水! PART II!

「さて、なぜローマ水道が廃れたのか、聞きたいかい?」

「聞かなきゃこのコラム、終わっちゃうじゃん」


「……まず、ローマ帝国の衰退を語ろう。ウォルフくん、『皆んなで大きな国を作ろう!』って時、どんなテンションだい?」

「やる気に満ち溢れてる」

「その通りだねぇ。どんなモノでも発展している最中はやる気に満ち満ちている。人々は高いモチベーションで働き、自分の役割りを全うするんだ。では、?」


「え? うーん、小さくならないようにする?」

「正解だ。大きなモノを作った後は、それを維持していかねばならない。ローマ帝国はそれがからこそ、更に大きくなれたと言えるだろう」


「は? 廃れる話をしてるんだよね?」


「そうだ。だから正確には『初期から中期頃はできていた』と言うべきだねぇ」

「初期から中期」


「領土を拡大する為に侵略すると、その土地の人材や資源を獲得できる。人々はそれをモチベーションにして戦争をするんだ。未来の豊かさを夢見てねぇ」

「うんうん」


「だが、獲得した奴隷や資源を運用するのはとても大変だ。でもローマ帝国は問題にぶち当たる度に目を逸らさずに考え、そして解決していった。水道もその一環さ」

「解決していったんでしょ?」


「そう、新しいモノを作り続ける事によってねぇ。でも新しいモノってのは有限だ」

「有限? どういうこと?」


「ローマ帝国が新しいモノを生み出し続けられたのは、そこが『まだないモノ』に溢れていたからだ。探さずとも、需要をすぐに見つける事ができた。だが、国が発展していくにつれて、需要を探すのが難しくなった」

「へぇ」


「それに、そんなモノを探さなくても既に国は豊かだ。必要性を探すのも難しい」

「たしかに。腹一杯の時に料理を見ても美味そうに感じない事と一緒?」


「似たようなモノだねぇ。そういう『満足』によって、足りないモノを探すモチベーションが下がるんだ。結論を言うと、ローマ帝国は

「雑に?」


「攻めて資源を奪える他国の数も有限だ。他国を侵略して得られるモノが少なくなると、自国内から搾取していくしかなくなる。だから徴税をどんどん増やしていった。ローマ市民の不満は如何程かねぇ?」

「うん」


「更に、元々雑用は他国から奪った奴隷の仕事だ。不満を持つ国民的にもそれが普通の価値観。面倒な事は奴隷に任せておけば良い、という風潮が、人々から働く意欲も奪った。そして奴隷も人間だ。使い捨てられる彼らの不満も想像できるよねぇ?」

「そうだね」


「乱暴に使い捨てられる奴隷はそれだけで数を減らすし、不満の溜まった奴隷を働かせるのにもそれに見合った餌が要る。食べ物やお金以外にも、やりがい、とかねぇ」

「そういうのを雑にしたから衰退したの?」


「そうだねぇ。高度な水道設備には高度であるが故、メンテナンスが必要だ。でも、それをする人のやる気がなくなってテキトーにする様になったり、学ぶ気の無い中途半端な練度の人達がその仕事にあたったり、そもそもやる人達が足りなくなったりなんかしたら、水道設備を維持出来なくなる。ローマ帝国は国を運営していく上で必要な兵士や技術者、奴隷などの人材に十分な見返りを用意しなかったんだ」

「しなかった? できなかったんじゃなくて?」


「できたハズだよ。でも、しなかった。世代が代われば、その前の人達の頑張りや夢は、忘れ去られる。人々は上も下も皆んな、今ある豊かさしか見ていなかったんだ。どの様にしてその豊かさを得られたのかもわからずに。産まれた時から豊かさが身に染み付いている上流階級の人々は更なる豊かさだけを求めて独り占めしたくなる。独り占めできない下の人々は、上から奪う事を考える。どっちもどっちだねぇ。奪い合う事しか考えなかったら、廃れる以外に道はない。別の新しいモノを生み出さなければねぇ」


「……この作品の登場人物がそれを言う?」

「言うさ。俺達は害悪そのものだからねぇ」

「開き直った」


「コホン。そうやってローマの国力は低下していった。国が弱ると国の外から、そして内から、その力を奪い取ろうとする奴らが出てくる。今度は自分達が攻められる番だ。人々は豊かさを夢見てローマを侵略しようとする」

「代わりばんこだ」


「そうだねぇ。ローマは侵略され、破壊され、徐々にその規模を縮めていったのさ」

「ふーん。水道の話、まだ?」


「……ウォルフくん、ローマ帝国を外から攻める場合、キミならどうする?」

「は? えーと、あ、そうだ。水道を狙う」


「何故?」

「だって水道が発達したのはそれがローマ帝国に必要だったから。だからそれを壊すか奪えば、更に弱らせる事ができる」


「正解。更にローマを襲う人々にとって、ローマは敵だ。敵国の文化をぶち壊せば、破壊欲を満たす事もできるよねぇ」

「……俺も壊すって言ったけどさ、勿体無くない?」


「そう、勿体無いねぇ。繰り返すが、侵略戦争は相手の豊かさを奪う為のモノだ。そこにある人材や施設は流用するのが基本だし、それをモチベーションに敵国を攻める」

「そうだよね?」


「しかしさっきも言った通り、高度な設備にはメンテナンスが必要だ。それに見合った高度な技術を用いて。それをするのは誰かな? 元ローマ市民を無理矢理働かせる? それとも新たな人材を育成する?」

「両方、かな?」


「そう、両方必要だねぇ。だが人々を嫌々働かせるにはそれに応じた見返りが必要になる。育てるのにも金と時間が必要になる。長い時間をかけて成熟した技術を再現するのに、どれくらいの金と時間が必要かな?」

「元の国作りと、同じ、くらい?」


「その通り。だが、ローマを攻めたのはローマよりも小さな未発達の国だよ。できるかねぇ?」

「無理。一度壊したモノを再現する力はない、かも」


「そういうワケさ。さて、今日はここまでにしよう。ローマ水道の衰退だけでかなり時間を使ってしまった」


「と、いうワケで、『水! PART III』に続きます! お楽しみに!」




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