第9話 暗殺

しかし、そうなると困ったことになるよな。

どうにかして探さなきゃならないわけだし、どうしたもんかね?

とりあえず考えていても仕方ないので町を出ることにしたんだよ。

このままここに残ってても意味がないと思ったし、何より長居するのは危険だと判断したからな。

それに、さっさと出発したかったっていうのもあるしな。

まあ、とにかくそういうわけで俺達は街を出て次の目的地に向かうことにしたんだ。

もちろん徒歩で移動することになるわけだが、幸いなことに金はあったから馬車に乗ることもできたんだけどな、

流石にもったいないと思って断ったよ。

というのも、のんびり旅を楽しみたかったというのが本音なんだけど、それ以外にも理由があったりするんだ。

それは、単純に目立ちたくなかったという理由もあったりするんだけど、それ以上に気になる事があったからでもあるんだよ。

それは何かというと、俺の噂だ!

どうやら、俺が国王を殺したということが既に広まってるらしいという噂を耳にしたことがあるもんでさ、それを聞いた俺は思ったんだよ、

(それなら逆に堂々と歩いていれば案外気づかれないんじゃないか)

ってね、 そう考えた結果、あえて目立つように歩いていたというわけだ。

そのおかげで道中は快適に過ごすことができたし、無事に目的の街までたどり着くことが出来たんだけどな。

まあ、何ていうか拍子抜けするというかなんというかそんな感じだったかな。

もっと大変なことになるんじゃないかと身構えていたのに、何事もなく普通に町に入ることが出来ちまったんだからな。

とはいえ、まだ安心するわけには行かないから引き続き慎重に行動するつもりだったんだけど、そんな心配はすぐになくなったんだ。

何故なら、街に入った瞬間に騒ぎが起こったんだよ。

しかも、俺達の周りが急に騒がしくなって大勢の人に囲まれてたんだ。

何が起こったのかと思ったら、突然声を掛けられたもんで驚いてしまったよ……って、あれ? こいつ誰だ?

そう思って顔を覗き込んだらさ、驚いたことにそこには国王陛下が居たんだ。

何でこんな所に居るのか不思議でしょうがなかったんだが、その理由を聞き出そうとしたんだが何も答えてくれないんだよな。

まあいっかと思ってスルーしてたら、今度はマリーナが俺の腕を掴んで引き寄せて来るんだよ。

何事かと思ったけど、次の瞬間、突然キスをされてしまったもんだから驚きすぎて固まってしまったんだ。

そしたら今度はキスをしながら舌まで絡めて来て、そのまま押し倒そうとしてくるからさもう大変だよ。

流石に不味いと思って振り払ったんだが、それでもなお諦めずに襲い掛かってくるんで仕方なく魔法で攻撃してやると吹っ飛んじまってさ、

おかげで何とか逃れることが出来たんだけど、その時にマリーナの顔を見てハッとしたんだよ。

彼女の目はハートの形をしていたからだ。

しかも、口から血を流してるから明らかに普通じゃなかったんだよな、もしかしてと思った時には遅かったんだ。

いつの間にか彼女に押し倒されてた俺は馬乗りにされてたんだけどさ、彼女がいきなり俺に抱きついてきて耳元で囁くように言ったんだよ。

「ねえ、好きって言ってくれたよね、だから結婚してください」

と言ってくるもんだから流石に焦った。

まさか、ここまでするなんて思ってなかったからなぁ。

まあ、でもな俺の気持ちは変わってないから大丈夫だけどな。

そんなわけで俺ははっきりと伝えたんだ、

「悪いけれど無理だね。俺には他に大切な人がいるからな、その人のことだけを想ってるからさ」

と言った後でマリーナの顔がみるみる赤くなっていったのを見て、俺は思わず吹き出してしまったんだよ。

それを見た彼女も笑っていたので、これで仲直りできたのかなと思ったんだが、

その直後に彼女は俺から離れて行ったから驚いたな。

そして今度はジークフリートに向かって行くもんでハラハラしてしまったよ。

だって、相手はSランクパーティーのメンバーで最強の冒険者なんだ。

そんな奴に勝てるわけないと思ってたんだが、結果は意外なものだったんだよ。

何と、彼女がジークフリートと互角以上の戦いを繰り広げたことで驚かされてな、

正直信じられなかったけど、でも目の前で繰り広げられている光景を見ている限りじゃ嘘じゃなさそうだったんだ。

その証拠に、彼女から発する気迫みたいなものが物凄く感じたんだよな。

だからなのかわからないけど、思わず見惚れちゃったりしてさ、気がついた時には戦いが終わってて決着してたみたいなんだ。

(凄過ぎる!)

