エピローグ①

 抜ける様な青空が広がり、爽やかな涼風が愛おしい時間を優しく撫でる様に、咲き誇る花々を揺らしている。今日はぽかぽか陽気で最高に気持ちが良い。


 ここは王都でも人気のシリウス海浜公園。海のすぐ側にあり、広々としてスペースには整備された鮮やかな緑色の芝生が美しく、様々な芸術的オブジェや遊歩道があり、多くの王都民達が普段は散歩したり運動したりお昼寝したり、思い思いの時間を過ごす人気のスポットだ。


「さぁ、みんな気合を入れて行くわよ!」

「おおおっ!」


 私はブライダルチーム「かぼちゃの馬車」の仲間と、円陣を組んで掛け声をあげた。


 今日はこの公園の一部をお借りして結婚式を開催する。私がブライダルプランナーとしてファンデリス商会に入ってから、一組目のお客様の結婚式でもある。


 それは3か月前、チームが始動し始めた時の出来事だった。


「お金がないんです!」


 接客カウンターで私にそう訴えたのは、みすぼらしい恰好をした大工見習いのジャックさん23歳と、婚約者で居酒屋勤務のローズさん22歳。


「でも式を挙げたいんです! お願いします!」

「お願いします!」


 二人共なんだかすごい勢いでまくし立てて来た。


「詳しくお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 私の接客はいきなりプランの提案や予算の話をしない。まずはヒヤリングを主軸に、彼らの状況や背景、そしてその想い、それらの把握を大切に考えている。


 ブライダルプランナーは、ウエディングプランのカタログ販売員になってはいけない。こちら側から人気のスタイルや他商会と比較時のメリットなどを懸命に訴え、営業をガンガンかけて行くスタイルを私は好ましく思わない。


 例えば、自分自慢ばかりする男性を、女の子は好きになるだろうか? 私は嫌いだ。


 例えば、聞えのいい話ばかりする浅はかな男性を、女の子は好きになるだろうか? 私は無理だ。


 私が彼らの話を聞き、最初に提案する事は「友人」になる事だ。


 プランの接客をする上で最も大切なのは「説得力」と「共感力」であり、営業ウーマンの押しの強い「薄い言葉」と、新たな「友人」の発する「率直な意見」では「伝わり方」が段違いである。


 成績の伸びない子はこの部分を理解しておらず、プランの良し悪し、金銭的損得などを無駄に詳しく浅い理屈で語る為、接客がカタログ販売化してしまう。そうなると、お客様から単に、メリット・デメリットという秤にかけられ、条件が一致するかどうかで判断されてしまう。


 ブライダルプランナーは結婚プランの販売員ではないのだ。


 お客様を「友人」や「家族」と思い、その幸せに寄り添うように「お手伝い」をするのが、正しいお仕事の姿勢だと私は考えている。


 さて、このジャックさん、カーリフィルニア地方、その農家の5男で王都に来て3年、まだまだ大工仕事は半人前で給料が低い。


 お相手のローズさんは王都出身で実家が居酒屋の次女。数年前の流行り病のせいで、父親の経営する居酒屋の売上が落ち、当時スナックに勤めていたローズさんが現在は手伝いに入り始め、こちらも金銭的に苦しい。


 そんな二人が共通の友人、何を隠そう我がチームのディスプレイ担当ルーニーの紹介で知り合い付き合い始め、そしてプロポーズしたのが1か月前。そしてルーニーの「式ぐらい普通あげるしょ!」という意見で、現在相談に来ている。


「とにかく金がないけど、彼女にウェディングドレスを着せてあげたいんです! お願いします、ドレスのレンタル費用しか準備出来てませんが、なんとかなりませんか! というかどうにかして下さい!」


 まぁ、そんな感じで現在必死で訴えられている。

 中々無謀な予算だ。燃えて来た!


