第4話 興味を惹かれてしまった

 さすがに棒一本で片づけるのは面倒くさい。俺は棒を右手に持ち替えた。

 右から襲い掛かって来たオークを右手の棒でさくっと倒し、左から襲い掛かってきたオークの右腕を左手で鷲掴みにした。


「武器を借りるぞ」


「ぐぎゃあ!!」


 左手でオークの右腕を捻って、そのままオークの棍棒を奪い、棍棒で頭を叩きつけた。

 これで俺は二刀流だ。片づけるのが楽になる。今度は俺から突進して攻撃を仕掛けた。


 オーク達は瞬く間になぎ倒された。棍棒の方が軽くて使いやすいな。

 最後に残った一匹は、何が起きているのかわからない様子でただ狼狽していた。

 もはや戦意をなくして、そのまま逃げていった。呆気ないな。


「大丈夫か?」


 しゃがみ込んで頭を抱えていた少女に俺は声を掛けた。


「え? あの……オークは……?」


「見ていなかったのか? もう片づけたぜ」


「嘘? もしかして、あなたが?」


「ほかに誰がいるって言うんだ?」


 少女は立ち上がって倒れていたオーク達を見下ろした。

 それにしても背が高いな。声はかなり幼いのに、180センチある俺の身長よりやや低いくらいだ。多分170くらいかな。


 そして、俺はもう一つ気になった。独特な香水の臭いがした。

 この香水、以前にも嗅いだことがある。しかもかなり長い時間、まさかと思った。


「あの……危ないところを助けてくださり、改めてありがとうございます! 私はセリナと言います、何かお礼をさせてください」


 セリナと名乗った少女は頭を下げて礼を言った。


「礼なんかいいって。あのオーク達を目覚めさせてしまったからな、後始末しただけだ」


「目覚めさせた? 一体どういうこと?」


 さっきの衝撃音聞いてなかったのか。いや、ここで本当のことを言うと、面倒になりそうだから黙っておこう。


「それより聞いていいですか? あなたのお名前は……」


「……森田剛一だ」


「え? 今なんて……」


「森田剛一って言ったんだ」


「…………」


 セリナが俺の名前を聞いて黙り込んだ。この反応は俺の名前を知っているな。


 となると、やはりこの少女の正体は。


「どうしたんだ? そんなに気になる名前か」


「いえ、なんというか……その……変わった名前だなって」


「そうか……まぁいい。とにかくここは危ないから町に……」


「おーい、大丈夫か!?」


 突然遠くから誰かが呼びかける声が聞こえた。耳を澄ませば、足音も多く聞こえた。

 武器を持った三人の男女が走ってやってきた。俺達の姿を見るなり止まった。


 杖を持った女性、剣を持った男性、斧を持った男性の三人。

 ファンタジー世界でよく見るいで立ちをしている戦士か、ここが現実世界ならただのコスプレ集団だが、こいつらは違うな。


「おい、さっきの悲鳴を上げたのは君か?」


「はい、私ですけど……」


「怪我はなかったかい? 多分魔物に襲われたんだろうけど、そいつらはどうしたんだ?」


「ごめんなさい、心配かけさせてしまって。でももう大丈夫ですから……」


「大丈夫って、まさかもう退治したのか?」


「はい、この方がオークを退治してくれました」


 先頭にいた剣を持った男が俺の顔を見た。まじまじと俺の顔と体を見つめている。

 そんなに物珍しいか。いや、よく考えたらそうか。俺はこっちの世界に来てから一度も着替えていない、つまり元いた世界と同じ姿だ。

 長袖のカッターシャツ、チノパン、スニーカーとラフな服装だけど、こんな服装は異世界だと完全に浮くな。


「お前……一体何者だ? この辺りの者には見えないが」


「初対面なのに失礼だな、まず名前を名乗ったらどうだ?」


「……剣士のスネイルだ」


「俺は……剛一だ」


「ゴーイチ? 随分変わった名前だな」


「変わっていて悪かったな」


「俺はローガンだ、斧使いをしている」


「魔道士のサマンサよ。それにしてもあなた強いわね」


 サマンサと名乗る女性は、転がっていたオークの死体を見ながら言った。


「……腕だけは確かなようだな、あんた」


「俺達の出る幕じゃなかったな、急いで損したぜ」


「さっきも聞いたけど、あなたどこの出身の人? 名前といいその服装と言い、随分と変わっているわよね」


「別にそんなことどうでもいいだろ。あまり俺に関わらないでくれるか?」


「何よ。聞いてみただけじゃない、そんなに怒ることないでしょ」


「おいおい、二人とも落ち着こうぜ。まぁなんというか、このオーク達を軽くあしらえるだなんて、お前さんも相当強いんだなって思ってよ」


「強い人にはがぜん興味が湧くのよね。いつから戦士の修行積んでるの?」


「こいつらは最下級のオークだ。別にどうってことないだろ」


「いやいやオーク自体が強い魔物だから、最下級を退治しただけでも大した実力だよ」


「そうなのか」

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