第二章「少女/新装(MAIDEN)」

第二章【1】 刻

 この〈惑星ほし〉には、かつて人類が築いた文明が栄えていた。


 五つの大陸が〈惑星〉には存在した。

 、存在した。


 ひとつは、広大な荒野となり僅かな自然を残すのみ。


 ひとつは、緩やかな海の浸食を受けて領域を狭めた。


 ひとつは、大規模な飢饉と紛争の発生地帯となり壊滅した。


 ひとつは、大戦の折に大量破壊兵器が濫用され、結果ヒトが生きられない死の土地と化した。


 残るひとつは、そもそもが住むに適していなかったゆえに過度な被害を受けることなく、かつての形をかろうじて保っている。


 いずれにせよ、かつては〈惑星〉を大きく分化していた五つの大陸は、その在り様を著しく損なった。


 繁栄を謳歌していた人類もまた、見る影もないほどに衰退した。


 もはや〈惑星〉の資源は尽き果てたも同然。

 それらを前提とした文明社会も、崩壊を遂げた。


 人々は二種類に分類されるようになった。


 農耕牧畜を営み原始的な生活をすることで生きる〈流牧民シーファ〉と、略奪を繰り返すことで日々の糧を得る〈奪落者ボルフ〉の二種類へと。


 そして、人類の全盛期から千年の歳月が経過しようとしていた。



          §§§



 依然として、〈目標〉に動きはない。


 土を固めて作られた家が並ぶ様子と、そこに暮らす住民の姿だけが、視界に映りこむ。


 地平線の彼方からる村の風景は、正しく〝平穏〟の一言だった。


 今のところ〈目標〉の姿そのものは視認できない状況だが、〈目標〉が進入してから村の外には誰も出ていないのは確認済みだ。


 村に面する海上側からも、同様の報告が届いている。


 も、同様の内容だった。


 村を視認できる限界の距離、一面の荒野の中に存在するとある場所で、〝彼ら〟は待機していた。


 それは、異様な光景だった。


 数十人から構成される集団だった。

 しかしこの際、人数は問題ではない。


 最大の問題は、その数十人の人間の身体がすべて、純白の装甲で覆われていることだった。


 見るからに特殊な素材で製造されたアーマーだった。


 直上から降り注ぐ太陽の光を完全に反射しているにも関わらず、その表面には少しの艶も生じていない。

 混じりけの一切ない白色の装甲には継ぎ目ひとつ存在しておらず、どのような加工が施されているかも判然としなかった。


 しかし、そのアーマーはあらゆる外部の刺激から装着者を保護する防護性を有していた。


 身を焦がすような熱気も、皮膚を燃やすような紫外線の光も、すべて遮断するほどに。


 さらに異様なのは、誰ひとりとして身じろぎすらしないということ。


 数十人規模の人間が集まっていて、誰も動こうとすらしない異常な光景だった。


 全員が地平線の彼方にある村の監視だけに集中して、ほかの事柄には関心すら抱く様子がない。


〈目標〉の監視を継続。

 このまま変化がないようならば、〝計画〟通り作戦を開始する予定。


 それは、文字通りのだった。

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