配下召喚

 大蛇の攻撃をよけることは可能だが問題は攻撃だ。魔法をそのまま放った場合は仕留めきれるかわからない。できれば内側にしっかりダメージが通るように魔法を使いたい。 


 かなり難しいと思うが、先ほど突き刺した剣にこの柄だけの剣でさらに奥まで突き刺し肉の裂け目から腕を突っ込み魔法を放つ。うん、これが決まれば勝てるだろう。



「いくぞおおおおおお!」



 壁を背にして大蛇の攻撃をよけ、壁に激突しひるんでいる隙に行動に移す。

この角度ならいける!



「ギジャアアアアア!!!!」



 突き刺さった刀身を押し込むことに成功する。それと同時に衝撃すら生みそうな咆哮をあげる大蛇。

このまま魔法を打ち込んで終わりだ。



「うぉっと!」



 体をうねらせ大暴れする大蛇。しかしすぐにうなだれる。が、死んではいないだろう。

そんなにダメージは与えてない。



「やりましたね、リドウ!」



 崩れた壁の瓦礫に身を隠していた姫がひょこっと出てきて俺に笑顔を向ける。可愛いがそんな場合ではない。



「レイム!まだ死んでない!」


「えっ」


「キシャアアアア!」



 俺と姫の間にうなだれていた大蛇が身を起こし姫にロックオン、大きな口を開き姫に迫る。

間に合え!



「キャアアアア!」


「ぐぅ!!」



 迫りくる大蛇の顎、叫ぶ姫。うん、間に合ったぞ。



「あぁ…リドウ、私…ごめんなさ…」

「全然、だいじょ、ぶだ」



 姫を突き飛ばし右肩から先を大蛇の牙に貫かれる俺を見て姫は言葉が出ない。

ちなみに久々に痛みを感じてる。腕はギリギリ繋がっている。


 まあ、これでもいいと思ってた。いや、これが確実だったかもしれない。



「姫、なんとか俺の勝ちみたいだ」


「え…」


「デス・ファイア!!!」




 全魔力を乗せた漆黒の炎、フルパワーの時からは考えられないほど弱い出力だが口からなら、内側からならよほど効くだろう。



「――――!!!」



 声にならない呻き声をあげながらびたんびたんと跳ねる大蛇。それから数秒して絶命した。


 こちらの魔物は絶命すると灰になり消えるみたいだな。シューと音を立てながら消えていった。




「リドウ!!ごめんなさい!私のせいで!」


「どうだ、信じてよかったか?」



 口、腕、肩からダラダラと血を流してたんじゃ恰好もつかないか?



「ありが、とう、ございまっす、うぅ」



 涙を流しながら倒れた俺の頭を抱えながらお礼を口にする姫。



「あなたを信じて、よかった!」



 うーん、すごいマッチポンプ感がぬぐえないが…。まあ部下を召喚してサクッとこちらの世界を平和にすればこれも必要だったということで、だな。


 ついでに魔王を倒したら姫を娶ろう。うん、決めた。



「姫、魔石をこちらにもってきてくれ、そろそろやばいから配下のうち回復魔法が得意なやつを呼ぶ」


「あ、はい!」



 俺の拳大ほどの紫がかった石をこちらに持ってくる姫。



「これが魔石か」


「はい、リドウを召喚したものより一回り小さいですがどうでしょう?」


「うん、大丈夫そうだ」



 右手は動かないので左手で受け取り召喚を始める。


 本来なら配下最強である黒騎士リゼオンを召喚したいところだが今はメイド長シャゼルだ。じゃないと死んでしまう。



「来い!シャゼル!!」



 詠唱を終えシャゼルの召喚に臨む。地面に魔法陣が浮かび上がり光が強まる。



「ここは…?」



 光が収まると銀髪に赤い瞳、長身の女がバスタオル1枚の姿で立っている。


 間違いない、メイド長シャゼルだ。



「あれ、お肌のケアをしていたはずが…」


「あー、シャゼル。俺だ俺」



 無事な左手をひらひらして声をかける。



「リドウ!あなた、自分の配下になんて恰好を!!」



 横では姫が変態です!などと憤ってる。シャゼルがこちらに気づき頭を下げる。



「魔王様!そのお姿は!?…昨日から気配を感じないと思っていたのですがここは?」


「うん、それはあとだ。とりあえず助けて…く、れ」



「魔王様!!」

「リドウ!!」



 大蛇を倒した。姫の涙に応えたし配下の召喚も成功した。久々に疲れた。うん、あとは姫とシャゼルに任せて今は寝るとしよう。













「おはようございます。魔王様」


「ああ、おはよう」



 目が覚めるとシャゼルが水を持ってくる。いつものことだがいつもの場所ではない。ここはどこだ?



「こちらはレイム姫が住まう王城の客室でございます」



 あたりを見回しているとシャゼルが察して説明を入れる。



「あれからどうなった?」


「はい、その後の説明をさせて頂きます」



 俺の回復を終え姫とともに王都へ帰還。道中で今までの成り行きを把握したそうだ。俺が目を覚ますまで1週間経っているそうだ。なんでも



「魔王様の角がないためだと思われるのですが普段の10%ほどの力しか出せません。それもあり魔王様の回復にお時間かかりました」



 だそうだ。角がないと言われるとなんか傷つくな。


 しかし先ほどこめかみに小さな突起、魔王になりたてのころくらいの角が生えているのを確認した。たぶんシャゼルが近くにいて能力が解放されたからだろう。今でどのくらいの力が戻ったか測定しなくては。



「それで姫は?」


「姫様は今臣下たちと交渉中です。一度の戦いで一週間も寝たきりの男に勇者など務まるわけがないとかなり責め立てられておりまして」



 ごもっともだが魔石持ちの魔物を倒したんだ。そのくらいは仕方ないってもんだろ。



「レイム姫はあなたしか勇者になりえないと、強く反発しておられるようで」



 なんでも臣下たちは王様に俺の勇者認定はするなと進言しているらしい。勇者認定されないと旅の資金も装備の援助も仲間などのバックアップもなしとのこと。



「うん、そんなものなくても俺なら大丈夫だよな?」


「はっ」



 頭を下げるシャゼルが続けて口を開く。



「恐れながら、今の状態ではそれも厳しいかと」


「続けろ」


「魔王様が倒した大蛇の魔物ですが、臣下たちいわく王家の祠という魔力あふれる環境下で育ち魔力を蓄えたため魔石持ちになったのであって、強い魔物だから魔石持ちというわけではないとの見解でした」


「うんうん」


「魔王様は今後、配下を召喚していかなければこの世界の魔王を倒すことは叶わないかと」


「だろうな」


「私を召喚して多少能力が上がったとはいえ、私の見立てではフルパワーの10%程度かと思われます」


「うん、そのくらいだろうな。でも次はシャゼル。お前もいるし大丈夫だと思う」


「魔石持ちはあの大蛇の三倍は強いとおっしゃっていました」



 さ、三倍かぁ。



「リゼオン様を召喚するにはさらに強力な魔物の魔石が必要だと思われます」



 いろいろと現実突きつけてくるよなぁ、こいつはいつも。


 俺が根性論で突っぱねようとしたその時。



「大変です!町にドラゴンが!!」



 勢いよく扉を開き、焦り顔の姫がそういった。ドラゴンっていうとあっちの世界では結構強かったな。

うん、焦り顔も可愛い!


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