異世界召喚されたので、仕立屋しながら魔王城を目指すことになりました。

ことのはおり

第1工程 性悪勇者にめでたく追放され、本当の仲間と出会います

1-01 そんな悪口、気にしてなんて、いないんだから……

★ ★ お知らせ ★ ★

2024年4月AmazonKindle(電子書籍)にて、セルフ出版しました。

こちらでは試し読みの数話のみ公開しております。

kindle版では、コンラートルートとレグルスルートを5巻に書き下ろしていますので、読みに来ていただけますと嬉しいです。

なお、こちらの試し読み分についてですが、word文書のコピペのため(かっこ)内にルビが入っています。こちらのシステムに合わせてルビを振り直す時間が無いため、ご容赦ください。

★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★




「消え失せろ、このブス」


 イケメン勇者が投げつけてきたその一言に、私は凍り付いた。


 ――今、なんて言った?


 ブ ス って言わなかった?


 「ブス」……それは、「デブ」と並んで、女子が言われることを最も恐れる、究極の悪意に満ちた、恐ろしい呪いの言葉。


 実際本当にブスかどうかは関係ない。どちらであってもダメージを受けるのだから。

 デリケートな女子のガラスのような心は、その一言で深く傷つき、抉(えぐ)り取られるのだ。


 心ある男なら、女に向けて絶対に使わない言葉。

 並外れた破壊力を持つ、使ってはならない禁断の言葉。


 ――それが、「ブス」という言葉なのだ。


 目の前のイケメン勇者、ファウルは端整(たんせい)な顔を歪(ゆが)ませ、フリーズしている私を蹴(け)らんばかりの勢いで追い打ちをかけた。


「そうそう、ひとつ忠告しておいてやる。ギルドには近づくなよ。おまえがこの世界の人間じゃないって知られたら、ソッコー投獄されるから、覚えとけ、このホクロブス!」


 ホ……ホ……ホ……、

 ホクロブスですって?!


 確かに私の顔にはホクロが多いけど、それは色白だからよ! そして「色の白いは七難隠(しちなんかく)す」……って言われるくらい、色白は女子の美点のはず!

 ……まあ、正直言って、肌の白さが欠点を隠してくれるとは全然思わないけど、だからって、ホクロブスって何よ、それは言い過ぎでしょ!


 ……ホ、ホクロが多いからって、き……気にしてなんて、いないんだから……。


 そうよ、このホクロだって、結構味わいあるもの! こうホクロとホクロをつなぐと、ほら、夜空に浮かぶ星座みたいに見えて、ロマンチックでしょ! ほっぺのホクロはオリオン座に見えなくもないし、おでこには、カシオペア座だってある! そうよ、私は星空乙女! 自分の顔で星座観賞できちゃうんだから!!


 ――こんな風に、私の心の中はささやかな反撃の言葉で溢(あふ)れていたんだけど、それとはうらはらに、唇はわなわなと震えるばかりで、何一つ言葉を発してはくれなかった。

 そうしている間にも、ファウルは苛立(いらだ)ちをあらわに舌打ちし詰め寄ってくる。そして、ショックを受けて茫然(ぼうぜん)としている私に向かって言った。


「聞こえなかったのか、ミト? もうおまえに用はない。イゾルデにブスが移ったら大変だ、早く出てけよ」


 他のパーティメンバーがくすくすと嘲笑(ちょうしょう)を漏らす中、ファウルは傍(かたわ)らのイゾルデを抱き寄せる。イゾルデは私のあとにメンバーに入った<魔法使い>で、スーパーモデル並みの超絶美女だ。

 彼女は鼻をフッと鳴らし、蔑(さげす)んだ視線を私に投げかけ、言った。


「あんた、使えないのよね。<お針子(はりこ)>とかいう、新しく冒険者に加わることが許された、今をときめく花形職業だって? ハッ、笑かしてくれる。ファウル、せっかく貴重な召喚石を使ったのに、とんだ不良品を召喚(しょうかん)したものよね。まったくレベルアップしないし、ドンくさいし、お荷物なのよ。サッサと他に行った方が、あんたのためよ。精鋭(せいえい)ぞろいのファウルのパーティにはまったく相応(ふさわ)しくないわね!」


 イゾルデは、部屋の片隅に置かれた私の数少ない所持品を手に取ると、袋にまとめて入れ、投げるように私の胸元に押し付けた。そして私を扉の方へと引きずってゆく。


「じゃあね、ミト。誰かいい人に拾われて、せいぜい幸せな人生を送りなよ」


 イゾルデの甲高(かんだか)い笑い声と扉の閉まる音が、背後に響く。


 かくして私は、彼らに何一つ反撃できないまま、見知らぬ町へと放り出された。


 私は茫然としながらも、その場にいるのも辛くて、急ぎ足で歩き始める。

 私の胸中に吹き荒れている嵐の正体は、パーティを追い出された悲しみではなく、煮えたぎるような怒りと悔しさだった。

 あの心無い罵倒(ばとう)に言い返せなかった悔しさが、窒息しそうな勢いで私の喉を詰まらせ、彼らに一切反撃できずに敗者のように町に放り出された屈辱(くつじょく)に、どこか体の奥の方から怒りのマグマが沸(わ)きあがってくる。


 しかしその一方で、パーティから追い出されたのはむしろ都合がよく、私は自由になってせいせいしていた。


 ――行くあてなど、どこにもなかったのだけれど。


 そもそも、何で私は、この異世界にいるのか?


 地球という惑星の、日本という国の片隅で、ちまちまと洋服を縫(ぬ)って地味に暮らしていた私。


 それが突然、このRPGのような異世界に『召喚』されたのは、2か月ほど前のことだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る