主従契約
さて、ここが王家の祠だな。
じめじめとしているがどこか聖なるオーラを感じる階層を下っていき大きな広場に出てきた。
「リドウ、本当にそんな装備で大丈夫なのですか?」
「ああ、とりあえず戦ってみないとだしな。俺の今の実力を知っておかないと」
「そんな装備でもリーダー兵クラスのあなたに与えるのは苦労したんですよ」
レイム姫が俺の後ろを歩いている。王女であるレイム姫を連れ出すのはかなり苦労したが、そこは端折らせてもらう。まぁ臣下たちが騒ぎたてたってくらいなんだが。
俺が弱いせいでかなり姫も反対されたみたいだが王家の魔道具を使ったことを口外しない約束で無理を通してもらった。
「そういえばレイム姫は戦えたりするのか?
「いいえ、全く戦えません。私の能力レベルは200ほどです!」
続けてあてにしないでくださいね、とにこやかに言い放つ。てっきり前の時みたいに僧侶的なポジションかと思ったがそれも期待できないみたいだ。うん、全然かまわない。可愛いからマスコット的な感じでやる気もあがるしな。
「あそこです!あの扉の奥に強力な魔物がいます!」
「わかった。レイム姫は扉の前で待機しててくれ」
「無理そうだったら諦めてくださいねっ!」
そうだよな、俺が死んだら姫も死んでしまうわけで。
これは絶対死ねないな。
強く決意し扉の奥へ進む。姫は扉から覗いているみたいだ。
「ギシャァァアッッ!!」
中に入ると俺を一飲みできてしまうサイズの口を広げてでかい蛇型の魔物が威嚇してきた。
いきなり襲いかかってくる。
「くっ!」
すぐさま剣を引き抜き体当たりを受けるも吹き飛ばされる。
「大丈夫ですか?」
姫が待機する扉の近くまで吹き飛ばされたみたいだ。
心配の言葉をかけられる。可愛い顔で心配そうにこちらを見ている。
「全然!大丈夫!」
嘘だ、一発でかなりのダメージである。でも、攻撃くらいしとかないとな。
扉付近でやりあっては姫が危ないため奥へ走りながら剣を構える。
「これでも食らえ!」
突き刺すように大蛇に向けて剣とともに体当たりをする。
ギィン!と音が鳴り響く。
大蛇の体に突き刺さった刃。俺の手には刀身が折れた剣。
「ギシャァァア!!」
痛みで鳴いているのか怒っているのか。
俺の攻撃手段はなくなったわけだな…よし、逃げよう。
「ぐあぁ!」
背を向け姫の待つ扉へ一目散に逃げようとした。背後から初撃と同じ体当たりを食らう。
「リドウ!大丈夫ですか!」
ラッキーなことに扉を抜け、ずいぶんと奥まで吹き飛ばされたようで姫が小走りで駆け寄ってくる。
「ごほっ、だ、いじょうぶ!」
少しばかり内臓にダメージを負ったのか血を口から吐き出す。あの経験から痛みには慣れているので大したことはない。
姫の中では俺は嘘つき妄言リーダー兵なわけだが、そんな俺に心配そうに声をかけてくれる。本当に優しい人間なのだろう。
「っ!リドウ!」
ドゴンッ!と地鳴りと衝撃が伝わり、姫が驚き扉の方を見る。
「ああ、大蛇のやつ扉を破ろうとしてるな、」
扉はサイズ的に乗り越えてこられないが壁ごと破ろうと体当たりを繰り返している。
「よし、レイム姫。逃げよう。」
身体はボロボロだし、姫を危険な目にあわせるわけにもいかなし。
「そんな!あの扉から出てきたのならすぐにでも外に飛び出してしまいます!すぐ近くにはリドウを召喚した王都があります!もし王都に大蛇が向かえばたくさんの方に被害が出ます…ここで食い止めなければ!」
一国の姫である以上、後ろに民がいるなら逃げることはできないってことか。
「すまない!」
「きゃっ!」
