試験 3
訓練所でルビナの動きを確認した。
正直な話。
ルビナは体力はあるが、命中精度が悪く、動きも鈍い。
だけど、《アンドロイドマギガンレディー》の特徴を持っているので、全身から一斉射撃という広範囲能力を持っている。
「ザコマスター。やりますね」
「ザコっていうな! とにかく、ルビナができることは把握した。だから、俺からの指示はそれほど多くない。体力と物量で勝負することに変わりはないからだ」
「芸はありませんが、現状では最良の選択だと思えます」
「ああ、だが負けるつもりはない。だから情報収集は怠らないぞ」
ダーク君とルビナの会話は、ダーク君が謝ってから概ね良好と言える。
ルビナは常にダークくんのステータスを見て、呼び方を変えている。
それは彼女なりに、ダーク君を正しく評価しようとしてくれているのだ。
「私はもう少し命中の精度を上げたいと思います」
「そうだな。《マギガンレディー》は己の能力を上げることに集中するのがいいだろう」
でしたら、命中率を上げる訓練を提案してみましょうか? 今ならダーク君の提案でも聞いてくれそうな気がします。
「なら、一つだけ提案がある」
「提案?」
「そうだ。一発一発を打つ前に必ずルーティンを決めて狙いを定めてみろ」
「ルーティンを決めて狙いを定める?」
「ああ、そうだ。目を閉じるとか、相手の位置を確認するとか簡単なものでいい。それならスピードは関係ない。それに一発に込めることで集中力が増すから、命中率を上げることができる。ルビナは体力があるから練習でも集中しての練習をしっかり行えるだろ?」
ダーク君は人望:Fにあげたことで、まともに会話ができています。
「わかりました。今まで一番まともな指導ですね」
「またバカにするのか?!」
ダーク君がジト目で見れば、ルビナは表情を変えないまま見つめ返してきた。
「いいえ、いつもそのようにしていただける方がありがたいです」
「えっ?」
「それでは訓練に行って参ります。偵察をよろしくお願いします」
「あっ、ああ」
ルビナが去った後にダーク君は、少しだけ唖然とした顔をしていた。
♢
イサークルートのメインヒロインは三人存在する。
それ以外のサブヒロインたちと過ごすこともできるが、メインヒロインと過ごすことで、能力のアップ率や好感度が早く上がりイベントを起こしやすい。
カイザー王太子ならば、誰でもすぐに好感度が上がっていくのでチート級の魅力と言える。
イサークも魅力は高いのだが、いかんせん、貧乏というネックが貴族女性のキャラからは嫌われる。
そのためイサークのメインヒロインたちは努力家な平民たちが多い。
一番最初に出会ったのは、バイト先であるバグドルドの店員さんだ。
笑顔が素敵で元気なタイプの女性で、俊敏な動きと高い魅力をもつ。
「はい、バグバーガーですね。セットでポテトとお飲み物はいかがですか?」
「じゃコークで」
「はい。それでは注文を繰り返します。バグバーガーとお飲み物のセットで二百イエロになります」
「はい」
「ありがとうございます。それではご用意しますので、少々お待ちください」
そう言って注文の品を取りに行く女性。
彼女の名札にはエイミと記入されていた。
イサークのバイト先の先輩で、イサークと同じような境遇で貧乏ながらに《マギガンレディー》で活躍することを夢見る少女だ。
「おまちどう様でした」
笑顔で商品を渡してくれる彼女は、バグドルドの看板娘として活躍している。
接客態度がよく、バイトをしながら魅力を高めているのだ。
それと同時に小柄ながら俊敏な動きが、ルビナとは正反対の能力を持つ。
「ありがとう」
ダーク君は食事をしながら、じっとエイミを眺めて観察を続けた。
彼女の動きの機微を観察するためだ。
「おい! お前」
「えっ?」
「さっきから、エイミさんをガン見してるが変なことを考えているんじゃねぇだろうな?」
「えっ? 変なこと?」
いきなり二人組の男に絡まれて、唖然としてしまう。
「エイミさんが美人だからって、バイト終わりに襲おうと思っているなら俺たちが許さないからな」
「そうだそうだ。俺たちエイミさん親衛隊が黙ってねぇぞ」
いきなり現れた輩に恐怖を覚えながら、ですが私は彼らのことももちろん知ってします。ですから、彼らに言い放ってやるのです。
「ボクは、観察していただけだ。イーサンの女を」
ダーク君! もっとオブラートに包む言い方を考えていたでしょうが! 流石に人望:Fではそこまでは言えないと思っていましたが、その言い方では、彼らに大ダメージを与えてしまいます。
「ガハッ!」
「グフっ!」
やっぱり、クリティカルヒットしたようだ。
こいつらはエイミに恋焦がれる親衛隊でありながら、異能に目覚められなかった一般人だ。
だから、イサークにエイミを奪われて行く姿を見て血反吐を吐く。
何かとイサークに絡むのだが、その度にエイミがイサークを庇うので、吐血する。
「ボクはイサークの対戦相手だ。あいつを負かすために彼女を見ていた。問題あるか?」
「……ない。邪魔をした」
「お前を応援してはやらんが、彼女をイサークから解放して欲しい。以上だ」
解放とは皮肉な話だ。
イサークが負ければエイミはますます、訓練に集中するようになって二人の距離は近くなるのだから。
彼らの願いが叶うことはない。
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