第5話

「それにしても、アヴァリスさんはどうしてここに?」



アヴァリスさんは、俺が【鑑定】を受けた後に王城に向かう予定だと言っていたはずだ。

俺がそう言うと、アヴァリスさんは微笑む。



「ああ、実は君が【鑑定】を受けている間に用事を思い出してね。先に済ませてしまおうと思ったんだ」



「そうなんですか……」



アヴァリスさんの話を聞いて、俺は納得した。



アヴァリスさんは忙しい人だ。きっと、何かしら重要な仕事があるに違いない。

そんなことを考えていると、アヴァリスさんが思い出したように話しかけてきた。



「そうだ!折角だしユウトくん、君の能力を確認するついでに私と手合わせをしてみないか?」



俺は驚いてしまう。アヴァリスさんとの手合わせなんて、俺なんかには恐れ多い気がするが……正直言って興味はある。



(けどなぁ……俺がアヴァリスさんに勝てるとは思えないんだよな……)

俺は戦闘経験が少ないし、武術の心得もない。



そんな俺に手合わせを頼むだなんて、いくらAランク冒険者とはいえ図々しいのではないだろうか?そう思っていると、アヴァリスさんは笑みを浮かべながら言う。



「心配することはないさ!確かにユウトくんにはまだ負けるつもりはないけど、私もそこまで弱いつもりはないからな!それにこの手合わせを通して、君がどんな戦い方をするのか知ることができればそれでいいんだよ!」



そういうものなのだろうか?よく分からないが……まあ本人がそういうなら良いのかな?いやでも、やっぱり申し訳ないなぁ。



そんなことを考えているとアヴァリスさんが言葉を続ける。



「ユウトくんはAランク冒険者の私相手だと、やっぱり緊張するかい?なら、セレーネと手合わせしても良かったけど」



アヴァリスさんとの手合わせかぁ……正直言って興味がある。だが、流石に初対面の女性に頼むというのはどうかしていると思うし、それに彼女たちも迷惑じゃないだろうか?



それにしても、どうしてそこまで俺なんかと手合わせしたいんだろう?そう思って首を傾げていると、アヴァリスさんが話しかけてくる。



「さて、それじゃあ早速始めようか!ユウトくんは武器を持っていないようだし、私が選んであげるよ」



そう言うとアヴァリスさんは近くにあった木剣を俺に渡した。

訓練用の武器で、刃がついてないものらしい。



俺は、アヴァリスさんと戦う前に、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


アヴァリスさんの動きをよく見て、攻撃のタイミングを見極めるんだ……!


そして、ついに俺とアヴァリスさんの手合わせが始まった。


先に動いたのはアヴァリスさんだった。彼女は一気に俺に接近してくると剣を振り下ろしてくる。俺はそれを防ごうと剣を構えるが、次の瞬間、アヴァリスさんが横にステップしたかと思うと俺の背後に回り込み、再び俺に斬りかかってくる。


俺は急いで振り返ると、剣を受け止める。

そこからは激しい攻防が続いた。お互いの武器が入り乱れる中、一歩も引かない戦いが続く……しかし、俺は次第に追い詰められていった。



「くっ……!」



俺の攻撃は軽く躱され、逆にアヴァリスさんの攻撃をまともに受けてしまう。

(やばい……!)そう思った次の瞬間だった。



突然、俺はアヴァリスさんの次にする攻撃モーションが見えるようになった……これは一体どういうことなんだ?俺が自分の状態につい考えていると、アヴァリスさんが驚いたような表情を浮かべる。



「ユウトくん、今……何かしたかい?」



どうやら、アヴァリスさんには俺の変化が伝わってしまったらしい。

このまま隠し通すわけにもいかないだろうと思い、正直に話すことにしようと思う。この現象について説明するために、俺はアヴァリスさん達を誘導して、人気のないところにきた。俺が星芒であることを話すと、二人は驚いていた。