そうは言っても今は勝算が薄いしな。姫を抱え、ボロボロの身体に鞭を打ち走り出す。
「リドウ!おろしてください!」
身体がボロボロでも姫を抱えてる幸せが勝っている。おろしてと少し暴れているが無視だ。
「リドウ!あなたは異世界の魔王なのですよね?お願いです!なんとかあの魔物を倒せないでしょうか?」
うん、倒せないから逃げているわけでだな。
「私の、兵は先の戦いで魔王軍を相手に全滅しました!私が頼れるのはあなたしかいないのです!」
俺しか頼れないってのはいい響きだな。
「お願い!リドウ!」
姫が一筋、涙を流して懇願する。
うん、姫が泣くならもう一回頑張ってみるか。それに大蛇が出てくる原因を作ったのは俺なわけで…。
立ち止まり姫を優しくおろす。
「俺の見立てが甘いせいだしな、やるだけやってみるよ」
「リドウ、私も戦います!どうかあなたの力を!」
「うん、姫は戦わなくていい。そのかわり俺と主従契約してくれないか?」
「主従契約?」
だんだん扉側の壁にひびがはいっているのが遠目で分かる。
「ああ、ほら配下と契約していたと言っていたやつだ。俺しか頼れないなら一度でいい、信じてみてくれ。そうすれば主従契約ができる」
続けて口を開く。
「今の俺はフルパワーの状態からみると2~3%だ。でも姫が信じてくれるなら今の倍くらいには強くなれると思う。」
倍強くなっても普通には倒せそうにはない。でも俺は魔王にしか使えない闇魔法を使える。
「わかりました。この魔道具は言わば一心同体、あなたが死ねば私も死にます。それにこの危機を乗り越えられるのなら…リドウ、あなたを信じます」
可愛い顔を凛々しくして俺をまっすぐ見つめる。うん、少し照れるかな。
俺が姫に見とれていると、ひと際大きく衝撃音がして壁がくずれる。
「ギシャァァア!!」
大蛇が壁を突破したようだ。
「時間がない、主従契約だ!」
「どっ、どうすれば!?」
「俺に口をつけ心の中で忠誠を誓うんだ!」
「くくく、口!?そんなのできな!」
「いいから!早く!」
そう、主従契約は従者側が俺の同意のもと手の甲なりに口を付け忠誠を誓うと契約となる。
4人の部下が世界単位で離れているマイナスをどうせ離れられない姫と契約すれば少しはマイナスを打ち消せるだろう。
「わかりました!すればいいんでしょ!」
俺は手を差し出す。早くしないと大蛇が来てしまう。
「っ!!」
姫は俺の手をつかみ俺を引き寄せると口と口をあてて、てて、こ、これはつまりキス?
主従契約が結ばれ光に包まれる。
「これでいいんですよね!ここまでしたんですから絶対なんとかしてくださぁい!」
唇を離し、姫は少し怒り口調で俺の背中に周り後ろから押してくる。
主従契約が終わり光が収まる。
うん、なんだかよくわからんが最高に気分がいい。
「うぉおおおおおお!」
姫に押されるまま走り出し身体能力を確認する。
「キシャッ!」
大蛇が再び体当たりしてくる。
「ぅおおおっと!」
よし、ぎりぎり躱せるくらいには能力が戻ってる。これなら闇魔法デスファイアを打てる。デスファイアは込める魔力量次第で威力が決まる。先ほどまでが魔力600だとしたら今は1000くらいだろうか。
再び体当たりしてきた大蛇を躱し、右手に魔力を込める。
「レイム姫!死なない程度に離れておいてくれ!」
「わかりました!」
顔が赤いままの姫が離れていく。うん、後ろ姿までタイプだな、キスされたから高ぶっているのかもしれないが。
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