1ー02 突然の、召喚という名の拉致
私の名前は、七星(ななほし)美纏(みと)。
美しく纏(まと)うと書いて、美纏(みと)。
「纏」という漢字に、「と」という読み方は無い。当て字だ。ちょっと反則な感じは否(いな)めないけど、母が付けてくれたこの名前を、私はとても気に入っている。
今は残念なことに、漢字のない異世界に飛ばされているため、ただ音で「ミト」と呼ばれている。
年は26。
スリムな体形……と言いたいところだけど、中肉中背の、きわめて健康的な体形だ。
言っとくけど、自分で自分のこと、ブスだなんて絶対思ったりしないからね!
ちょっと細工は粗い感じだけど、個性的な目鼻立ちの、見れば見るほど味わいの出てくる、とっても愛嬌(あいきょう)のある顔なんだから! 物は言いよう……なのよ、うん。とにかく、ブスなんて言葉は、「この世から死滅するべき言葉ナンバーワン」なんだから、そんな言葉、なかったことにする。
それからついでに言っとくと、ホクロはチャーミングポイントよ!
………………。
…………強がりなんかじゃ、ないからね……。
実は私、大手アパレルメーカーに勤めていたんだけど、色々あってね。二年前に交通事故の巻き添えで母を亡くした時に、私の中で何かがプツンと切れて、その会社を退職したの。
それから得意な洋裁の腕を生かして、ハンドメイドクリエイターをしていたんだけど、売り手過剰(かじょう)のハンドメイド界はすでに終わりが見えていて、すぐに行き詰まりを感じてしまった。
着る人の身になって質の良いものを作れば、当然、価格は跳ね上がる。でも閉塞(へいそく)した日本経済の安売り競争はハンドメイド界にも押し寄せていて、どんなに良い物を作っても、安くなければ売れない。
言っとくけど、センスが悪くて売れないわけじゃないのよ。デザインも縫製(ほうせい)の質も、共にピカイチだと自負してる!
けれど、人々は「プチプラコーデ」とか「高見えファッション」とかふざけた単語を叫びながら安物を買いあさり、いかに安かったかを自慢しているの!
完全な、安物(やすもの)市場(しじょう)独り勝ち! 日本人はみんな安物至上主義! 安いことは良いこと! 安くなければ商品じゃない! 安いものを更に値切って買う自分最高! ――そんな感じ。
そういうわけで私の服は、上質なものを求めるごく限られた層には支持されているけれど、生計を維持できるほどの売り上げは得られていなかった。
ファストファッションブームのこの社会の中で、私のハンドメイド服が生き残るためには、何か特別な対策が必要だとひしひしと感じ、私は現状を打開する策を見出そうと、ネットで調べものをはじめた――その矢先。
おかしなサイトが、突然目の前に現れたの。
画面いっぱいに質問がアンケート形式で表示されていて、チェックを入れる四角いマス目に、なぜか私は魅入られたように、カーソルを当てていった。
1. あなたは手仕事が好きですか?
――もちろん、はい!
2. 服を作ることに喜びを感じますか?
――はい、はい!!
3. デザインや価格も大事ですが、着心地や丈夫さ、素材や縫製、質の良さに、より重点を置きますか?
――そうね、そこ重要! はいはいはいはい!! もう100万回、はい!
4. 「おしゃれは我慢」とよく言われますが、おしゃれのためなら何らかの不都合を受け入れるべきだと思いますか?
――思うか、そんなもん! 健康なくしておしゃれなし! 人にも環境にも配慮したモノづくりを目指してます!
5. 信念を貫きお針子道を突き進むと誓いますか?
――お針子道(はりこどう)? それ何だろ? お針子って、縫(ぬ)い子のことだよね。私はデザイン、パターン、裁断、縫製(ほうせい)、すべて一人でやってるから、まあ、お針子でもある。うん、じゃあ、はい。この道を突き進みたいです!
4の項目だけを「いいえ」、それ以外はすべて「はい」にチェックを入れて、「次へ進む」の文字を選んだ途端。
突然、目の前が白く光り、その眩(まぶ)しさに私はギュッと目を閉じた。
そして再び目を開けたときには、私は自分の部屋ではなく、見知らぬ部屋で、ファンタジックな衣装に身を包んだイケメン4人に取り囲まれていたのだ。
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