第3話 少女を救出!

 いつの間にか来ていた女神が何やらクレーターの周囲をあちこち見回して、呆れている。しゃがみこんで、布切れを手に持った。


「オーク討伐の報酬って、ギルドで高値で取引されるのよ」


 この異世界には冒険者ギルドがある。冒険者ギルドは、魔物の討伐を報告すればその魔物の強さと個体数に応じて報酬がもらえる。冒険者はそうやって生計を立てているんだ。

 その魔物の討伐の報告には、魔物の体の一部が必要になる。でもそれが見当たらない。


「……肝心のオークはどこに?」


「あなた、あのオークはね最下級のオークよ」


「それがどうし……まさか?」


 やっと女神の言いたいことがわかった。手に持った布切れがその証拠だ。

 俺は三体のオークをまとめて倒した。でもそれだけならよかったが、どうやら体をほぼ消滅させるほどの威力だったらしい。やり過ぎたな。


 唯一手にできたのは布切れ、あとは棍棒の一部、牙の一部、爪と骨の一部くらいか、これでオークだと証明できるのだろうか。


「……わざとじゃなかったんだが、どうやって倒したらいい?」


「もう! あなたの規格外のステータスなら、素手で十分でしょ?」


「素手で……俺は格闘は苦手だ」


 女神は呆れたのか、ため息をついた。まるで俺がお馬鹿さんみたいじゃないか。


「まぁいいわ。これをあげるから」


「それは?」


 女神がどこからか手に持って差し出したのは金属製の長くて太い棒だ。

 手に持つとかなりの重量がある、色的に銅製かな。


「それならバッターとしての能力が活かせるわ。もうクレーターなんか発生させなくて済むから」


「ありがとうよ。でもどうして俺にここまで……」


「ある人から頼まれたのよ。サリアに会うまで、あなたの面倒を見てほしいってね」


 意外な言葉が出てきた。一体誰から頼まれたというんだ。いや、そもそもどうして女神がそんな頼みごとを聞くんだ。


「お前、そんなにお人好しだったっけ?」


「あら? 女神だってたまには人の頼みごとを聞くのよ。悪い?」


「……まぁいい。俺の邪魔だけはするなよ」


「わかってるわよ。じゃあ、早速町に……」


「きゃあああああああああ!!」


 どこからか悲鳴が聞こえてきた。


「今のは!?」


「女の子ね。多分襲われてるのよ、誰かさんのせいで」


「悪かったって。くそ、今から大急ぎで!」


「待って!」


 咄嗟に女神が呼び止めた。すると、魔法を唱えているのか、右手の指が光り出して額に当てた。


「おい、何やってんだ? 間に合わなくなるぞ!」


「正確な位置が分かった方がいいでしょ?」


「なるほどな。で、どこなんだ?」


「ちょっと待って……えぇっと、ここから西に130mね」


「西に130メートルだな!」


「まだよ。西ってわかる?」


 女神に言われてハッとした。そういえば東西南北の方角は、確かに不明だった。俺は右手の指を左に向けてみた。


「……あっちよ」


 女神は俺とは逆の向きを右手の指で示した。


「ありがとう、恩に着るよ」


「急いでね。多分敵の数は多いわ」


 言われなくてもわかっていた。俺も敵の気配位は感じる。かなりの数の気配だ。

 しかも魔物の正体も掴めた。さっきと同じオークだな、十体ほどいるのか。


 女神が示した方角に向けて全力疾走し、近づくとフードを被った少女の姿が木の幹のそばで座っていた。案の定、オークに囲まれている。 

 間に合ったようだ。敵の数は多い。


「おい、こっちだ!」


 声を掛けてオーク達の気をこっちに向けた。オークも少女ではなく、俺を標的に変えた。

 こういう時、相手が人間とかだったら少女を人質にとられていた。オークにはそんな知性がない。


「ぶぎゃあああああ!!」


 敵意むき出しで一斉に襲い掛かって来た。

 まとめて倒すんだったら、さっきみたいな投球が一番いい。だけどそうなると、少女を巻き込みかねない。


 となると、さっき女神からもらった銅製の棒が役に立つ。俺は両腕でしっかり持ち、野球のバットのようにオーク目掛けてフルスイングした。

 棒が腹部に直撃、手ごたえは完ぺきだ。そしてオークはそのまま後方にある木まで吹っ飛び、ピクリとも動かなくなった。


「相変わらず凄い威力だ」


 手加減したのにあそこまで吹っ飛ぶなんてな。ほかのオーク達は呆気にとられたのか、動かなくなった。あまりの威力の高さに怯え切ったのか。

 でも所詮はオークか、やっぱり懲りずにまた襲い掛かって来た。今度はまとめてやられないよう、散開し始めた。


 そして左右から二体のオークが同時に襲い掛かる。

 少しは頭が回るのか。でもどんな襲い方だろうと、俺のバットの餌食になるだけだ。


「面倒だな……よし!」

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