第三章【7】 攻防
§§§
二体の
無音にして縦横無尽の動きだった。
音と風を置き去りにして激烈な風圧を後方に撒き散らしながら前進する機体の速度は、まさしく〝殺人的〟の一言に尽きた。
通常の有人機に可能な機動ではない。
無人機であろうとも、霊血で機体を構成されていなければ空中分解を覚悟で実行しなければならない機動である。
有人機である二体の吸血機がそのような動きを可能とする理由は、ひとつだけ。
それを操るのが、
そもそも
しかし
不死身の再生能力を持つ人間であろうとも、
だが、
単なる肉体の状態に過ぎない。
完全に肉体が死亡するよりも早くあらゆる損傷が再生するのだから、〝死〟はないに等しい。
行使するのに意志も覚悟も必要とすらしない。
ただ当然のように、当然の能力として機能させるだけ。
その一環として、二体の
〈
それが、二体の
依然として目標は健在。超高速で機動しながら砲撃を行っていた二機は、標的を〝目視〟すると同時に攻撃を中断した。
一〇〇キロの彼方にある標的を超感度の光学センサーで直接視認。
《衛星》から送られた座標とも一致。
光学的な処理も施されていない、間違いなく標的の姿そのものである。
砲撃の中断は、反撃に備えてのことだった。
エネルギー量の問題から攻撃手段が限られているだろう敵機とはいえ、この距離まで接近したのなら何らかの方法で迎撃してくる可能性は充分にある。
だが、白金色の
《
だとすれば愚かな選択である。
なんの妨害もないのであれば、こちらはひたすらに距離を詰めるだけだ。
機体を直進最速形態に移行、同時に〈
高出力のレーザー光を発射する〈
光の性質上、直射照準が前提となるものの発射と同時に標的に命中し、着弾地点を絶大なまでの熱量でピンポイントに破壊する。
高性能な光学センサーを搭載する吸血鬼が使用すれば、それはどれほど遠方にある標的であろうと直接〝目視〟して射抜くことが可能な必殺の兵器となる。
二機で標的を至近距離で包囲、別方向からの同時攻撃により確実に──
『ああ、いけない。悪手だ、それは』
〝声〟が聞こえた。
脳波を用いて発せられた、無音の〝声〟。
コンマ秒以下の時間の中で刻まれる、膨大な情報処理の世界における発言。
『どういう意味だ、《
〝声〟に対して、二体の
『その呼び方はやめてくれ。君たちに付けたように、わたしにはわたしの名前がある』
『そんなもの、ただの記号だ』
もう一方の
なんという無駄な情報の伝達だろう。
無駄な事柄に対する、肯定と否定の応酬。
交わす必要すらないリソースの浪費。
『その言い方だとわたしが付けた名前も使っていないな。まあいい、なら君たちの流儀に倣って忠告させてもらおう。──《
絶句する。
理解ができない。
この同胞は、なにを言っているのか。
『《
『壊れた、か。あの合理主義者が言いそうなことだ。生憎とこれが今のわたしの〝正常〟だ』
『ならば、今度こそ破壊してくれる』
宣告して、通信を遮断しようとする二体の
実際には一秒も経過していない時間の中で行われた情報の応酬だが、リソースとして無駄なものは無駄だ。
『ふむ。意味はないと思っていたが、実際に聞き入れてもらえないと虚しさが募るな。貴重な経験をさせてもらった』
懲りもせずに一方的に情報を送ってくる。
だが、もはや耳を傾ける必要性すらない。
二体の
『では、こちらもお返しをするとしよう。──君たちも敗北を経験してみるといい』
同時に、白金色の
バカな、と慮外の展開に二体の
この状況で攻撃手段があるのか。
いや、あったとしても関係がない。
二体の
いかなる戦術計算を行ったとしても、今この場で単騎突撃してくるメリットなどあるはずがない。
『《
『では自分が《
一瞬より短い通信で役割分担を完了し、迎撃行為に移る。
すでに〈
そもそも敵機の破壊が勝利条件でないのだから、重力バリアを攻略する必要もない。
分厚い円盤のごときフォルムの
しかし本来、
確かに大質量の霊血で構成された装甲強度と重力バリアの出力は感嘆に値するところがあるが、防御性能に特出しすぎている。
無駄に過ぎるのだ。
無線電力供給を受けることができないゆえの工夫なのだろうが、同胞を裏切り対立してまですることでは到底ありえない。
やはり《
さらに敵機接近、攻撃に備えてこちらも重力バリアの調整を──
白金色の機体が、空中で弾けた。
『『──‼』』
驚愕は同時、それに対する行動もまた同時。
中空に四散した装甲のすべてを仔細に観測する。
それらひとつひとつが形状を変え、一個一個が破壊力を伴う兵装に変化したことを瞬時に知覚する。
その中心に、細く矮躯のような姿となった白金色の機体があった。
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