試験 11

 公園は穏やかで様々な人間模様が伺える。


「何を見ておられたのですか?」


 ダーク君の視界がカイザーとその仲間たちに向けられていることに気づいたルビナが質問を投げかけた。

 そうですよ。ダーク君、デート中に他の女性を見るなど言語道断です。


「ああ、あれを見ろ。カイザーたちも来ていたようだ」

「確かにそうですね。やはり皆さん考えることは同じですね。試験も大詰めになり息抜きに来られているのでしょう」

「そうなのか?」

「マスターは、息抜きをされないのですか?」


 そうですね。


 もしも、私が入っていなかったら、ダークくんは闇雲に訓練をして体を壊しながら自分のフルリフレッシュでなんとか乗り切っていたのです。

 その性格と人望のなさで、自らハードモードに突撃していくタイプなのです。


「う〜ん、あんまり得意じゃないと思う」

「息抜きが得意ではないというのは、変な話ですね」

「そうかな? 何かしていないと落ち着かないんだよ」

 

 ダーク君は自分が弱いと思い込んでいるので、不安から戦術に時間を費やしていました。それに他の知識が欠けています。効率的な人望や魅力の上げ方を知りません。


「不器用なのですね」


 公園は風が吹いてルビナの髪が靡く。

 彼女の姿はとても美しく、ダーク君にはもったいないほどです。


「そうかもな。だけど、最近は《マギガンスクール》が楽しいと思っているよ」

「えっ?」

「ルビナが《マギガンレディー》として、俺に協力してくれているからな。お前が協力してくれれば、俺は勝てる」

「ふふふ、そうですか」


 しばらく二人は公園を歩き、のんびりとした気分転換をしました。


「そろそろ帰ろうか」

「はい」

「うん? あら? あなたダーク・ネクストではなくて?」


 いきなり声をかけられて振り返れば、マリア・シリウスがこちらを見ていた。

 その後ろにはカイザー王太子がいる。


「何か?」

「まさか、こんなところで会うなど、もしかして偵察かしら?」

「そんなわけないだろ」

「ふん、あなたのような卑怯な手段でしか、勝利しない人の言うことなど信じられませんわ!」


 堂々とした態度で、こちらをディスってくる令嬢に、ダーク君はイラっとしました。


 ですが、せっかくルビナが誘ってくれた気分転換の雰囲気を壊したくないと思って、反論しないようにグッと我慢しました。


 ダーク君は、成長をしています。

 

 しかし、それを負けを認めたと判断したマリアは調子に乗りました。


「そもそも、あなたがカイザー様に挑戦することは間違っているのです。あなたがカイザー様に勝てるはずがないでしょうに!」

 

 指を突きつけて、こちらを威嚇するマリアに、ダーク君は深々と溜め息を吐いた。


 いっそシミュレーションで勝利したことを言ってやろうかと口を開きかけたところで。


「やめろ! マリア」

「なっ! なんで、カイザー様が怒るんですの? 私が何かいたしましたの?」

「うるさい。黙れ」

「ヒゥ!」


 意外に、いつも女性に対して紳士な態度をとるカイザーが、声を荒らげる。

 マリアはカイザーの変化に驚いてビビった態度をとっていた。


「いくぞ」


 こちらを一瞥しただけで、立ち去って行こうとするカイザーにダーク君は逆に苛立ちを覚える。


「おいおい、女性の躾がなってないんじゃないのか?」

「なっ! なんですって!」


 ダーク君の挑発にマリアが反応する。


「やめろと言ったはずだ」

「はっ、はい」


 しかし、ダーク君の挑発に乗ろうとしたマリアをカイザー王太子が止める。


「……我が連れの非礼を詫びよう」


 カイザーの反応にダーク君も、これ以上は挑発しても意味がないと判断した。


「ふん、もういい」


 ダーク君は面白くなさそうに立ち去ろうとする。

 だが、そんなダーク君の後姿にカイザー王太子が声をかける。


「ダーク・ネクスト。貴様がどんな手段を使おうと、我々は負けない。どんな手段でもだ」


「……楽しみにしている」


 カイザー王太子がなぜそんな言い方をしたのかはわかりません。

 ですが、カイザー王太子なりにダーク君のことを気にかけていたのかもしれませんね。


 ゲームをプレイしていてもわからなかったことですが、彼らには彼らなりの考えがあるんだと思います。


「マスターは、カイザー王太子が嫌いですか?」


 それは私も知りたかったことです。

 私はダーク君の思考を全て読めるわけではないので知りたいです。


「……嫌いじゃないさ。むしろ、羨ましくはあるが嫉妬するほどに完璧な存在だって思ってるよ」


 意外ですね。


 ダーク君は全てを呪っているような男の子だと思っていました。


 ですから、勝利に執着して、他のキャラを見下しているのだと。


 ですが、私が転生した時から、ダーク君の心が多少は流れてくるので、言葉の裏があることはわかっていました。


「ふふ、マスターのライバルなのですね。では、負けるわけにはいきません。帰ったら訓練をしましょう」

「おう! 絶対に勝つぞ!」

「はい!」


 なんでしょうか? 二人の絆が深まったように感じます。


 ふと、振り返ったカイザー王太子たちの間には溝ができたように見えるのは気のせいでしょうか? 


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