水! PART I!

「くそ! 今日も汗だくだ! シャワー浴びてぇ!」

「いやぁ、暑い日に飲むワインは、格別だねぇ」

「俺にもくれよ」

「駄目だ」


「……そういえば、なんで俺達は喉が渇くとお酒を飲むの?」

「水は腐るからねぇ。アルコールは雑菌を殺してくれるから保存するには最適なんだよ」


「水道があるのに?」

「俺達が酒で水分を摂るのは、水道の水が飲めなかった頃の、だねぇ」


「ふーん、そうなんだ。そもそも、水道ってどうして生まれたんだろう? なくてもある程度生きていられたハズなのに」

「どうしてそう思うんだい?」


「だってそうだろ? 水道があっても未だにそうやってお酒を飲むのが良い証拠だ。水を飲めない時代に発達した根強い文化、なんでしょ?」


「宜しい。では、今日は『水』を語ろうじゃないか。地球上の歴史を見ながら語っていこう」

「はーい」


「まず四大文明を見ていこう。地球上の四大文明といえばメソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、中国文明があるねぇ」

「はーいウォーケン先生! そもそもなんで文明なんてモノが生まれたんですか?」


「そこから説明しないと駄目かい? 簡単に言うと、人は集まらないと生存できなかったから、だねぇ」

「それはわかるって。でも、ワザワザそんなデッカいモノを作らなくても良かったんじゃないの? ライオンとかヌーみたいな規模でも良いじゃん」


「初めはそうだったんだろうねぇ。だが、人間は一つの場所に留まる事を選んだ。一つの場所で沢山の人達が暮らしていくには沢山の食べ物と沢山の『水』が要る——」

「食べ物なんてその辺の獣とか狩ったり果物とか食べれば良いじゃん。食べ物がなくなったら移動すれば良いし」


「食べ物が見つからない日はどうするんだい?」

「あ」


「狩猟採取が効率が良かったという学者さんも居るねぇ。その根拠はその時代の人達の体が大きかったから。十分な栄養を摂る事ができた、という風に」

「そうなんじゃないの?」


「俺は違うと考えている。狩猟採取では体の大きな人達しか生き残れなかった、という、逆の考えさ」

「なるほど」


「現に、サバンナに生きるライオンやチーターなんかは体が大きいが、何日も食べ物を食べられない事が多い。だから、一日中寝ている。獲物が近寄るまで余分な体力を使わないようにねぇ」

「寝ていても獲物が近寄らなかったら?」


「無理矢理探しに行くしかない。体力が少ない個体や子供なんかには餓死するモノもいる——効率的かい?」

「……」


「人間も同じだねぇ。一つの所に留まり、餌を蓄えておく必要があった。そして人間は

「お? それが水に繋がる?」


「その通り。作物を育てるのには水が要るし、動物の餌を育てるのにも水が要る。だから人間は大きな河川に集まり、そして増えていった。メソポタミア文明はチグリス • ユーフラテス川。エジプト文明はナイル川。インダス文明はインダス川。中国文明は長江や黄河。そしてその時代にはすでに下水道があった事が確認されているねぇ」

「ああ、人が集まればウンコとかオシッコが出るもんね?」


「初期は違うねぇ。初期の人達は尿にょうなんかはその辺にポイポイ捨てていた。小さな川だとかにねぇ。初期の下水道は雨水とかを流す為のものさ。下水道じゃなくて、下水溝」


「汚くね?」

「汚いねぇ。だから紀元前三千年から二千年頃、インダス文明の最大都市モヘンジョダロで、水洗式トイレと地下下水道が造られた。なんと浄化槽で下水を浄化したり、沈澱池なんかを使って現代と同じように下水を処理してたんだねぇ」


