魔王様は再び勇者召喚されたみたいです。

@arch_love

始まり

 俺の名はリドウ。魔王リドウとしてこの世界に名を轟かせている。

元々はなんでもないただの一般人だった。じゃあなんで魔王になっているか、それを話したいと思う。



 ある日の朝、天気がいいので散歩をしていた。いつもの公園のベンチに腰掛け休憩していた時下から光が差し気が付くと周りが暗くなっていた。

 

 気でも失っていたのか?ずいぶん空気が薄く感じるが、公園にいたはず。


 目が暗さに慣れ始めたころ足元がふわっと仄かに光った。魔法陣みたいな紋様が地面から俺の腰あたりまで浮かびあがる。



「…そなたの名を!」



 いきなり甲高い声が響く。声の方向に顔を向けると金色の長髪の神官みたいな恰好の女がこちらに両手をかざし立っている。名前を聞かれたが現状の把握に戸惑いを隠せない。



「ここはどこだ?」


「質問は後にしてもらいますわ、名を聞いています!」



 質問に答えてもらえず、思わず顔をしかめるが名を名乗ることとする。



「俺の名はリドウだ、ここはどこだ!この光ってるものはなんなんだ!」



 名乗るとともに女はぶつぶつ何かを発している、それと同時に紋様の光が強くなり俺を中心に風が吹き荒れる。



「ル・シェント!リドウ!」



 女が力みはじめ、その両手が輝きはじめ何かを叫び俺の名を口にする。



「ぐっ!なんだこれは!」



 光が収まり俺の首に痛みが走ると首輪がついていた。



「ふぅ、うまくいきましたわ。それは奴属の魔法による首輪、これからわたくしの命令を聞いてもらいますわ」


「ふざけるな!これを外せ!」



 魔法だのよくわからないが何かをされたのは違いない。少し口調が荒くなるがいまだに状況も理解できていない。女に近寄ると手をかざされる。



「うぅっ!」



 首輪から電流みたいなものが流れ痛みに声をあげ倒れてしまう。頭がおかしくなりそうなほどの痛みが走り続けている。体を動かそうにも口を動かそうにも指一本動かせない



「静かになさい、わたくしはあなたの主人ですわよ、あわてなくてもこれから説明しますわ」



 俺が痛がる様子をニヤニヤして見ている。



「さて、これくらいでいいかしら」



 女は俺にかざしていた手をおろす。それと同時に電流が消える。なにか聞きたいが先ほどの痛みから声も出せない。



「ここはあなたから見て異世界になります。私は聖王国王女、レリア・レ・ローズ………」



 わたくしが貴方を召喚しました、と続ける。

現在この世界では魔王の力が強まりこのままでは人間が滅ぼされるのも時間の問題となっているそうだ。

そこで100年に一度の勇者召喚を当代の王女が行いともに魔王を討つという伝承から俺を召喚した、と。

名前は奴属契約に必要だったそうだ。


 ひとしきり説明を終わるとふわりと笑みを浮かべ口を開く王女。



「あなたは拒否できる立場ではありません、先ほどの電流は私の任意であなたに浴びせることができますわ」



 あの電流を思い出すと身体が震え始める。あれは二度とごめんだ、しかし戦いなんて俺にできると思えない。



「わかった、あの電流だけは勘弁してくれ。だが俺は今まで戦いなんてしたことがないんだ、役に立てそうもない」



 ニヤニヤしながら王女は口を開く。



「大丈夫ですわ、召喚された勇者は奴属契約されている限り死んでも主人のそばで蘇りますわ。しかも死ぬたびに強くなって!」



 死なんて想像がつかないが俺はこれからいきなり戦場にでも連れていかれるとでもいうのか、恐怖もあるが戦いなんて実感がわかない。



「それじゃつまり戦って死を繰り替えせって…ことか?」

「いいえ、違いますわ」



 俺の質問にかぶせながら否定する王女。

よかった、そうだよな。なにかこれから修行だの勇者の装備だのそういったパワーアップでもあるんだな。



「あなたは今戦っても意味ないほど弱いですわ」


 うんうん


「だから戦うのではなく」


 そうだよな、修行や訓練だな!




