第16話 鍾乳洞の奥に潜む未知の魔物

 昨日ビッグスが言っていたことが脳裏に浮かんだ。魔物が異様に強化されている、どうやらそれは現実のことらしい。


「ぐ……ぎぎぎ……」


「この声は?」


「まだ生きてるわ!」


「意外としぶといな。しかし!」


 かすかに動いていたレッサーリザードも、俺が棒で叩き潰してとどめをさした。 


「信じられない、まだ生きていたなんて」


「〈剛速球〉でも一撃でやられないとは。豆粒くらいの石しか用意しなかったが、もう少し大きめの石が必要だったか」


「はは、いやなんというか……豆粒の小石であれだけの威力だなんて……」


「それはそうと、あんたら何の用があってこの鍾乳洞まで来たんだ?」


「何って……ギルドで依頼を受けに来たのよ」


「ギルドの依頼?」


「この鍾乳洞を抜けた先は、盆地になっていてね。そこに広がる森に自生するヤドゥークリ草を採取するのが、俺達の目的だったんだ」


 なんてこった。なんとなくそんな予感はしていたが、まさかこいつらも俺と同じだったか。


「……ヤドゥークリ草って、何かの役に立つのか?」


 俺は敢えて知らないふりをして聞いてみた。


「お前、知らないのか? 今流行の“魔怨”を?」


「あぁ、それなら知っているが、それとどういう関係があるんだ?」


「どういう関係もくそも、その“魔怨”を治す特効薬の原料になるんだよ」


「ふーん、そうなのか……」


「最近“魔怨”が王都を中心に流行しているらしいから、その原料となるヤドゥークリ草は需要が増して、ギルドでも依頼が逼迫しているほどだ」


「報酬も高いんでね。それで俺達も、最近はここに来る機会が増えたんだ」


「でもそれも、今日までになっちゃうかも……」


 サマンサが暗い顔をして言った。


「おい、まだ諦めるなよ」


「だって……あなたも見たでしょ!? あんな巨大な怪物、昨日までいなかったのに」


「巨大な怪物?」


 サマンサの顔が一気に険しくなった。


「……わからない。あんな化け物、魔物図鑑にも載ってないもの」


 魔物図鑑とは、この世界に生息する魔物が全て掲載されている図鑑だ。でもそれに載ってないというのか。


「サマンサ、お前は考えすぎだ。アレはキングオークの亜種か何かだ。明日、装備を整えて再挑戦だ。なんならもっと多くの味方を連れて……」


「スネイル。あなたはもう少し慎重になった方がいい、その無鉄砲さで、昨日もキングオークにやられかけたんでしょ?」


「なんだと? 言わせておけば……リーダーはこの俺だぞ!」


「私の知識を侮らないで。あなた達より何倍も勉強しているのよ!」


「あぁ、あぁ! お前ら、落ち着いたらどうだ?」


 こんな鍾乳洞の中で、男女の口論とか聞きたくないな。


「ゴーイチは黙っててくれないか。これは俺達の問題だ」


「だからと言って、こんな場所で口論することもないだろ。それより仲間の傷の回復を、優先させたらどうだ?」


 俺は苦しんでいるローガンを指差した。二人ともそれを見てハッとしたようだ。


「すまねぇ。悪かったよ……」


「それより聞いてなかったわね。ゴーイチこそ、どうしてこんな場所に?」


「俺は……まぁ、実を言うとおたくらと同じ目的だった」


 今更隠してもアレだから、俺は正直に話すことにした。


「まさか俺達と同じだったとはね。だけどお前は運がいいぜ。今のうちに引き返しな」


「おいおい、なんでそんなこと言うんだよ?」


「さっきも言ったでしょ? この先の大広間に巨大な怪物がいるって」


「そいつを倒しちまえば、問題ないんだろう?」


 スネイルとサマンサは二人してかぶりを振った。


「……少なくとも俺達の攻撃はまるで通じなかった。それだけは言っておこう」


「だけど変な奴なのよ。攻撃しても一切反撃しないの……」


「それじゃ楽じゃないのか?」


「攻撃が通じないんじゃ意味がない。とにかくそいつが道を塞いでいるから、倒せない以上通行は不可能なんだ」


「しかも、全身に鎧まで身に着けている。盾も装備していたわ。耐久力も桁違いのはずよ」


「そうかい、情報提供ありがとう。じゃあ、俺が倒すよ」


「おい、ちょっと待て!」


 これ以上スネイル達の話を聞く必要はない。どんな強さかわからない奴は、実際にこの目で確かめるのに越したことはない。


「心配するなって、ヤドゥークリ草はあんたらにも少し分けるさ」


 俺はそう言って鍾乳洞の奥目掛け、突っ走った。三人とも俺を呼び止めていたが、次第に声は届かなくなった。

 三人とも、不安をあおるようなことを言っていたが、俺だってこの先のヤドゥークリ草は必要だ。そうしないとセリナの父を救えないから。


 ここの鍾乳洞内のマップは頭に入っている。やはり二十年前と変わっていないな。そして俺の記憶が正しければ、もう少しで大広間に着くはずだ。


「お? ここか……」


 五分ほど移動して、大きく開けた場所に出た。あの三人も言っていた大広間、かすかに外の空気も感じる。出口も近い。


「あれは!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る