俺は感動すらしてたね。

だってあの最強の男、最強の戦士とも言われるほど有名な人物が負けたんだ。

そんなのあり得ないだろって思うだろうが事実として目の前で起こってることなんだから信じざるを得ない。

でも、それと同時にある疑問が生まれたんだ。

どうして負けたんだろうかと? そう考えた時に気づいたんだよ、

(そうだ、俺は彼女のことが好きだ、マリーナが好きなことは変わっていないのに

何故だろうと考えた時に答えが出た、俺が変わったわけじゃない、マリーナが変わったからなんだ)

そう思ってからは早かったよ。

俺は彼女に向かってこう言ったんだ。

「マリーナ、もういいよ、ありがとう、もうわかったから、俺のことはもう気にしないでくれ!」

そうすると彼女は悲しそうな顔をした後で静かに頷いてきたんだよ。

それを見た俺はホッとしたんだが、まだこれで終わりじゃなかったんだ。

何と、そこでジークフリートの奴が起き上がりやがったんだよな。

流石にこれは予想外過ぎて驚きを通り越して呆れちまったね。

だって、どう考えても起き上がるはずが無い状況だったからな。

でも、実際に起き上がってるのを見てると現実だと実感せざるを得なかった。

そして、俺に向かってこう言ってきたんだ。

「マリーナを悲しませる奴は許さない!」

って叫びながら向かって来たんだけど 、正直言って怖くは感じなかった。

何故かというと、あまりにも遅い動きだったからだ。

それに剣筋も滅茶苦茶で避けることすら簡単だったんだ。

だがまあ、それでも流石の一言に尽きる強さだというのはわかるけどね。

しかし困った事に、こいつは全く諦める素振りを見せなかったんだ。

何度追い返しても立ち上がってくるんだから流石に辟易してしまったけど、

それでもめげずにやって来る姿を見てると何だか可愛く思えてきたんだよね。

そうこうしている間に、とうとう力尽きたみたいで地面に倒れ伏している姿を目にした俺は思わず笑ってしまった。

そして、彼に近づいていって優しく頭を撫でてあげたんだ。

そしたら驚いた顔でこっちを見てくるから思わず笑ってしまって、その顔を見て彼も笑顔になったのを見て思ったんだ。

(やっぱりこいつも人間なんだってことを)

そこで俺は彼の手を取ってこう言ったんだよ。

「ジーク、俺と友達になろう、一緒に楽しい事をしようぜ!」

と告げた瞬間、彼は泣き出してしまったんで、慌てて慰めたんだけど全然泣きやめずに困っちゃったんだ。

でも、次第に落ち着いて来たようなんで少し安心したかな。

その後、落ち着いた彼に色々と話を聞いたんだよ、どうしてここに来たのかということについても話してくれてたんだけど、

その中で特に気になる事があったからそれについて質問する事にしたんだ。

「マリーナの事はいいのか」

と聞いたら、彼女は俺の恋人だからもう心配はいらないとの事だったので納得した。

それから暫く話をした後は、彼が帰ると言うので見送る為に外に出ることになったんだが、

その時に俺はある事を思い出したんで試してみることにしたんだ。

(そう言えばまだ一度も試していないことが あったな、ちょっとやってみたいことがあったんだが、

今ここでやるか、まあとりあえずやっておくか。まずは心の中で念じてみよう)

と、思った俺は自分の心の中に問いかけるようイメージしてみた。

(頼むから出てくれよ、俺の中のもう一個の力)

だが、何も起こらなかった為か、諦めて普通に帰ることにしたんだ。

しかしその時、突然頭の中に声が響いて来たんだった。

何だろうと思い辺りを見回してみたものの誰も居ない様子だったので気のせいかと思ったのだが、

また聞こえてきたんだよ。

今度はハッキリとした声で聞こえてくるもんだから気になってしょうがなかった俺は立ち止まって考え込んでしまったんだ。

それで気づいたんだけど、どうやらこの声は俺自身の声みたいだったんだ。

最初は何を言っているのかわからなかったが、何度も聞いているうちに少しずつ理解できてきて、

その内容を理解したところで愕然とした気持ちになった。

何故ならそれはとんでもない内容だったからなんだよ、信じられるかい?

それが本当だとしたら大変な事になるぞ!?

そう思った俺はすぐに実行に移すことに決めたんだよ、急いで部屋に戻って準備を整えてから王宮に向かったんだ。

もちろん、王様に会う為だよ、目的はただ一つ、国王を暗殺する事。

その為にはどうしても必要なものがあってそれを用意する必要があったんでそれを手に入れるためにやって来たというわけだ。

そして、目的の物を手に入れた後、再び部屋に戻った後、ベッドに横になって眠りについたんだ。

翌日になり目を覚ますと早速行動を開始したんだ。

先ずは武器庫に向かい必要な装備を整えた後、衛兵達の目を盗んで脱出することに成功したんだ。

その後は予め決めていた場所へと向かうことになるんだが、道中で出くわした連中は全て始末していったんだ。

一人残らず皆殺しにしてやったよ、当然だよな。

生かしておいたら後々面倒な事になるのは間違いないんだからな、全員殺しておかないと安心できないというわけだ。

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