勇者召喚

 俺は夢の中にいるんだろうか、魔王になり絶大な力と屈強な部下を手に入れ、世界すら統一したこの俺が召喚なんてされるのだろうか、いや本来の召喚魔法は己の魔力の5倍といった力を持つものまでしか召喚できないはず…だが。


 前回の召喚魔法では奴属魔法がセットだった、確か契約には名前が必要だったはず。名前だけは言ってはいけないな。



「あなたの名前はなんですか!」



 目の前の女、信じられないほど俺のタイプだ。綺麗な金の色をした長髪に蒼色の瞳、胸は小さいがちょうどいい!い、いや絶対に名前は教えないぞ。



「あの…お名前を…」



可愛いよりの綺麗な顔がだんだんと困り顔へ変わっていく。なんて胸が苦しめられるんだ。こんな可愛い女が罠なんてあるわけがないな。うん、教えるぞ!



「俺の名はリドウ!あんたは?」


「リドウさんですね!よーし、この魔道具をポチッと」



 目の前の女は俺の問いかけには答えずゴソゴソとリング状の何かを取り出し何かをし始めるとリングが輝き出す。



 「対象!リドウ!」



女の持つリングが一直線に俺の首に巻きつく。



 「ぐげっ!」



 リングは俺の首に巻きつき、一瞬強く締め付けたがすぐに緩み程よくフィットする。



「これは?」


「それは主従の輪、あなたに危険がないとわかるまで装着させていただきます!」



 つまり…またやられたってことか!?なんてバカなんだ俺は。

まあ今更こんなもの俺に効きはしないがな。



「ふっ、俺は異世界の魔王、リドウだ、女よこんなもので俺を従えられると思うなよ!」



 首に巻きついているリングを両手で持つ。そのまま魔力を流しこみ一気に破壊しようとした時。



 「なんてこと!異世界の魔王を召喚してしまうだなんて、このままでは世界が大変なことに…」



 この世界に興味はないが従う理由もないので一気に力を込める。



「はああああっ!」



うーん、全然ビクともしない。というよりなぜかいつもより全然力も入らないし魔力も込められない。



「魔道具が破壊されてしまう!もうあれを使うしか!」



 女が慌てているが気にせず続ける。なにか言っているが気にしない、なによりあんなこと言った手前早く壊さないと格好がつかない。



「代々、王家に引き継がれし秘宝。この伝説の拘束魔道具で!やー!」



 ブツブツと呟いていた女は俺に向かって身につけていたペンダントを投げつける。


 ペンダントが砕け、目が眩むほどの光に包まれる。首のリングは無くなっていたが代わりに腕輪が装着されていた。



「成功、しました!」



 そういう女の手首にも俺と同じ腕輪が付いていた。



「これは?」


「はい、これは王家に引き継がれし秘宝!対象者と使用した王家の間に呪いを施し拘束する魔道具です」



 ホッとした顔で説明し始める。うん、可愛い。



「呪い?」


「簡単に言えばですね、私が死ぬと貴方は死にます。私から1km以上離れると貴方は死にます。まあ貴方が死ぬと私も死ぬんですが」



 つまり俺が魔王だから自分を犠牲によくわからない拘束魔道具を使ったわけか。うん、降参しよう。



「すまない、調子に乗ったみたいだ。こちらの世界に興味はないので元の世界に帰してほしい」


「ごめんなさい、それはできません」


「なぜだ?」


「異世界とはいえ魔王、私の身一つで留めておけるのであれば異世界の方も喜ばれることでしょう」



 なんて優しい心の持ち主なんだ…って、そうじゃない。俺は既に世界を平和に統治していることを伝えねば。



「なにか勘違いがあるようだ、俺は魔王といってもいい魔王なんだ!」


「いい魔王ってなんですか?」


「俺は人間を統治し世界を平和にした魔王!争いは好まない!」


「すみません、そもそもあなた本当に魔王なのですか?見た目は人間にしか見えないのですが」


「何をいうこの立派な角二本が見えないのか?」


「…角?」



 不思議そうにする女、自分の角を触ろうと空を切る俺の手。

俺の角がないんだが、これはどういうことだ!



