二人目のマギガンレディー

《sideウル》


 私の名前はウル。


 親父が猫獣人で、母親が普通の人間だった。

 所謂獣人のハーフだ。

 だが、二人は王都を守る大規模な戦闘を行なった際に、戦死しちまった。

 親父も母さんも騎士爵って位をもらってはいたんだけど、それは一代限りの貴族様ってやつで、私は受け継ぐことができなくて孤児になった。


 だけど、孤児の環境は最悪で、しかも獣人ってだけで他の人間よりも扱いは獣のように蔑まれる。

 たまに優しくしてくれるやつが来たと思えば、変態みたいに私の体をジロジロと見て、言うことを聞けば融資をしてやると言うおっさんもいた。


 最悪それでもいいかと思っていた。


 そのおっさんは私だけでなく、他の子供である孤児にも同じことをしろと要求をしてきた。

 そんなやつの言うことを聞けるはずがない。


 だけど、融資がなくなれば途端に食べるものがなくなり、どこにも働きにいけない私たちは餓死寸前にまで追い込まれた。


 そんな時だ。クソご主人様の屋敷を見つけたのは、本当はボロボロの敷地だったから、金目のものでも盗んでやろうと思っていた。

 だけど、下調べをしていたら急に屋敷が立派になって侵入が難しくなった。


 もう腹も減りすぎてダメだって思った時に、クソご主人様に拾われちまった。


 久しぶりに会うホットさんに私の事情が説明されて、クソご主人様が私を雇ってくれると言う。


 だが、どうせまた融資を申し出た親父みたいにイヤらしいことを考えているか、私に命令するつもりなんだ。

 そう思っていたから、ホットさんがいなくなると私は反抗的な態度をとって、距離を開くつもりだった。


 だけど、クソご主人様は私の態度を見ると、すぐに《アンドロイドマギガンレディー》通称ルビナに私を任せてどこかに出かけていった。


 私は警戒していたが、ルビナがまずは風呂に入れと言うので風呂に入る。

 久しぶりに体を洗うから、自分が臭かったことを知った。

 シャンプーやリンス、ボディーソープを使うと自分の体からいい匂いがする。


 そして、ボロボロのシャツをリサイクルダクトに入れると服が出てくる部屋に通された。服が新調されて私は驚きの声をあげる。


「おい! メイド服じゃねぇか!」

「当たり前です。あなたはマスターのメイドなのですから。それが清掃でしょ?」

「はぁ?! 誰がメイドなんてやってやるかよ!」

「はぁ〜あなたは食事をもらい、風呂に入れてもらい、部屋と服までもらった相手に恩を感じないのですか?」

「はっ! そんなの契約して、私に無理やり働かせるためだろうが!」

「まぁ、間違ってはいません。無理やりと感じるかどうかは、あなたの心次第ですが、働くために雇ったのでそれは当たり前ではありませんか?」


 クソロボットが! 何でもかんでも言い返してきやがって腹が立つ。


「それにあなたは痩せ細っていましたが何かの目的のためにこの屋敷に来たのでは?」


 私が盗みに来たことがバレている? このクソロボット、どこまで知ってやがる?


「まぁ私はマスターの命令に従うだけです。あなたを頼むと言われましたので」

「なぁ、どうしてあのクソご主人様のいうことを聞くんだ? 強さなら《マギガンレディー》の私たちの方が上だろ? 男なんて必要ないだろって話」


 私はキモいおっさんのせいで、男に触られると虫唾が走る。


「あなたは近いうちにマスターの凄さを知ることになりますよ」

「はっ! そんなわけないだろ。あんな不細工で暗い印象の奴に何ができるって言うんだ?」

「マスターは確かに不細工でしたが、最初に比べれば随分とマシになりました。そして、暗いのは事実です。ですが、マスターはすごい人です」


 いつまで経っても平行線だ。


「ウル姉ちゃん!」


 イライラしていると、私は久しぶりに聞く声に耳を疑う。

 私は孤児院にいる奴らを助けたかった。

 だけど、私は失敗して見殺しするしかできなかったはずだ。


「どうして?」

「ダーク様が助けてくれたんだよ!」

「ダーク様?」

「私がダーク様です!」

「なっ! クソご主人様!」


 クソご主人様は私の状況を見て、そして、ホットさんから孤児に預けられることを聞いて、状況を悟って私に食事を与えている間に、孤児院を助けにいってくれたそうだ。


 

 院長のベパさんに説明されて、先ほどクソロボットが言っていた言葉を思い出す。


「マスターは凄い人です」


 孤児たちからもクソご主人様を褒める言葉を言われる。


 私だって……、感謝しないわけじゃない。


「おい、クソご主人様!」

「はい?」

「仕方なくだ! 仕方なく仕事をしてやる。私はメイドとして雇われたからな。それに《マギガンレディー》として働いてやる」

「えっ? いいのですか?」

「捨てられた犬みたいな顔で見てんじゃねぇよ。これは借りを返すためだ。孤児院のこと、こいつらのこと……ありがとうございます」


 私は自分でも柄じゃないことはわかっているが、頭を下げて礼を告げた。


「はい。私も誰かが死ななくて本当によかったです。ウル。これからよろしくお願いします」


 そう言って差し出された手を見て。


「触ろうとしてんじゃねぇよ! それとこれとは別だからな!」

「ウル姉ちゃん!」


 孤児たちに嗜められても、カッコ悪い奴は嫌いだ。


 だけど、孤児たちを助けてくれたのはちょっとだけかっこいいと思ったけどな。


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