まあ、当たり前の反応だろう……俺だって最初は信じられなかったしなぁ……。


そんなことを思い出しながらも、俺は二人に自分の能力を説明し始めたのだった。

すると二人とも俺に対して特に怪しんだり、警戒したりするような様子もなく、すんなりと受け入れてくれた。



どうやら、アヴァリスさんは俺を信頼してくれているようだし、レイナさんも俺たちに理解を示してくれているようだった。俺はそのことに感謝しながら話を続けることにする。



そして一通り説明を終えた後、今度は二人から俺に質問をしてきたのだった……。



「なるほど、ユウトくんはその能力で未来を予知することができるんだね」



アヴァリスさんがそう言いながら頷いている。俺は頷いた後、口を開いた。



「はい……ただその力も自由自在に使うことができる訳じゃないんです」


俺の能力である【未来予知】は、まだ使いこなせている訳ではない。俺が自分の意志で発動できる訳ではなく、ある日突然、突然未来が見れるようになるのだ……そしてそれが見えたところでその未来を回避することはできない。



むしろ運が悪ければ悪いほどその運命に収束していく可能性すらある。



それに、この能力を過信して何もせずに運命をただ受け入れれば、それは俺にとってとても不幸なことになってしまうだろう。だから俺はできる限りの努力をするつもりだ。


(まあ……正直なところ、まだその努力が実っているとは言えないんだけどな)


俺は心の中で苦笑する。

そんなことを考えていると、レイナさんがが話しかけてきた。



「それにしても、ユウトさん、凄いですね!私なんて全く気が付きませんでしたよ」



レイナさんが目を輝かせながらそう言ってきた。俺は恥ずかしくなってしまい思わず顔を逸らしてしまう。すると今度はアヴァリスさんから声がかかった。



「……確かにそうだね、君の【未来予知】の力はかなり強力なもののようだ。」



アヴァリスさんはそう言うと、顎に手を当てながら考え込むような仕草を見せる。俺はそんな彼の様子を見て首を傾げた。一体どうしたんだろう?そう思っていると、レイナさんが口を開いた。



「あの……ユウトさん、少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」



俺は頷いて答える。すると彼女は真剣な表情を浮かべながらもゆっくりと尋ねてきた。



「あの……ユウトさんは、その力を使って何をするつもりなんですか?」



俺はその問いに驚くと同時に戸惑ってしまう。まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったからだ。俺が黙っていると、レイナさんが不安そうな表情を浮かべるので慌てて口を開いた。

しかし上手く言葉が出て来なくて黙り込んでしまう……すると、アヴァリスさんが口を開いた。



「ユウトくん、君はさっき言っていたよね?自分の能力で運命を変えることはできないと……でもそれはどういう意味なんだい?」



俺は一瞬悩んだが、結局話すことにした。この力について話した方がいいと思ったからだ。それにこの力のことについて他の人にも知ってもらいたいという気持ちもあったのだ。



俺は、自分の能力について説明を始める。まず最初に【未来予知】の能力が使えるようになったのはごく最近の事であること、そしてこの能力は制御しにくく危険も伴うということを説明した。



するとレイナさんとアヴァリスさんは驚いたような表情を見せた後、考え込むような表情を浮かべる。それからしばらくしてから二人は再び口を開いた。



「なるほど、それなら確かに君の能力を使いこなすことは難しいかもしれないね……」



(えっ?!)俺はその言葉に驚く。二人も俺の【未来予知】の能力について警戒したり、否定的な態度を見せるだろうと考えていたのだが違っていたのだ。だがすぐにその理由を理解することになった。



「だがそれよりも、君は自分の力をしっかりと把握し、その力を正しく使う必要があると思うよ」



アヴァリスさんの言葉に俺は深く頷いた。その通りだと思ったからだ。それに、自分の能力を過信してはいけないということも理解できるようになった。だからこれからはもっと努力して能力を使いこなせるようになろうと思うことができたのだ。

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