3.採集

「これが錬金術の本ね」


 昨日の今日で本屋に行って買ってきてしまった、錬金術の本。何冊か買ってきたけど、どれも分厚いものばかりで読む前から怖気ついてしまいそうだ。


 文字を読むのはそんなに得意じゃないが、嫌いではない。それに折角買ったんだから読まなかったら勿体ないしね、全部読み込む気持ちで頑張ろう。


 私はまず初級の錬金術の本から読み始めた。そこには錬金術とは何か、錬金術師とはどういうものか、などが事細かに書かれてあった。


 それらを集中して読む、理解できなかったら理解できるまで読み込む。そうやって確実に自分に知識を植え付けていった。


 昼食はリンゴ一個だけをかじり、ずっと本に集中していた。不思議とスルスルと文字が読めて、知識がじんわりと頭の中に広がっていくようだ。思ったよりも苦じゃなかった。


 そして、基礎的な部分をすべて読み終えた。


「んー、疲れたけどまだ読める。疲労回復のポーションのつくり方でも読んでみようかな」


 そうそう、欲しいのは疲労回復のポーション。本を捲って疲労回復のポーションを探していく。


「あった、これだ!」


 疲労回復のポーションのつくり方、見つけた! えーっと何々、必要な材料はヤコブヘビ、キリリスの実、モニタケ、蒸留水か……さっぱり分かんない!


 という訳で、材料百科事典を開いてみて、材料のことを調べてみる。


 あった、ヤコブヘビ。森に棲んでいるヘビ、頭にコブができているのが特徴。その身には滋養強壮の効果がある。


 キリリスの実。緑色の小さな実で中に黒い種が入っている。すっきりとした甘みがあり、清涼剤として使用されている。森に自生している。


 モニタケ。赤茶色の傘をしている、七センチメートルくらいのキノコ。滋養強壮の効果があり、焼いて食べても美味しい。森の木陰に自生している。


 なるほど、これを作るためには森に行って採集をしてこないといけないらしい。そういうことなら、得意分野だ。


 騎士をしていた頃は魔物を間引くために外で戦ったこともあるし、野営もしたことがある。森だって歩き回ったこともあるし、採集をするために森に行っても問題ない。


 騎士の頃使っていた剣があるし、それを持っていけば魔物と出会ったとしても大丈夫だろう。鎧はないけど魔物討伐をするわけじゃないし、着なくても大丈夫。


 今日は時間がないけど、明日近くの森に採集に行ってみよう。初めての採集だ、なんだかドキドキしてきたな。初めての採集、頑張るぞー!



 翌朝、デリックを見送った後、すぐに町の外にいく恰好をして背負い袋を背負い、剣を腰にぶら下げた。それから、貸し馬屋を訪ねて馬を借りると、町の外にある森へと向かう。馬で一時間くらいのところにあるのですぐに着いた。


 馬を森の入り口のところに括り付けておくと、早速採集の開始だ。


「んーー、やっぱり家にいるより外にいたほうが気持ちいいな」


 大きく背伸びをして、深呼吸をする。結婚してからというもの、ずっと家の中にいたから少し気が滅入っていたんだよね。だから、こうして外に出るきっかけができて嬉しい。


 騎士団にいたからずっと体を動かしていたわけだし、急に体を動かさなくなったから体がちょっと可笑しかったんだよね。昼食も持ってきたことだし、今日は目一杯動いて採集をするぞ!


 森の中を歩き回り、目的の素材がないかくまなく探し歩く。すると、木の根元にあった穴にヘビの尻尾が見えた。


「こいつかなっと」


 尻尾を掴み勢いよく引きずり出し、素早く頭を押さえる。無事、ヘビを捕まえることができた。ヘビの頭を確認してみると、コブようなでっぱりがある、これがヤコブヘビだ。


「やった、初めての採集が成功した!」


 ヘビを持ち上げて喜ぶ。早速、腰にぶら下げていた剣を抜くとヤコブヘビの頭を刎ねた。これでよし、あとは持ってきた袋に入れておけば採集の完了だ。


 あとはキリリスの実とモニタケだけど、数も揃えたほうがいいよね。失敗した時のために多めに取っておけば安心だし、沢山作っておけばデリックに沢山飲ませられる。


 このままヘビ探しも続行して、他の素材も探していこう。



「あった、モニタケ!」


 あれから探し回ってようやくモニタケを見つけた。木の陰に隠れるように二本生えている。そっと優しく掴むと、揺らして木の根っこから外した。


 これがモニタケか、図鑑で見た通りの赤茶色の傘をしている。図鑑には料理にも使えるって書いてあったから、沢山採って料理にも加えたいな。よし、モニタケは沢山採っていこう。


 モニタケを袋に入れると、また歩き始めた。森の浅い部分で採集をしているお陰か魔物とは遭遇していない。ちょっと物足りないと感じるのは職業病というヤツだろうか。


 確か冒険者ギルドに魔物の倒した報告をしたらお金が貰えるんだっけ。小遣い稼ぎに冒険者に登録するのも悪くない、今度登録しておこう。


 そんなことを考えながら歩いていると、茂みが多い場所に来た。ここならキリリスの実が生ってそうだ、くまなく探し始める。


 茂みの中を探し始めて二十分、とある茂みに実が生っているのを見つけた。近くに行って良く調べてみると、図鑑通りのキリリスの実がそこにはあった。


「こんなに沢山生っている。キリリスの実はここだけのを採集すれば大丈夫そうね」


 袋を取り出して、一つずつとっていく。一センチメートルくらいの小さな実だから、摘まみながらとっていく。ここにあるもの全部とらないように気を付けないとね。


 黙々ととっていくと袋の中にかなり溜まってきた、これくらいでいいだろう。背負い袋にキリリスの実が入った袋を入れた。


「よし、あとはヤコブヘビとモニタケを沢山とればいいね」


 採集はまだ終わらない。沢山キリリスの実が取れたから、同じくらいに他の二つも採集しておきたい。私は再び森の中を歩き始めた。久しぶりに体を動かすのは気持ちが良くて、気分が上向きになる。


 これがデリックのためになるんだから、採集はいいことづくめだ。上機嫌のまま、森の中を歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る