ニーナとクリスマス
mimiyaみみや
第1話
「糞ったれ!」
トイレに座ったニーナはそう毒づいた。もちろん自分のことではない。パパに対して言ったのだ。ニーナは、サンタクロースが実はパパであることも、さっき食べた七面鳥が、実はアヒルだということもちゃあんと知っていた。ニーナは明日で十歳。こどもじゃないのだ。
それなのにママときたら、
「ニーナちゃん、今年もサンタさんにプレゼントのお願いしなきゃね」
なんて、こどもっぽいウサギの絵の便箋なんか渡してきて、腹立つったらありゃしない。
だからニーナはちょっといじわるして、
「パパといっしょに、クリスマス・イブを過ごしたい」
と書いたのだった。その手紙を読んだパパはどんな顔をするだろう。そう楽しみにしていたというのに、パパは手紙を読むこともなく、「行ってくるよ」といつもと同じく仕事に行ってしまった。
「まあいいわ、仕方ないもの。おしっこといっしょに、嫌なことは流して忘れましょ」
そう言って、ため息とともにニーナはおしっこをし始めた。
すると、突然からだがふうわり浮いて、
「あぶない!」
ニーナは目をつむった。
ほおに風を感じ、ニーナはおそるおそる目をひらいた。
「うわあ、飛んでる」
ニーナはおしっこをしながら、満点の星空の下を飛んでいた。
「きっと、あんまりおしっこが強いから、からだが浮いちゃったんだわ」
クリスマス・イブの街は人であふれていた。家族や恋人たちがみな楽しそうに寄り添っている。
「あれ、雪だ」
「空は星が見えるのに、なんでだろう」
「ロマンチックね」
ニーナは、
「これはわたしのおしっこなのにね」
とおかしくなった。
そのうちに、おしっこもやんできて、体がふらふらし始めた。
「どうしよう」
ニーナが不安に思っていると
「どうしたんだい、おじょうさん」
と、空飛ぶそりに乗った、真っ赤な服にひげを生やした男がニーナに声をかけてきた。
「サンタさんなの?」
ニーナが驚いて叫ぶと、その男はさも愉快そうに、腹を抱えて笑った。
「まあ、乗っていかんかね。それに、今夜は冷える。お尻を出していると風邪をひくよ」
ニーナはサンタクロースの後ろに乗り込み、落ちないようにその背中をつかんだ。
「ミルクティーを飲むかね」
ニーナは大好きなミルクティーを飲みながら、サンタクロースに尋ねた。
「クリスマスに仕事だなんて、大変ね」
サンタクロースは笑いながら言った。
「ニーナ、下を見てごらん。みんな楽しそうだろう? これは、わたしや他の大勢の人が自分の仕事をしているから、みんなが笑っていられるんだよ。誰もが誰かのために仕事をして、それを喜んでくれる人がいる。これほど素晴らしいことはないと思わんかね?」
確かに下をのぞき込むと、みなの笑顔が輝いていて、それを見ていると心がはずんでくる。
「ふうん。ねえ、わたしの今の質問、こどもっぽかったかしら」
「いやいや、そんなことはない。大人だって、それをわからない人は大勢いる」
その答えに満足したニーナは、ひとつあくびをした。
「寝てもかまわないよ。家まで送ってあげよう」
目を覚ますと、ニーナはパパのベッドにいた。隣では、パパが大いびきをかいて寝ている。どうやら、トイレで眠っていたニーナを、パパかママが運んできたらしい。ニーナはそう分析した。
カーテンから漏れる光が、朝を告げていた。
ニーナはサイドテーブルに、ウサギの便箋があることに気が付いた。
「パパといっしょに、クリスマス・イブを過ごしたい」
ニーナは呆れかえった。イブの夜を、パパと寝て過ごして何になるんだろう!
ベッドから這い出し、部屋の戸を開けたところでパパの声がした。
「ニーナ、メリークリスマス。そして、ハッピーバースデー」
パパは眠そうにひげをかきながらそう言って、大きく背伸びをした。
まあいいわ。ニーナは思った。
「メリークリスマス。わたしのサンタさん」
ニーナは今日で十歳。こどもじゃないのだ。
ニーナとクリスマス mimiyaみみや @mimiya03
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