「すまない、角がなくなっている」


「角ってなくなるものなんですか?」



 冷ややかな視線を感じる。



「私、早とちりしちゃって一般の方に伝説の魔道具を…」



 きっと俺のことを妄言はく痛いやつだと思っているに違いない。



「この世界に魔力測定オーブはあるか?」



 首をかしげるので俺の世界で魔力値を測定する魔道具だと説明する。



「ちょうどよかったです!召喚した勇者の能力値を測定しようとレベル測定の魔道具を持ってきています。これは総合力を数字として出してくれるんです。平均は一般兵で500ほどでしょうか」



 板状のものをこちらに向けてくる。手の形をした模様があるのでそちらに手を置けばいいのだろうか?



「女、俺の魔王としての力を見せてやろうではないか」


「女ではありません!私の名前はレイムです。レイム姫と呼んでください」


「じゃあ俺のことはリドウ大魔王様で」


「結果次第に致します」



 手を乗せるよう促される。



「600…ですね」


「おい、平均より100上だぞ、これはどうだ!かなりすごいのか?」


「一般兵のリーダークラスです…」


「…」


「では期待外れなのでリドウと呼びますね」


「ちょっとまったぁ!」



 なぜ?俺は三代目にして世界統治を成した最強の魔王だぞ。待てよ、うん、やっぱりだ。


 契約を交わした部下とのリンクが切れている。


 俺はメイド長を含め4人のリーダーと契約をした。この契約は俺のそばにいると配下の強さが俺の魔力に比例して強化され、配下が離れれば俺の力が距離に応じて弱体化していくというもの。


 うん、今異世界だからね、とんでもなく離れるから。しかも4人とも。



「これには訳があってだな…」



 俺は自分の契約内容と部下についてレイム姫に説明をした。



「うーん、にわかには信じがたいのですが、もし本当のお話しだとして、主従契約をしているなら召喚すれば応じるのではないですか?」


「それだ!よし、召喚魔法で…いや魔力が足りない」



 そもそも力の象徴たる角が全く生えていないわけで、自分の残存魔力を感じとると全く足りない。うん、フルパワー時の2~3%ほどしかない。


 4人の部下全員俺から世界単位で離れているためとんでもない弱体化を受けているようだ。

これをなんとかするには全員、こちらに召喚しないとならない。


 召喚しないと弱体化したまま、召喚するにはかなりの魔力が必要で、魔力を使うには部下が近くにいないと…。



「レイム姫、こちらには魔力を蓄積する石、魔石はないだろうか?」


「あります」


「では、それを!」


「ありますが、基本的にはかなりのレベルの魔物の体内で生成される石でして、とても貴重で召喚魔法用となるとリドウを召喚する時に使ったものが国内最後のものでして…」


「では魔物を倒すしかないのだな」


「しかしリドウ、あなたが倒せるとはとても…」


 レイム姫が続ける。


「それに魔石があったとしても渡せません」


「それはなぜだ?」


「この世界では年々魔王軍の勢力が強まり、私たち人間は現在食い止めることで手一杯、いつ拮抗が崩れてもおかしくありません。そんな中貴重な魔石を使い勇者召喚を行ったのです…」



 つまり一般兵リーダー級が召喚されて期待外れ、魔石があるならもう一度勇者召喚を行っていると言いたいわけだ。



「よし、わかった。なら俺がこの世界の魔王を倒そうじゃないか」


「それを信じるとでも思いますか?」


「信じさせてみせるさ、魔石を生成していそうな魔物に心当たりはないのか?」


「…代々王家に伝わる祠の奥でとても大きな蛇型の魔物が住み着いています。」


「その魔物を倒すぞ、そして俺の話が真実だったことを証明する!」



 とは言ったもののどうしたものか、俺が使える魔法は闇魔法。魔王になり覚えたもので一番弱いものでも今の魔力では少し足りない。


 能力の弱さは今までの魔王としての経験でカバーするほかあるまい。

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