第10話 俺の正体が明らかに!?
憲兵の奴らは固まった。そして今まで向けていた不審者を見るようなまなざしを変えた。
「これは……大変失礼しました! 陛下が特別な待遇の処置を施された人物とは知らずに」
「わかればいいんだ。通してくれるな」
憲兵たちは姿勢を正して、遂に道を開けた。俺もやっと門をくぐれた。
「……なんであんな男があの紙を?」
ぼそっと呟いた憲兵の言葉が俺の耳に入った。
「……知るか。でも間違いなく陛下の直筆だ」
「信じられねぇ。どっからどう見てもこの辺りの者じゃないのに」
「……いや、もしかしたらあの男。例のアレかもしれない」
「例のアレってなんだよ?」
「お前は新人だから知らないんだな。アレだよ……多分、異世界からの来訪者」
「い、異世界!?」
さすがに最後の言葉はデカすぎた。俺が振り向くと、憲兵たちは苦笑いしながら誤魔化した。
「なんでもない。気にするな!」
「……そうか」
俺には〈聴覚強化〉のスキルがある。これのおかげで、さっきのヒソヒソ話も聞こえていた。
俺のことを知っている奴もいるらしい、あれからこっちの世界では十年経っている。十年前の俺の活躍は公に伏せるよう言っておいたのに、やっぱり完全に抑え込むにはむりがあったか。
「……異世界からの来訪者って、嘘だろ?」
まだ憲兵たちのヒソヒソ話が聞こえた。
「本当だ。なんでもその昔、あの邪神竜ディンフォースを打倒したという伝説の英雄……」
「あなたは一部の人の間では有名人なんですよ」
どうやらセリナにも聞こえていたようだ。
「有名になるのは仕方ないとしても、どうして異世界からの来訪者ってことまで知られている?」
「多分士官学校の教官が仕込んだんだと思います。教会出身の方が多いので……」
この世界にはあちこちに教会がある。現実世界にも特定の宗教関連の教会がたくさんあるが、この世界では一神教の宗教で統一されている。
その宗教の神話によると、その昔、神が世界を悪魔を打倒するために異世界から勇者を召喚したという逸話が残されている。その異世界の勇者と俺を同一視しているんだ。
神話の異世界人、俺は元メジャーリーガーという点を除けばいたって普通の人間だけど、こっちの世界の奴らからしたら、異世界出身というだけで神聖視されてしまう。
でもそれは勘弁してほしい。公になってしまうと、俺を勝手に英雄だとか勇者の再来と騒ぎ立てられる。そうなったら、静かに暮らせるどころじゃない。
「もしかして、さっき憲兵に見せようとしなかったのは……」
「国王の特別待遇者だと広まったら、目立ちすぎるからな。できれば避けたかった」
「……でもそれじゃ、その格好も変えた方が」
「む、そうだな」
セリナに言われてハッとした。思えば、こっちの世界に来てから一度も着替えてない。
さっきも不審者に間違われたし、スネイルにも変な目で見られた。この格好じゃ確かに目立つな。
今は夜遅いから、あまり人がいない。だけどこの格好で日中の町を出歩くのはよろしくない、着替えないとな。
「この時間じゃ、服屋も閉まっているな」
「明日の朝一番、私があなたの服を買ってきます。いい店を知っていますから」
「いや、セリナにそんなことさせるわけには……」
「気にしないでください。さっき私を助けてくれたじゃないですか」
「……そうだな。じゃあ、頼んだ」
確かにセリナを助けたのは事実だからな。ここは彼女の言葉に甘えるとするか。
「宿の場所は知ってるんですよね?」
「大丈夫だ。それより聞いていいか? さっき憲兵の奴らにも言っていたが、西の鍾乳洞まで何しに行ってた?」
「あ……それは……」
セリナがとても言いづらそうな顔をしている。この場で詰問するのはよくないかな。
「まぁ、いい。宿に戻ってからゆっくり話すか」
それから十分くらい歩き続け、俺とセリナは『花鳥の集会所』に到着した。美しい花に寄り添う鳥達の彫刻と、芸術的な絵画が目印の宿だ。
なかなか凝った装飾までされているから、十年前も初めて泊まった宿がここだ。やはり変わっていないな。
「いらっしゃいませ……おや、あなたは?」
宿に入り亭主と目が合った。亭主は口を開けたまま、俺の姿をじろじろと見つめる。
長い白髪でやせ型、メガネまでかけている。左手の薬指には見覚えのある指輪。この亭主、十年前にも会ったな。
「……失礼ですが、お名前は?」
「森田剛一だ」
「も、森田……様!?」
俺の名前を聞くと、亭主の表情は突然変わった。
「あぁ、なんということだ。森田様、戻ってこられたんですね!」
「久しぶりだな、ビッグス。元気にしてたかい?」
「あの……お知り合いですか?」
「いろいろ世話になった男さ」
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