エルフの森

 エルフの住む森にやってきた。木々がさわやかな緑をつけ風に揺れている。


「もういつ悪勇者たちと接敵してもおかしくありません。姫はすぐに木陰に隠れるようお願いします」


「はい!わかりました」


 シャゼルと姫が後ろで会話している。前を歩く俺はというと身体に魔力を循環させる練習をしている。


 昨夜、野営時の見張りにて暇だったので恐る恐る魔力コントロールの練習をしてみた。驚くことにどこも痛めることなく魔力を流すことに成功したのだ。恐らくは元の魔力に比べて、魔力のコントロールがざらでも現状の魔力総量が大したことないからなんだと思う。


 武器もいいが短期間で今より戦えるようになるにはこれしかない。少しでも身に着けて実践に活かせるようにならなければ。


「魔王様、何者かの視線を感じます」


「悪勇者たちか?」


「わかりませんが複数はいるかと」


 歩きながら視線に気づいてることを気取られないよう自然体で会話をする。さあ、どう動いてくるのか。


「止まれ!」


 怒鳴り声にも似た大声が響き木の上から5人ほど飛び降り俺たちの周りを囲む。全員背格好は小さく顔をすっぽり布で隠している。見えているのは目元だけだ。


 弓や槍を構えられている。姫だけはいつでも守れるように視界に入れておく。



「お前たちは勇者一行であるか!?」



 どうやら悪勇者たちではないみたいだな。となると、エルフたちだろう。


「魔王様、いかがいたしましょう」


「リドウ、誘拐犯と間違われるのは思うところではありません。ここは私に」


「うん、姫に任せる」


 悪勇者たちはエルフを浚い奴隷商に流している。つまり勇者一行とは悪勇者たちを指すのだろう。勘違いで揉めても困る。ここは姫に任せるとしよう。



「どうした!答えろ!」



「私たちはエルフを攫う勇者一行を倒すためやってきました!」



「なに!?」


 ざわめくエルフであろう者たち。


「それは本当であるか?」


 リーダーらしき者が手で他のものを制し問いかける。



「本当です、私は西国が第三王女、レイム・ウエステリア。王家の名とこの紋章に誓い、先ほどの言葉を真実だと証明します」


 首元から服の中に隠していた王家の紋章のネックレスを見せる姫。ふたたびざわめくエルフたち。



「王族がなぜここに?」


「そういえば西国でも勇者召喚をしたとか」


「噂では王都に竜が攻めてきたらしい」


「静かに!」


 リーダーが声をあげる。続けて口を開く。


「レイム・ウエステリア王女。それでは我々の指示に従っていただきたい」


 姫がこちらを見てくる。うん、それで構わないだろう。目を合わせて頷く。


「わかりました、それであなたたちはエルフで間違いないでしょうか?」


「はい、王女様。おい!」


 リーダーの声掛けに全員顔を隠していた布を取り去る。端麗な顔つき、少し長めの耳、薄目の金髪、凡そ想像しうる姿だ。


 全員女みたいだな、男は全員攫われたか殺されたか、あまり聞けない雰囲気だ。


「それで王女様、そちらの二人は噂の西国が勇者なのでしょうか?」


「はい、あなた達を襲っている勇者たちとは異なります。先ほど伝えたとおり寧ろ味方ですのでご安心を」


「ありがとうございます。正直私たちの手には余っており助かります」


「いえ、襲ってきた勇者たちについて詳しく聞いても?」


「もちろんです」


 姫とリーダーが話している。


「魔王様!」


「姫!!」



 ズガッ!という音が響き衝撃波が迫りくる。


「きゃぁ!」



 とっさに姫に覆いかぶさり衝撃波を二人で回避する。



「くぅ」

「かはっ」

「うぅ」


 衝撃波で三人のエルフたちが呻き苦しんでいる。直撃したみたいだ。



 うるさい足音が響く。黒髪で長髪の男が歩いてくる。



「おいおい、今回はエルフ以外もいるみたいだなぁ?」



 輝く剣を肩に乗せ、気味の悪い笑顔を浮かべている。まさかこいつが?



「ふいうちとはいえ3人もやられてますぜ!」



 黒髪長髪の男の後ろから小柄で口のとんがった細身の男が現れる。こいつも下卑た笑みを浮かべている。



「勇者様ー、私ー。早くエルフたちを奴隷商に売ってまたカジノに行きたぁい」



 くねくねした顔の濃い女が黒髪の男にべたべたとくっつく。



 うん、こいつらが鍛冶師の爺さんが言っていた勇者で間違いないな。その証拠にエルフのリーダーがすごい顔で睨んでいる。



「貴様らあああ!同胞を返せ!!」



 エルフのもう一人が黒髪の男に槍を向け飛び掛かる。


「待て!リグ!」



「ざんねえん、遅い」


 黒髪が剣を振る。当たらぬ距離だが?


「がっ!はあっ!」



 空振りかと思われた剣から衝撃波が飛び出し、エルフを吹き飛ばす。エルフは木に打ち付けられ気を失った。



「だから待てと…。くっ、頼む!助けてくれ!」



「ぎゃはは!私たちにぃ命乞いしてる?それとも弱そうなこいつらに助け求めてるのー?」



 

 顔の濃い女が汚い声で笑う。



「王女様!どうか、お助けください!」



 エルフのリーダーは悔しさ、怒り、よくわからない表情をして姫に懇願する。



「リドウ!シャゼル様!」


 姫はキッと黒髪たちを睨み、俺とシャゼルの名を呼ぶ。うん、わかってる。



「ああ」


「もちろんです、レイム姫」



 こっちはエルフのリーダーに俺、シャゼルの三人。あっちは黒髪の勇者?に魔法使いみたいなおっさん、

僧侶?の女だ。



「おい、俺たちとやろうってのかぁ?」

「ぎゃはは!生意気なんだけど」

「そうですぜ!あっし達は東国の勇者一行!謝るなら今のうちですぜ!」



 こんなやつらと比べられているのはすごくいやだな。それにこいつへの支援要請でろくなサポートもしてもらえなかったと思うと怒りに震える。



「私たちは西国が勇者一行です!あなた達は勇者にあるまじき事を行っています!覚悟してください!」



 姫が怒っている。そうだよな、エルフだって西国の民なんだ。



「西国の勇者だあ?ちょうどいいや、勇者は一人で十分だからな。お前らも奴隷商いきだ!」


「スメラギ様、あの金髪の女だけあっしに楽しませてくだせえ、へへっ」


「んー?あぁ、いいぜ。あの女はガンジの好きにしろ」



 ん?あの小さいおっさん、姫のこと見ながら言ってるよな。うん、殺そう。


「姫、あいつら殺してもいいんだよな?」


「うーん、できれば殺さず生け捕りが…」


「魔王様、あの小さい男だけは殺してもよいかと」



 先ほどのガンジとやらのセリフにシャゼルも思うところがあったみたいだ。



「じゃあ時空魔法だシャゼル。消してしまえ」

「だ、だめです!確実に生け捕り!生け捕りでお願いします!」



 と、半分冗談でふざけてはみるものの、先ほど悪勇者が放った衝撃波、あれが何度も使われると相当やっかいだな。魔石持ちの魔物があとに控えてるんだ。ここは楽勝でありたいが…。

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魔王様は再び勇者召喚されたみたいです。 @arch_love

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