第2話 最強メジャーリーガーのステータスは?

 野球一筋だった俺の最強の対抗手段が、投球だ。野球道具はあったから、構わず手にしていた硬球をその魔物全力で投じたんだ。

 だけどあそこまでの威力になるだなんて。女神が言うには、こっちの世界では俺の能力は10倍以上にまで跳ね上がるらしい。

 僅か十歳で150キロ近い速球を投げていた俺だ。150キロの速球、こっちの世界ではそれが10倍以上の威力と速さになる。


 どういう原理かわからないけれど、とにかく俺は野球で培った技術とパワーで、異世界の魔物にも対抗できた。だからこそ、十歳の時でも異世界を楽しく冒険できた。

 俺の今の強さ、どのくらいなんだろうか。それを調べる方法はアレしかない。


「久しぶりに見るか、ステータスオープン!」


 異世界転生だとこの言葉はお決まりの定型句らしい、二十年前に女神から「ステータスオープン」を教えてもらった。

 これまたどういう原理かわからないけど、俺のあらゆる能力が数値化された便利な画面が見られる。あれから二十年たったが、どういう数値になっているかな。


――――――――――――――――――――

森田剛一

レベル:30


攻撃力:S

体力:S

防御:S

素早さ:S

回避:S

器用さ:S

魔力:S

魔法防御力:S

状態異常耐性:S

スキル:一覧表示▼

――――――――――――――――――――


 そういえば思い出した。この世界のステータスは数値じゃなかった、レベル以外はFからSまでのアルファベットでランク分けされるんだった。

 俺の全ステータスはS、二十年前最後に見た時も、確かこんな感じだった。


 いや、違う。唯一二十年前と違う数値があった。レベルだ。

 レベルは99が上限だったはずだけど、なぜか30に下がっている。奇しくも俺の年齢と同じだが、どういうことだ。


「当然じゃない、もう十年も経ったのよ」


 突然声が聞こえたので振り向いたら、なんと女神が背後にいた。いつの間にか、こっちの異世界の町でよく見かける女性の平民が着るような服装に着替えている。


「十年でこんなに下がるものなのか」


「下がるわよ。あなたがやってた野球だってそうでしょ。ずっと練習していなかったら、動きが鈍るじゃない」


「……でもステータスは下がってないな」


「それはね……あなたの元々のステータスが規格外なだけ」


「そうなのか……じゃあ……」


「ちょっと待って!」


 女神が制止したけど遅かった。俺はその場に転がっていた小石を、遠くにあった岩壁に向けて投げた。


 ドォオオオオオオン!!


 凄まじい衝撃音だ。そして砂埃が舞って何も見えなくなった。


「少しは手加減してよ」


「悪かったって。ステータスの低下具合を見たかったんだけど、相変わらず加減がムズイな……」


 俺が心配するほどじゃなかったかも。岩壁には巨大な窪みが出来ていた。また地形を変えてしまったのか。


「こんな夜遅くに騒ぎを立てると、あいつらが起きるわよ」


「あいつらって……」


「ぶおあああああああ!!」


「ほら言わんこっちゃない」


 何やら猛獣の雄叫びのような声が遠くから聞こえた。さっきの衝撃音で目を覚ましてしまったらしい。


「倒せばいいんだろ。心配するな」


 俺は颯爽と雄叫びが聞こえた場所へ向かった。方角的に左に広がる森の中だろう。

 森の中へ入りしばらく走ると、気配がした。魔物が近くにいる。数的に三体か。


「出て来いよ、近くにいるんだろ?」


 敢えて挑発してみた。多分人間の言葉に反応して、姿を現すはず。


「ぶおおおおおおおお!!」


「オークか」


 俺はすぐに魔物の正体がわかった。目の前の木の影から現れたのは、背の低い二足歩行の魔物だ。

 見た目は豚の顔をしていて、太った体型、緑色の肌、腰に布を巻いていて棍棒を持っている。

 ファンタジー世界でも定番の魔物だな。確か二十年前も最初に出くわしたのはオークだったっけ、まぁ俺の敵じゃないが。


「ぶおああああああ!!」


 オークは見境なしに俺に襲い掛かって来た。持っていた棍棒で俺に攻撃するつもりだ。

 恐ろしいほど遅い動きだな。オークは全力で俺を殺しにかかっているんだろうが、俺からしたらどうぞ避けてくださいとばかりに見える。


 オークが振り下ろした棍棒は、地面に突き刺さる。オークは俺が消えて右往左往している。


「上だよ」


 俺は敢えて呼びかけた。そしてオーク三体がいる地面に目掛けて、小石を投げつけた。


 バァアアアアアアアン!!


 また森の地形を変えたらいけないから、かなり手加減したけど、やっぱりそれでも凄い威力だ。

 相変わらず馬鹿でかいクレーターが生じた。まぁさっき見たクレータよりかは小さいが。


 でもそれより気になることがあった。オークが消えていた。どこに行った。まさか逃げたのか。


「あらら、もったいないことしちゃって」


「お前まだいたのか?」

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