「へえ? 上水道は?」

「ない、とも言い切れないねぇ。インダス文明では飲み水は井戸からポンプで組み上げていたそうだが、モヘンジョダロの各家には浴室があったとされている」

「へーすごい!」


「ただ、インダス文明については不明な部分も多いから、ここまでにしておくよ。ここからは有名な古代ローマについて語ろうか」

「出ました! 古代ローマ!」


「元々ローマは地中海近くに数多く存在した都市国家、ポリスの一つだ。ローマは領土を拡大するにつれて色んな文明を吸収してねぇ。中でも古代ギリシアの文化が色濃く反映されて、その内のミノア文明では既に下水道があったみたいなんだ。クレタ島内の宮殿では水洗トイレや浴室も出土している。つまり水道はローマ以前にもあった」

「ふーん、じゃあなんでローマを語るの?」


「資料が少ないんだねぇ。それに規模もだ。更に市民全体ではなくて宮殿内のみ。だから、普及、という点で、古代ローマがヨーロッパの初めだねぇ」

「ま、なんでも良いや。それで? どうして水道が普及したの?」


「ローマ帝国は色んな国々を占領して支配していた。人口もどんどんと増えていくし、兵隊を様々な場所に派遣しなければならない。水があまり湧き出ない土地もあるし、大量の水を安定して供給する必要が出てきた。井戸だけではまかない切れないし、人が増えればその分、作物も沢山育てなければいけないしねぇ」

「要するに、人が増えれば水道が必要って、こと?」


「その通りだねぇ。そして大量の水を使えば当然、大量の排水も出る。だからローマ帝国では上水道と下水道、その両方が発展したんだ」

「水洗トイレも?」


「勿論。さっきも言ったけど地中海のポリスには元々既にそれがあったんだ。汚物をその辺にポイポイ捨てさせるよりも普及させた方が良い。誰でもそういう発想になるハズさ。だから今の様に屎尿を流す為の下水道がキチンと配備されていたんだ。広い土地の中で沢山の人々を繋ぐ、巨大なネットワークさ。トイレだけじゃなく『公衆浴場』なんてモノも沢山作られた。モヘンジョダロでもその様なものが出土してはいるが、ヨーロッパではローマが最初だねぇ。公衆浴場は、ローマ帝国の豊かさの象徴とも呼べるモノだった。それほどに、ローマの水道技術は成熟していた」

「古代ローマ凄え!」


「だが、ローマ帝国の衰退と共に、ローマ水道も廃れていくんだねぇ」

「え!?」


「さて、長くなったからここで一区切りにしよう。キミも疲れただろう?」

「うーん、最初に関係なさそうな事を話してたからかも」


「くくく、関係ない事はないねぇ。基本的に物事は全て、繋がっていくものさ。そしてこの水が最たる例だ」

「最たる例?」


「当たり前だが、人間が観たり聞いたり読んだりする創作物には人間が出てくる。人間が住む世界を構築するには水が必要不可欠だ」

「そうなの?」


「既に構築された世界観をシェアして流用するのなら話は別だが、一から世界を創るならやはり、水の事を考えねばならないねぇ」

「面倒くさ」


「そんな事はない。逆に言えば、水の事さえ解決できれば、あらゆる世界を構築できる。世界を想像し創造するのに水を識る事は、物語を創る上でのとてもなんだねぇ」

「楽、かなぁ」


「楽さ。『収斂進化』だよ。読者さん達が生きる現代、モヘンジョダロ、古代ローマの水道技術は全て似通ったモノだ。そして水道が出てくる異世界なんてモノがあるのなら、そこにも相応の似通った歴史があると思わないかい? ただ水を描くだけで物語の深みが増すのさ」

「そんなモノかな」


「勿論、世界観のみ、を見たならだがねぇ。ストーリーやキャラクター作りは、また別のお話だ」

「面倒くさ」


「だから言っているだろう? 需要はないって。そういう事だねぇ」


「ま、良いや。次のお話も水のお話です!」


「水、というか、ローマ水道の衰退のお話だねぇ。今回程ではないが、それでも歴史っぽくなる」


「そもそもファンタジー好きな人で歴史好きの人ってどのくらいいるんだろう?」


「少なくとも作者のYTは好きじゃないって言ってるねぇ。興味すらないってさ」


「じゃあなんで書く?」


「それはアレだねぇ。小説を描く為らしい」


「ふーん、馬鹿なんだ?」

「間違いないねぇ。彼は馬鹿だ。くくく」





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