魔王になるまで

 瓦礫に横たわり目をつむる。この世界に来てからを振り返るも全くいい思い出はない。ここで死んだらそのまま終わるのか元の世界に帰れるのだろうか?どちらでもいいが、などと考えているとコツコツと足音が近づく。




「…魔王様」




 声が聞こえてきたのでそちらを振り向くと黒髪のメイド服の女が立っていた。魔王は倒したんだけどな、部下だろうか。悪いけど俺は今から終わるところなんだ。



「…3代目魔王様、お初にお目にかかります。魔王城の取り仕切りをさせていただいております。メイド長のシャゼルと申します」



 シャゼルと名乗ったメイドは俺に頭を下げる。



「魔王なら俺が倒したが何を言っている?」


「そうです。あなた様が2代目魔王様を倒したので3代目魔王様になります」



 言っている意味がわからない、つまり魔王を倒したら魔王?



「あなた様の頭、ちょうどこめかみの上ぐらいでしょうか、小さな突起ができていると思います」



 こめかみのあたりを触ると確かに何か硬い突起がある。



「それは角です。魔王を倒したものへ継承される魔王たる証」



 メイドは続け様に口を開く。



「魔王という存在は強くなくてはなりません。初代様が自分を倒したものへ魔王である証、つまり角を継承するよう自身へ呪いをかけたのです。」



 なるほど、だが魔王をやる意味も理由もない。自害でもなんでもいい。終わりたい。



「悪いがメイド、俺は疲れた。もう終わらせたいんだ」


 メイドは悲しそうな顔をして言葉を返してくる。


「やはりあなた様も2代目様と同じなのですね」


「どういうことだ」



 説明します、と続ける。



「2代目様も元は聖王国に召喚された勇者でした」



 驚くがそのまま話を聞く。



「2代目様は召喚されてから奴属の魔法を使われ復活する度強くなるという勇者の特性に目をつけた当時の王女から何千回と殺され、初代様を討ったと話していました」



 そこも全く一緒だな。



「そして角を継承してから何度も死を選ぼうとしたみたいなのですが自ら手を下すことはできなかったそうです。それが呪いのせいなのかはわかりませんが」



 つまり俺はまたしても死なないってことか?



「二代目様は聖王国への恨みと、自分と同じ末路を辿る勇者が現れて欲しくない一心で人間を管理できるように魔王軍を使い侵攻させました」



 つまり間に合わなかったということか、俺という存在を生み出さないために侵略していたんだな。



「どうか2代目様の意思を引き継ぎ、争いのない世界にしてください。2代目はあなた様が召喚されぬよう手を尽くしてきましたが叶わず、どうか3代目でこの世界を統一してほしいと戦いの前に私に伝言を残されました」



 随分と勝手なお願いだな。俺は死ぬ気満々だったというのに。

終わりたい一心でここまでやってきたが、確かに俺をあんな目にあわせた奴らへ復讐したい気持ちもある。俺と同じ目に合うやつが出てくるかもと思うとそれは阻止したい。



「シャゼル、だったか。俺が3代目だってことは分かった。俺はこれからどうすればいいんだ?」



「魔王様、まずは3代目としての周知、魔大陸に住む各種族のもとに趣き、魔王だと認められる必要があります!それから新生魔王軍を設立し人間国へ攻め込むのです!」



 またしても死ぬことができないみたいなのでやれるところまではやってみよう。無理なら2代目と同じように次代に任せるとしよう。



「まずは魔王城を取り仕切る私どもメイドの代表としてこの私と契約して頂きます」



「契約というとなんだ?」



 説明致しますとシャゼルが続ける。



「2代目様は4種族と契約しておられました。それがあなたが討った四天王になります。1種族と契約するごと魔王様の力、魔力が強まります。初代様は3種族と契約していたみたいです」



 話を聞くに魔大陸にいる種族は全部で8種族。

全種族でなくとも最低3種族との契約をしていただきたいと言っていた。契約の方法は自分に心からの忠誠があり相手の額に魔力を流し魔王配下である印、魔王印を刻印するのが契約らしい。


 出会ったばかりで、以前の主である2代目を倒した俺に忠誠なのか沸くのか疑問であったが彼女たちの種族は魔王という存在、この角に忠誠を誓っており問題なく魔王印を刻印した。


 それからは各種族代表の忠誠を得るため各地を回った、結果としてメイド長含め4種族との契約を行った。


 その後、人間たちの統治だが拍子抜けなほど簡単にいった。


 聖王国の王族の血は絶え、勇者召喚を行うための文献もこちらで預かり俺と同じような目にあうやつは二度と出てこないように手を打った。


 なんなら魔王印を刻印する方が大変だった、本当にどの種族代表も癖が強く、手間も時間もかかったがそれらの話はまたいつか。





 さて、以上が俺の成り立ちである。人間を統治した後は魔王城でのんびりスローライフを送りメイド達に甘やかされてはメイド長に怒られるといった日々を過ごしていた。



 思わず過去を思い出してしまったがそれには理由がある。

以前召喚されたときと全く同じ光が輝き俺の視界が回り気づけば全く身に覚えのない場所にいたからである。


 混乱して長く思慮にふけっていたが先ほどから足音が近づいてくる。


やはりといか召喚用であろう魔法陣が足元で明暗している。


目の前にはドレスに身を包んだ女が成功しました、と呟き、続け様に口を開きこう言った。




「私はこの国の姫、あなたを我が国の勇者として召喚しました!」





 勇者…?つまり2度目の勇者召喚…?嘘だと言ってくれ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る