第4話

「ふむ……、ユウト殿は、もしや記憶を失っているのですか?」



俺はマテウスさんの言葉に、首を傾げる。



「いえ、ちゃんとした日本人ですよ?」



「ニホン……?それは何処の国の名前ですか?」



…………あれ? 日本ってどこの国だっけ……? 俺は自分の名前すら思い出せなくなっていることに気付く。



いや、そもそも俺って誰なんだ……? 俺はいったい何者なんだ? 俺は急に不安になり、胸を押さえた。心臓がバクバク鳴っている。



俺は、慌ててアヴァリスさんに視線を向けた。

すると、アヴァリスさんが心配そうな表情を浮かべ、俺に声を掛けてくれる。



アヴァリスさんが俺の手を握ってくれた瞬間、俺の心の中にあった焦燥感が嘘のように消えていく。

アヴァリスさんは、俺に微笑んでくれると、優しい声で囁いた。



「大丈夫か? ゆっくり深呼吸をして、気持ちを落ち着かせるんだ。」



俺はアヴァリスさんに言われた通り、ゆっくりと息を整えていく。

しばらくすると、少しずつ落ち着いてきた。



「もう、大丈夫です。落ち着きました」



「そうか、ならよかった」



アヴァリスさんは、ホッと安堵のため息をつく。

そんなに心配してくれたんだろうか? アヴァリスさんには、とても感謝している。



アヴァリスさんがいなかったら、今頃どうなっていたかわからない。



「ありがとうございます」



「ふふふ、気にしないでくれ。当然のことだよ」



アヴァリスさんが俺に笑いかけてくれた。

やっぱり、アヴァリスさんはとても良い人だ。

「さて、それじゃあ早速さて、それじゃあ早速だが、君の実力を見せてくれないか?」



「え?」



アヴァリスさんが何を言っているか分からず、思わず聞き返してしまった。

俺の反応を見たアヴァリスさんは、苦笑を浮かべると、説明してくれる。



「ああ、すまなかった。言い方を変えよう。君の持つ固有能力を見せて欲しいんだ」



アヴァリスさん曰く、冒険者ギルドに所属する冒険者は、冒険者ランクという制度で格付けされているらしい。




冒険者ギルドでは、冒険者一人ひとりが持つ固有能力を査定することで、冒険者ランクを決定しているそうだ。



冒険者ギルドに登録した冒険者の中には、自身の持つ固有能力を隠し、低級冒険者として振る舞う者もいるため、冒険者ギルドで鑑定できる固有能力は、冒険者ギルドが発行する魔道具のみだという。



また、冒険者ギルドで発行される魔道具は、冒険者ギルドの本部がある国でしか使用できないらしく、冒険者ギルドに所属している冒険者以外は、冒険者ギルドで発行した魔道具を使用することは許されないとのこと。



ちなみに、冒険者ギルドで発行された魔道具は、どの国の人間でも使用できるらしい。



そのため、他国の人間が自国の冒険者ギルドで魔道具を使用した場合、その冒険者が犯罪者である可能性が高く、場合によっては捕縛されることもあるとか。



冒険者ギルドでステータス確認ができる固有能力には、【剣術】や【槍術】など戦闘に役立つものもあれば、【火魔法適性I】や【水魔法適性II】といった生産職向けなものもある。



そして、俺が持っている【時空間操作V】は、この世界での希少な固有能力であり、俺自身が星芒としての力を持っていることも加味され、冒険者ギルドでの評価も高いようだ。



俺はアヴァリスさんに連れられて、冒険者ギルドにある訓練場に来ていた。


この冒険者ギルドの訓練場は、かなり広く作られており、様々な武器を持った冒険者が模擬戦を行ったり、剣戟の音などが鳴り響いている。



「それじゃあ、まずはユウトくんの能力を見ていこうか」



「はい」



俺は、アヴァリスさんに連れられ、受付カウンターの方へと向かう。

すると、一人の女性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

女性はアヴァリスさんに気付くと、頭を下げる。



「これはアヴァリス様、お久しぶりです」



アヴァリスさんはその女性に気付くと、

「おお、レイナじゃないか。元気にしていたかい?」

と笑顔を浮かべた。



女性の年齢は20代前半だろうか? 身長は高く、スタイルも良い。

綺麗な金髪に碧眼をしており、整った顔立ちをしている。



アヴァリスさんと話しているところを見ると、おそらく、アヴァリスさんの知り合いなんだろう。



「アヴァリスさんのお友達ですか?」



「ああ、彼女は私の古い友人でね。よく一緒に仕事をしたりしているんだよ」



なるほど、アヴァリスさんにも学生時代があった訳だし、その時の友人ということか。



アヴァリスさんは俺が気になったようで、俺に視線を向けると話しかけてきた。



「ところでユウト殿、君は何歳なんだい?」



「17歳です」



俺がそういうと、アヴァリスさんが少し驚いたような表情を浮かべた。



「ほう、てっきり私と同年代か年下だと思っていたよ」



アヴァリスさんの言葉に思わず苦笑を浮かべてしまう。

俺ってそんなに子供っぽく見えるんだろうか?



「アヴァリスさんは、何歳なんですか?」



俺がそう聞くと、アヴァリスさんは苦笑を浮かべた。



「ははっ、それは秘密だよ。私はこれでも一応、Aランクの冒険者だからね」



Aランクということは、俺よりも遥かに格上ということになる。

まあ、俺がアヴァリスさんと同じ立場なら、俺のことを自分よりランクが低いと思うかもしれないけど……

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