嫌なやつ

 エキシビジョンマッチで分かったことは、ヒロインたちの能力はやっぱり高い。一般戦に出ている《マギガングランクリ》にランクが用意されている理由が理解できてしまう。


 三人はそれぞれタイプが違うが、それぞれがかなりの高スペックだと理解させられる。


 他の三十七名のヒロインたちもやっぱりチートなのだろうが、頂上決戦で戦うなら互いに強い相手であることは間違いない。

 

 一年次で戦った三人も成長して、戦うことを思えば勝つためには訓練を緩めるわけにはいかない。


「マスター。お客様です」

「お客?」


 ダーク君に会いにくる人なんてホットさんぐらいだ。

 だけど、まだホットさんに頼んで、松セットを使うつもりはない。


「ホットさん?」

「いえ、男性の方です」

「男性?」


 私は誰が来たのかわからないまま、屋敷に通された人物がいるという応接間に向かいました。


 メイドのウルがお茶を提供しているそうなので、私が部屋に入ると銀髪にメガネをつけた美しい容姿をした、氷の宰相セバスチャン・フォン・アルセーヌがそこにいた。


「ようやく来ましたか、上流貴族を待たせるとはあなたは随分と偉くなったのですね」


 こちらに見下した視線を向けるセバスチャン。

 戦略においてダーク君と同等の能力を持つ彼はなんのようでしょうか?



 名前:セバスチャン・フォン・アルセーヌ

 年齢:十六歳

 性別:男性

 称号:公爵子息、氷の宰相

 固有能力:絶対支配

 状態:体力値:1000/1000、魔力量:500/500(枯渇状態)


 育成可能能力


 体力: C 1/100

 魔力: B 1/100

 魅力: S 1/100

 人望: B 1/100

 戦術: A 1/100

 運力: B 1/100


「随分と失礼なことだ。私は男爵位。あなたは位も持たない子息に過ぎないのに」

「ふん、そんなもの私が父上の後を継げばすぐに覆る程度の爵位だ」

「まぁ、位の話などどうでもいいです。あなたがここにくることは珍しいことです。なんの用でしょうか?」


 カイザー王太子は、セバスチャンと違って、私に対する嫌悪感や悔しそうな瞳を向けることはありましたが、セバスチャンは最初から私に対して見下すような瞳を向けています。


 能力が高いことは認めますが、私は彼に負けるとは思っていません。


「そうですね。単刀直入に申しましょう。こちらにマリア・シリウス様がおられると聞いてやってきました」

「ほう、マリア・シリウス様が?」

「とぼけるのですか? エキシビジョンマッチを行っている姿を見ました。こちらにいるのでしょ?」


 私は扉の向こうで聞き耳を立てているマリア嬢へ視線を向けます。

 彼女がどう思っているのかわかりませんが、セバスチャンの思考も分かりませんね。


「それで? いたからと行ってなんなのですか?」

「開き直るのですか! 彼女は高貴な家の血筋を引いているのですよ! あなたのような男の側にいていい人間ではありません」

「ふ〜ん、彼女が困っているときに手を差し伸べなかったのに?」

「そっそれは私は知らなかっただけで、彼女がカイザー王太子の婚約者ですから身を引いていましたが、婚約者でなくなったのなら……」


 イケメンに告白のようなことを言われればマリアはついていくかもしれない。


 それは別にいいのだが、私としては彼の矛盾点を指摘しなければいけないようです。


「それはおかしいですね。マリア嬢がカイザー王太子の婚約破棄されたことはあれほど大体的に報道された上に、誰もがマリア嬢から目を背けて助ける手を差し伸べなかった。彼女が一番困っているときに最も効果的に彼女を助けていれば、あなたの好感度は高まり、彼女と恋仲になれたでしょう。ですが、あれから数日。いえ、数ヶ月が経って今更彼女を助けたい? 随分とおかしな話ですね」


 私の指摘にセバスチャンが表情を歪める。

 随分と、分かりやすい人ですね。


「ふん、嫌われ者である貴様の側にいるぐらいならばと思ったのだ」

「ほう、私の側にいるのが彼女のためにならないと?」

「そうだ! 彼女は公爵家の人間なんだぞ!」

「それについてですが、マリア嬢は公爵家から勘当を言い渡されています。もしかしたら、彼女を使って公爵家に取り入りたいと考えているのであれば、無理ですよ」

「なっ! そっそうなのか?」

「ハァー、下調べが足りていないようですね。というか、今のであなたの目的がハッキリしました。あとは私ではなくマリア嬢本人に聞くとしましょう」


 私が立ち上がって扉を開くと、扉の前にマリア、ルビナ、ウルの三人が立っていた。


「……セバスチャン様」

「マリア嬢! 本当ですか? 公爵家から勘当されているというのは?」

「はい。本当です」

「……失礼する」


 態度を急変させたセバスチャンが、彼女たちの間をすり抜けて飛び出していく。


「おい! セバスチャン」

「なんだ!」

「学園が始まる前に、エキシビジョンマッチをしないか?」

「なぜ貴様と!」

「なんだ? 怖いのか?」

「なっ!」

「臆病者は尻尾を巻いて逃げろよ。じゃあな」

「いいだろう。エキシビジョンやってやる! 逃げるなよ」


 それだけ行って立ち去っていくセバスチャン。


 顔を俯かせるマリアに誰も言葉をかけることができなかった。

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