第7話 俺だけのスキルだ!
女神の声がどこからか聞こえたが、どこにもいなかった。
「ここよ。ここ……」
「……ずっと木の上から見ていたのか」
遠くの木の枝の上に女神がちゃっかり座って、見下ろしているのが見えた。思念を通じて、俺の頭に話しかけてきたのか。
「そうよ。あなたの邪魔にならないようにね」
「お気遣いありがとうよ」
「それよりさ……あのキングオークの素材を」
「あぁ、そうだな」
俺は倒れていたオークのそばに近づいた。キングオークも素晴らしい戦利品がある。
「この棍棒はいいな……」
「ふふ、お目が高いわね。その棍棒、ミスリル製よ」
棍棒を手にして持ってみたら、改めてその大きさと重さに驚いた。
俺の身長の二倍ほどの大きさもあり、なんとか片手で持てる重さだが、かなりバランスが悪くなる。
「でかすぎるな。それなら……」
「ちょっと何するつもり?」
「俺の新しい武器にちょうどいいから、手頃なサイズにカットしようと思ってな」
「な? もったいないことしないで!」
「もったいないだと?」
女神が枝から降りて俺のそばまで寄って来た。
「あのね、ミスリル製の棍棒よ。しかもそのサイズなら、かなりの金になるわ」
「金になんか興味ないんだ。俺は武器が欲しい」
「もう、さっき銅製の棒渡したじゃない」
「この銅製の棒を売ればいいだろ?」
「駄目よ、その銅製の棒は特別なの。売れたりしないわ、というか売ったらダメ。特殊な魔法効果も付与されてるのに」
「……それを早く言えよ」
確かに女神が渡した棒だから、特殊な効果もあるとは思っていたが、まさか魔法効果を付与していたとは。
「威力だってミスリル製の棒に劣らない。その銅製の棒で我慢して」
「わかったよ。だけどこのサイズじゃ、持ち運べないぞ」
「心配ないわ」
女神が右手に出したのは、何の変哲もない鞄だ。でもよく見たら、ジッパーがついている。
開けてみたら、なんと中は真っ暗だ。手を伸ばすと、底に手がつかない。
「これって、まさか……」
「アイテムバッグ、無限収納機能付きよ。もちろんサイズも関係ないわ」
これまた異世界転生で定番のアイテムと来た。
右手で持ったミスリルの棍棒の柄の部分を、鞄の開口部に近づけた。見る見るうちにミスリルの棍棒が鞄の中へ吸い込まれていく、まるで掃除機じゃないか。
「至れり尽くせりだな」
「これも頼まれた人からもらったのよ」
そういえば思い出した。俺が二十年前に元の世界に戻る時にあいつに渡したんだっけ。
となると、この女神に依頼したのは彼女しかいないか。
「……サリアはどこに?」
「ゴーイチ!!」
突然俺を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、倒れていたスネイルとローガンが来ていた。
「これは……まさかお前が!?」
「あぁ、気づいたか。もうキングオークは倒したから安心しろ」
「そんな……この傷は……」
スネイルとローガン、そしてサマンサもキングオークの体を見下ろす。あまりのひどさに言葉を失っているようだ。
「セリナは見るなよ。かなりひどい」
「は、はい……」
「お前、一体何をしたんだ?」
「何って……小石を投げただけだよ」
「嘘つかないで! 小石なんかでこんな傷ができるわけないでしょ!」
「俺もかすかだが聞いたぜ。あの爆発は凄かった。何か強烈な魔法か、スキルでもないと説明がつかない」
スキルか。確かに言われてみれば、そうだな。
「スキル〈剛速球〉だ」
「な、なんだって!?」
俺がこの異世界に転生した当初から使えていたスキルだ。
どんな小さな物体だろうと、例え小石だろうと、超高速で投げることができて、その破壊力は全力で投じれば巨大なクレーターが生じるほどだ。
現実世界でもこのスキルは使用可能だった。おかげで現役時代は最速170km近い球速を計測したことがある。三振の山ばかり築いたな。
異世界だとその球速がなぜか10倍になる。衝突のエネルギーは速度の二乗に比例すると言われているから、100倍に膨れ上がるんだ。
「……ということなんだけど、理解できたかな?」
「…………」
全員に簡単にスキル〈剛速球〉の効果と威力を説明したが、目が点になっている。
「剛速球、そんなスキル聞いたことないぞ」
「もしかして、職業は狩人なの?」
「か、狩人!?」
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