「強くなるまでひたすら殺しますわ」






 


 はじめのうちはよかった。ただ首をはねられるだけで痛みは少なかった。飽きてきた王女にいたぶられながら殺されることが増えてからは地獄だった。



 俺の悲鳴やうめき声がお気に召したらしく終始笑顔だった。




 ある日王女が流行り病により高熱で4日ほど寝込んでたらしい、その間俺の存在は忘れられていたのか、

いつもなら一日一回、飯と水の配膳に来るのだがいつまで待っても来なかった。痛みを感じながらの死とは全く別物の苦しみを味わいながら俺は渇きと飢えで死んだ。もちろん死んだら王女の元で復活するのでそこでようやく気付いてもらったのだ。



 不思議なものだ、こんなにキレイな女でも殺したいのだから。



 1日に100回以上殺される日々が20日ほど続いたころ、少しずつ自分の強さが上がっているのが分かり何度か反撃をした、がダメだった。あの電流を忘れていた。



 手をかざされた途端、身体全体に電流が走りいたぶられていた痛みの何倍もの痛みが身体を襲い、

動くことすらできず殺された。



 反撃したお仕置きか電流を流され殺される、これを繰り返された。6回目で完全に心が折れ泣いて止めてるよう懇願した。もう死への恐怖より電流の恐怖のほうが強い。



 体感100日くらい経ったくらいからだろうか、最初のうちは外で殺されていたので日にちの感覚があったのだが現在はされるがまま 牢屋で殺され続けている。自分でいうのはなんだがもう死ぬのは慣れた。



 ここ最近はどうやれば復活することなく死ねるかを考えている。あと何回死ねば俺は魔王軍と戦えるのだろうか。




 早く戦い、全てを、終わらせたい。




 もう殺されることが日常になり、なぜ殺されているのかわからない。そんな時久しぶりに外に出された。



 訓練場だろうか、何人も兵士が待機している。目の前にかなり体格のいい強面の大男が手錠をかけられたまま連れてこられた。



「リドウ、目の前にいるこの男を倒すことができたらもう殺すのはやめにしますわ」


 

 やっと解放されるのか、すでに死への恐怖は薄れてはいるものの終わりの見えない現状に気が狂いそうになっていた。いやすでに狂っているんだろうか。



「おい、王女さん!こいつを殺せば俺は無罪放免でいいんだよなぁ!」

「口を慎め!」



 大男が低く荒い声で問いかけると兵士の一人がそれに注意を入れると王女がそれを一瞥し、構いませんと一言いれ続ける。



「この男は盗賊団の長であり、聖王国騎士団数十人を一人で相手どったかなりのレベルですわ。期待してますわよリドウ」



 王女がキレイな顔を歪めてにやつきながら言葉を発していた。こいつを殺せばやっとスタートってことだ、長いチュートリアルだ。王女の目くばせにより大男の手錠が外される。



「へっ!やっと自由になれるぜ、悪く思うなよ兄ちゃん!」



 いきなり襲い掛かってくる大男。痛みにはもう慣れているんだ。



何をされても俺はこの腕を振りぬきこいつの顔面に拳を当てる。



戦ったことすらないんだ、恰好なんてつけなくていい!



 ドゴッ!と俺の顔に大男の拳がヒットする。先に食らったが今更痛がるわけもなく、俺も全力を込め拳を振りぬく。



 王女に反撃した時以来の本気攻撃、数百日は経過しているが無気力だった俺には自分の実力なんて確かめようもなかった。


大男の攻撃の時より何倍もの音が響き衝撃と風圧で兵士達はその場で力む。



「これでいいんだよな?」



 俺の拳はしっかりと大男の頭を吹き飛ばしていた。



「素晴らしいですわ、早速魔王軍を滅ぼしましょう!」



 初めて人を殺した感想だ。終われて羨ましい。

こうして俺は僧侶を務める王女、王女が選定した戦士、魔法使いとともに魔王軍の本拠地に向けて出発した。



 特に何事もなく俺は勝ち続けた。

 四天王との闘いで何度か死んだが死んでもすぐに復活して強くなるやつ相手ではさすがに敵わなかったのだろう。全員この拳で殺した。



 もしかして今なら王女に反撃しても勝てるかもしれないと何度かよぎる。それと一緒に電流の痛みも思い出し留まる。



 何週間か魔王軍の本拠地である魔大陸とやらを探索した。魔王城を発見した時は嬉しかった。やっとこれで終われるんだって気持ちがあふれてきたからだ。



 魔王城を探索している最中、戦士は罠によって串刺しで死んだ。魔法使いはいきなり襲ってきたキマイラみたいなやつに食い殺された。


 そして魔王戦の最中、魔王は王女ばかり狙っていた。なぜかわからないが守る理由はない。

王女は簡単に死んだ。もう俺は自由だったが意味も分からず戦い続けた。笑いながら戦っていたと思う。



 王女が死んでからはやけにあっさり魔王を倒した、魔王が最後にこんなことを言っていた。




「ありがとう、勇者。そして、おめでとうお前は次の魔王だ。やっと終われる…ありが…とう…」




 意味の分からないことを言って消えていった。




 さて、ずいぶん長かったがこの時の俺は、これで終わったし終われるなんて思ってたな。

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