ギャンブルの街
一晩しっかり休んだ俺たちは臣下に見つからないように朝早いうちに王城を抜け出していた。
「武器が欲しいんだが何かあてはないか?姫」
「すみません、私は日頃からあまり外出もさせてもらえなかったものですから。ですが私の手持ちのお金は全て持ってきましたよ!」
「魔王様、ここはレイム姫に甘えて装備と当面の食糧や旅に必要なものを揃えるべきかと」
「ああ、すまないな姫、甘えさせてもらう」
「はい!」
それから道具屋で必要なものや食糧など最低限必要なものを購入してやっと見つかった武器屋に入った。
「…た、高すぎです」
この世界のお金についてはよくわからないので姫に任せている。
ずいぶん姫が驚いている。金額が高すぎるみたいだな。
「おう、姉ちゃん達。冷やかしかい?」
「ち、違います!これで買える武器はありますでしょうか?」
店主らしき男が顔をしかめながらこちらに近寄ってくる。
姫がお金の入った袋を差し出す。
「姉ちゃん、ここは王都だぞ?ここいらではこれっぽっちで手に入る武器はねえな」
袋の中を見て突き返す店主。
「そんな!どうしても必要なんです!」
「そう言われてもおいらにはどうしようもないな」
「そんなぁ」
姫の眉が下がっていく。うん、可愛い。
「おっふ」
店主もやられたか?姫の可愛さに。
「そんな顔されてもなぁ。うーん。王都じゃ無理だろうがラクルでなら」
「ラクル?あのギャンブルの街、ラクルですか?」
「あぁ、ラクルの町はずれの高台にギャンブル好きのじいさんがいてな。すごく腕の立つ鍛冶屋だそうだ」
「その方なら手持ちのお金でもいけるんですか!?」
姫が食い気味に問いかける。
「い、いや、その爺さんは変わり者で本当に必要な者にしか武器は与えないそうなんだが。もしもお前さん達が本当に必要なものと認められたなら材料費くらいで武器をくれんじゃないか?」
「ありがとうございます!ラクルの高台のお爺さんですね!」
一部始終期見ていたが姫の嬉しそうな顔を見ながら武器屋の主人が言っていた説明と同じ内容の話を姫から聞く。
「武器以外は揃いました。王都で武器が調達できないのであればそちらに行くのもよいかと思います」
「そうだな、ラクルは道中で寄れるか?」
「はい、むしろラクルを経由して火山へと思っていたのです」
「じゃあ決定だな」
ラクル往きの馬車に揺られる。
「こちらも移動のメインは馬車なんだな」
「比較的、私たちがいた世界と似たような文明みたいですね」
姫は朝が早かったからか寝ている。
「どうだ?時空魔法は使えるくらい回復しているか?」
「まだ…ですね。あと数日もらえれば回復するかと」
「そうか、手を出せ」
「はい」
シャゼルの手を握り魔力を込める。
「よろしいのですか?」
「あぁ、ダークタイムによる制限中だから魔法は使えないからな」
「ですが、魔力による肉体の直接強化は?」
「あー、俺はほら凄く苦手だったろ?」
「まさか…初歩の初歩ですよ魔王様?まだ使えないのですか?」
薄目で責めるようにこちらを見てくる。
勇者だったころは魔法などなにも教えてもらえず、魔王になってからメイド長であるシャゼルに色々教えてもらったのだ。しかし俺は魔力コントロールの才能は皆無に近く、基本的にぶっ放す系の魔法だったりが得意だ。
「いや、何度か練習はしたんだがな。肉体に魔力を込めるたびに骨が折れたり、筋が切れたりと…」
「魔王様は魔力量も桁違いでしたからね。繊細なコントロールさえ覚えたらより強くなれますのに…」
「うん、これ以上必要ないってくらい強かったからな。今となってはやっておけばよかったが…」
シャゼル含む吸血鬼は魔力コントロールがずば抜けている。一族で一番魔力の扱いに長けているシャゼルからすれば出来ない感覚がないからな、教えようもなかったんだと思う。
「魔王様、今からでも遅くないかと」
「そうだな、ちょうど魔法も使えないことだしな。毎晩寝る前にでも練習しておくか」
「それがよろしいかと」
といっても練習で骨が折れたり筋が切れたんじゃ話にならないが。
シャゼルと話していると姫が声をあげながらパッと起き上がる。
「もう一度キスしてくれだなんて!恥ずかしいですー!」
ひとしきり叫んだあと、目を開けキョトンとしている。
きょろきょろとあたりを見回す姫。
「…あ、あの。私、夢で」
みるみる顔が赤くなっていく。恥ずかしいだけで頼めばキスしてくれるんだろうか?
「うぅ…シャゼル様」
「よしよし」
あまりの恥ずかしさに耐えきれずシャゼルの胸元へ顔を隠す姫。それを撫でるシャゼル。
平和に慣れたかこの頃は感情も取り戻してきたな。ニヤニヤが止まらない。
「お客さん、もうすぐつきますよ」
馬車はラクルへ到着。街中の馬車乗り場みたいなところに降ろしてくれた。
「ここがラクルか」
中心はきらびやかで外に行くほど露店が立ち並んでいる。中心に行くとカジノでもあるのだろうか?
「街の中心部にカジノがあるみたいですね!」
「魔王様、だめですよ。鍛冶師の元へ行かないと」
「わかってるさ」
うるさいメイドだ。
街の人間に聞き込んだところ外れの高台を指さされてやってきた。
「魔王様、扉になにやら文字が…」
「姫、読んでくれ」
「はい、えーっと。用がある人はカジノへ…だそうです!」
そういえば武器屋の主人が言っていたな、ギャンブル好きだって。
「では二度手間になりましたがカジノへ行きましょう」
「はい!」
鍛冶師にすんなり気に入られるといいが、駄目だった場合はカジノで稼ぐとしよう。
好きな女の金でギャンブルか…。それだけは嫌だな。
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