「お任せください!」


 私は満面の笑みで彼らに約束をした。




 さて、そこから私は何度も何度も打ち合わせを行いながら、「お金のかからない素敵な結婚式」のプランを練りあげて行った。


 私が考えたプランは「シーサイドオープンウエディング」。少し名前が長い。


 式場経費を抑え、尚且つロマンチックな場所。それは海の見えるべリウス海浜公園の一部を王都からイベントとして臨時拝借する事に始まる。


 式に招待した人間だけでなく、通りすがりの一般人も自由に見物・参加出来る形にし、都民活動の一環という申請形式にすれば営利目的のイベントとは違い、ほぼただみたいな金額で借り受けれる。お役所への申請とは書き方一つなのである。


 さらに特設臨時祭壇や控室の設営、仮設調理場や仮設トイレなど最低限の施設関連は、大工見習いのジャックとその仲間が仕事が終わった後に自作で行い節約し、ブライダル部門からもテントやテーブル、イスなどを格安で提供する。


 食事に関しては材料をジャックの田舎から無料で送ってもらい、酒類はローズの父親が友人の酒屋から祝儀価格で提供してもらい全て低予算で準備出来た。


 その上で一般開放するプランなので、その食事用として王都で人気の屋台グループと契約、逆に売り上げの一部を場代の賃貸契約とし、その収益を経費の軽減に回した。


 ちなみに、私の試算ではこの収益でほぼ会場設備の経費・人件費その他諸々がとんとんとなる。ただし、ここは営利目的となってしまうので、別契約でグループ側に申請させた。場所は同じだけど、申請の抜け穴を使う裏技だ。


 おかげでこれだけ盛大な結婚式を挙げても、ジャック達の支払うお金は、当初準備していたウェディングドレスのレンタル代だけで収まるという結果だ。


 なんとかなった。




 現在爽やかな青空の下、美しいウエディングドレス姿のローズが入場し、大喝采を浴びながら結婚式は始まった。すっごく素敵だ。


 ちなみに教会の司祭様に関しては、私のコネを使ってボランティアで手配出来た。ただシスターアンヌも影で動いてくれて、序列高位の大司祭様が大聖歌隊を伴ない現れたのにはかなり驚いたけど、まあいいか。


 私は式の進行状況をカミーユの作ってくれた「魔道インカム」にて、各担当と密に連携を取りながら進めている。その他にもカミーユに依頼して、様々な魔道具を式場内には設置していて、昼でも見える魔術花火も上げる予定だ。


 式の間は油断出来ないが、ここまで来るのに色々あった。


 ジャックの親方がベテラン大工50人以上を連れ大量の資材と共に手伝いに入り、施設関連が物凄く豪華になったり、それを見た王都の職員が一部買い取りたい言って来て、その売却費で経費を補填出来たり、彼の田舎の兄弟が15人もいてそのうえ予定外の親族や友人も含めると軽く100人超える団体客となり、慌てて宿泊の手配をしたりもした。


 ローズの方も父親が寂しさのせいか事前の搬入時から酒を飲み始め、気がついたら公園を散歩していた同じ悲しみを経験したおっさん達と飲み会を始めべろべろになり、「パパは寂しいぞぉー!」と叫びながら海に全員で飛び込んで大騒ぎになったり、彼女が元勤めていたスナックのお姉さん方がセクシー過ぎる衣装でベリーダンスを披露したいと言って来て、リハーサルの段階で公園にいた一般人からおひねりが飛び交い、偶然散歩をしていたいた貴族の男爵が感動して大金をくれ、式の費用どころかローズのお色直し用レンタルカクテルドレス代3着分まで補填出来たり、ホントに色々あった。


 まぁ、そういう全てを私とチームで対処して、今日と言う日を迎えた。


 綺麗だよ、ローズ。ジャックもとても素敵。


 これは最高の結婚式になるから、して見せるからね。


 私はローズの花嫁姿を見守りながら、もうたまらない気持ちでいっぱいになっていた。


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