、頭の中で緊急警報をかき鳴らした、というわけ。


 私はファウルの手を無視して自力で立ち上がり、イケメンオーラを不必要にキラキラ振りまきながら近づいてくる男たちから後ずさりした。悪い予感に身も心も震わせながら。


 ――これが、2か月間に渡って続く悪夢の、始まりだった。


 彼らの説明を受けて、私はここが日本ではなく、見知らぬ世界だということを知ったの。私は彼らにこの異世界へと『召喚』されたのだ。それを聞いた時、私は怒りに震えた。


『召喚』? 私にとっては、『拉致(らち)』だ。


 だって、

 無理矢理、

 事前承諾(しょうだく)なく、

 強引に、

 ここに飛ばされたのだもの!!


 しかも彼らが言うには、帰る手段はないらしい!

 ふざけんな、この誘拐犯グループめ!


 怒りをぶつけてやろうとしたが、私は思いとどまった。この右も左もわからない異世界で、いきなり敵を作るのは得策ではない。しかもこっちは女1人で、あっちは男4人だ。

 母からよく言い聞かされていた言葉のひとつが、慕わしい母の声と共に、脳裏(のうり)に甦(よみがえ)る。


『ピンチなときほど、クールダウン』


 うん、クールダウン。冷静に。周りをよく見て、賢く立ち回ること。

 私はとりあえずおとなしく従順なフリをして、状況を見極めることにした。

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