悪勇者

 カジノへやってきた俺たち。カジノではエルフみたいに耳の長い女たちがきわどい服で給仕している。


 鍛冶師の爺さんを見ていないか聞き込みを行うとすぐに見つかった。


「なんじゃ、お主らは」


 鍛冶師であろう爺さんの前に立つ。髪は白く皺が多い、右目に縦傷が入っている小柄な爺さんだ。



「俺の名はリドウ、異世界の魔王だ。わけあってあんたに武器を作ってもらいたい」


「あー!あー!違います。リドウは勇者召喚で召喚されました我が国の勇者です!隣はリドウの従者、シャゼル。私はレイムです」


 魔王なんて言っちゃだめですっと耳打ちされる。うん、声も好きだ。



「うーん、どこかで見たような…それに魔王…?」


 姫をじーっと見る爺さん。姫は外に出ないから民衆に顔ばれしていないと言っていたが。


「ち、ちがいますぅ」


「まあよい、…わしは大鍛冶師のザイモンじゃ!」


 大鍛冶師とは大きくでたな。


「あ、お主なにが大鍛冶師だとか思ったじゃろ?」


「お、思ってない…」


「わしはもともと王宮お抱えの鍛冶師じゃったんじゃぞ?」


 なるほど、どうりで姫の顔に見覚えがあるわけか。


「それはいいとしても、おまえさんのために武器を作るつもりはないの」


「なんでだ?」


「ふん、勇者なんぞにわしの武器はやれん」


「そんな!お願いします。武器がないと…!」


 食い下がる姫に爺さんは顔をしかめる。


 溜息を一つ、口を開く。


「つい最近の話だ、隣国の勇者を名乗るやつがやってきたんじゃ。魔王を討つために凄腕鍛冶師であるわしに剣を打ってほしいとな」


 臣下たちが言っていた奴だろうか?


「魔王討伐のためと言われてはの…」


 こちらも似たような事情があるのだがなぜダメなんだ?



「その勇者一行はわしの打った剣でエルフたちを襲い、奴隷商に流しているらしい。確かな情報だ。」



 自分の武器が魔物や魔王を討つのではなく、悪事に使用されているため勇者だからと無条件で武器を渡すのが嫌になったのか。


「勇者にあるまじき行為です!」



 姫が怒っている。勇者なのに!って思ってるんだろうな。俺も勇者で魔王なんだけど…。



「ザイモン様、私たちはそのようなことは…」


 シャゼルが口を開く。


「信じられん!が、そうだな………悪事を行っている勇者からわしの剣を取り返してきてくれたらおまえさんら全員分の武器を作ってやらんこともない」


 ザイモンはふんっと鼻息をならし腕を組みながら条件を伝えてくる。


 「ザイモン様、その勇者たちは今どこに?」


 シャゼルが問う。そうだな、近場ならいいんだが。


「ここ、ラクルから馬で半日ほどの距離にエルフの住む森がある。そこで野営している勇者一行を見たと聞いている」


 姫がこちらをまっすぐ見つめてくる。うん、こんな悪事許せないタイプだよな。


「リドウ!」


「あぁ、その勇者たちから爺さんの作った剣を取り返そう」


「なに!?本当に行ってくれるのか?」



 意外そうにこちらを見る。


「あぁ、どうしても武器が必要なんでな」


「そうか!あっちの勇者はわしの武器を持っておる!くれぐれも気を付けるんじゃ!」


 わかったと返事してカジノを後にする。まるで自分の武器がとてつもないみたいな言い方だったな、大げさにもほどがある。


 だがお金もないし、武器に関してはあの爺さんを頼るほかない。


「姫、馬は借りられるんだろうか?」


「ごめんなさい、リドウ。今後の火山への移動や王都への帰還を考えると…」


 お財布事情は厳しそうだ。例のごとく眉を下げ可愛い顔を披露する姫。


「魔王様、たまには歩くこともよいかと思います」


「そうだな、歩きながら他国の勇者とやらの対策を考えよう、この世界での勇者についても姫から聞いておきたい」







「レイム姫、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫ですぅ、はあはあ」


 4~5時間は歩いただろうか、姫の体力が限界みたいだ。


「魔王様、陽も落ちてきました。あの大きな木の下で野営はいかがでしょうか?」


「そうするとしよう」


 姫が私は大丈夫なのでと言っていたがどうみても限界だし、他国勇者と夜戦するつもりもない。





「どうぞ、レイム姫」


「ありがとうございます、シャゼル様」


 野営の準備を終え、シャゼルが作ったスープで腹ごしらえする。


「この感じ懐かしいな」


「そうですね」


 俺の一言にシャゼルが返す。


「以前もこういった旅をされていたのですか?」


「俺が魔王になりたてのころだったか?」


「はい、鬼人族と契約するため私と二人で旅に出たのです」


 あの時はまだ角も伸び始めのころで飛ぶことができなかったから馬で移動したんだよな。


「リドウが契約した方はシャゼル様のほかにどんな方たちなのですか?」


「説明しても?」


 シャゼルがこちらに確認してくる。そういえば姫にはまだ話してなかったな。 主従契約まで結んでいるのに。


「ああ、問題ない。姫も主従契約を行っている仲間だ」


「それでは…。二番目に契約したのが先ほどの話で出てきました鬼人族のレグリアです」



 レグリアは赤みがかった肌と額に角を生やしているがかなり人間みたいな見た目をしている。



「ちなみに一番目はこの私です」


 めずらしく誇らしげに大きい胸を張っているシャゼル。


「すごいです!」


 姫はいい子だなー。


「三番目に契約したのが龍人のガリウス。彼と契約したことにより魔王様は空を飛べるようになりました」


「えぇ!リドウは空を飛べるんですか?」


 驚いてるなー、まあ今は飛べないんだが。


「私も空を自由に飛んでみたいです」


 星が輝く夜空を見上げてつぶやく姫。うん、飛べるようになったら姫と空のデートだな。


「ふふ、では後で私と一緒に飛びますか?」


「ええ!いいんですか?」


「いや!それはだめだ!」


「ええ!」


「ほら!夜は危ないし、危険だ!」


「魔王様…頭痛が痛いみたいなことを…」


 けちです!姫から言われたり、シャゼルからの冷たい視線に耐える。


「それでは空を飛ぶのはまた今度にしましょう」


 よし、なんとか飛ばせない方向へ持っていったぞ。


「ほら、あれだ。四番目のやつはすごいぞ」


 強引に話をそらす。


「そうですね、四番目の方は元人間の王であり、強さを求め魔大陸で一人修行に励み続けている方。リゼオン様です」


 うん、元は英雄王などと呼ばれていたらしいが本人はただ強くなり強いものと戦いたいだけだったみたいで俺と定期的に手合わせできるならと契約に応じてくれた。


 他にも魔剣、魔装と契約しているがこちらは距離による強化や弱体はない契約だ。こちらで使うにはやはり召喚しなければいけないが。


 姫に配下のことを一通り説明した。見張りを俺とシャゼルで交互に行い姫には休んでもらった。


 明日のことを考えると姫には少しでも回復してもらわねば。


 悪勇者が手練れじゃないことを祈ろう。

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