第8話 セリナの正体

 予想外な言葉がサマンサから飛び出した。なんで俺が狩人なんだよ。


「違うの? だって小石を投擲して魔物を退治する芸当と言ったら、狩人の得意技でしょ」


「そういや、そんなスキルが狩人にはあったっけ。それなら納得だけど……」


「違う……俺は狩人じゃ……」


 ここで女神がぐいと俺の腕を掴んで、耳元で囁いた。


「いいじゃないの、狩人ってことにしておきなさい」


 女神の言う通りかもしれない。ここであーだこーだ俺のスキルや能力を細かく正しく説明しても、混乱を招くだけだ。


「……そうだな。俺は……狩人だ」


「ちょっと待て! それなら手に持っている棒はなんだ?」


「この棒がそんなに気になるか?」


「棒を持って戦う狩人なんて聞いたことないぞ。狩人の得意武器は弓矢のはずだ」


 スネイルは痛いところを突いてきた。


「それは……」


「第一、〈剛速球〉なんてスキルは聞いたこともない。狩人が使えるのは〈ストーンミサイル〉だ」


「あ、そうだったわね」


「仮に〈ストーンミサイル〉だとしても、それでキングオークを一撃では倒せない」


「確かに、言われてみればそうだな」


「お前の職業は……一体なんだ?」


 まずい。無鉄砲な奴だと思っていたけど、スネイルはかなり頭が切れる奴だな。


「それに、キングオークの持っていた棍棒はどこへしまった?」


「それは……」


「あ! そういえばあのデカい棍棒がないぞ!」


「本当だわ。一体どこ!?」


 しまった。俺は女神と目を合せたが、女神も知らんぷりをしている。お前が渡した鞄だろうが。


「その女性は、あんたの知り合いか?」


「どうも初めまして、私ジェニファーって言うの。彼のボーイフレンドなの!」


「おい、勝手に決めんな!」


「お熱いこったな。それよりあんたに聞きたいんだが、こちらのゴーイチさんとは長い付き合いなのか?」


「えぇ、そりゃもう十年も前から……」


 女神がいやらしい目で俺を見つめる。嘘はついてないんだが、だからって正直に話すなよ。

 これ以上は我慢できそうにない。


「おい、頼むから! これ以上俺達に付きまとうのは……」


 すると、突然女神が俺の口に指を当てた。目で「いいから私に任せて」と合図している。


「うーん、話してあげたいのはやまやまだけどさ、もう夜遅いじゃない? 私達帰らないといけないから」


「帰るって一体どこに?」


「あそこよ」


 女神が指差すと、全員がその方角に顔を向けた。でも次の瞬間、女神の指先がピカッと光った。


「さ! これでいいわ、今のうちに逃げましょう」


「おい、何をしたんだ!?」


「いいから、早く! 永続はしないの」


「あ、あの……」


「セリナも早くして! 置いていくわよ」


 女神が言っていることがよくわからないが、その言葉に従うことにして、俺も彼女の後をついて行った。

 ふと後ろを見ると、なんと三人とも固まっていて動いていない。そういうことか。


「……お前の魔法は何でもありだな」


「ふふ、言ったでしょ? あなたを援護するよう頼まれたって、本当はこんなことしちゃいけないんだけど」


「サリアはよほどお前を信頼しているんだな」


「……あら、もう気づいちゃったの?」


「当然さ。アイテムバッグを二十年前に渡したからな」


「あの、剛一さん」


 セリナが声を掛けてきた。


「セリナ、もうフードはとってもいいぞ」


「……は、はい……」


 セリナが両手でフードをめくった。長い金髪に尖った耳、色白の肌、前髪は綺麗に直線に整っている。紛れもなくエルフの外見だ。


「……姉さんにそっくりだな」


「やっぱり、知っていたんですね。サリア姉さんのこと」


「彼女は元気にしているか?」


 セリナは歩きながら頷いた。改めて見ると、本当にサリアにそっくりだ。


「元気です。でも……」


「でも? 何か問題でもあったか?」


 セリナは神妙な面持ちをしている。何か言いたげだけだな。サリアのことだから、俺も気になる。


「話すべきかどうか迷ってて……」


「どうしてそんなにためらう? サリアは俺の旧友だ、困ったことがあれば何でも相談に乗るぞ」


「……実は」


「見えてきたわ!」

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