マギガンスクール編

転生したようです。


 ゲームをやり過ぎて、興奮のあまり意識を失ってしまいました。

 死んだと思っていましたが、どうやら意識を取り戻すことができたようです。

 ですが、目を覚ますと見たこともない景色が広がっています。


 眩しいほど綺麗な顔をした男性たちが私を見下ろしているのです。

 芸能人のアイドルグループでしょうか? 

 どこに視線を向けてもイケメンばかり、全員で十一名おられます。


「おい! ダーク! 調子に乗るなよ」


 イケメンから怒鳴られました!

 

 何もわからないのに怒られるのは理不尽です。

 このように怒られたのは、上司から理不尽に怒鳴られて以来です。

 ですが、冷静になってくると私は今なんと呼ばれました?


 ダーク?


「ぼっ、ボクは悪くない! 全部お前たちが弱いのが悪いんだろ」


 今、私に向かってダークと言われましたか?


「あん? とうとう頭までおかしくなったんじゃねぇか、こいつ?」


 そう言われて、イケメンたちの顔をマジマジと見ました。

 

 ふと、見知った顔で目が止まりました。


 金髪碧眼に整った容姿、誰が見てもイケメンな完璧な王子様、カイザー・フォルクス・ド・マルセウス様です。

 え〜! ゲームで映像として見ていたときよりも綺麗です。

 美しい芸術作品のような顔をしています。


 驚いていると、私の頭の中に記憶が流れ込んできました。


 ダーク・ネクスト君の記憶です。


 どうやら突き飛ばされた拍子に頭を打って意識を失ったダーク君に、現世で死んでしまった私が転生してしまったようです。


 ゲーム開始から一ヶ月が経った際に起こるイベント。


 カイザー王太子との模擬戦を卑怯な手を使って勝利した後のようですね。

クラスメイト全員から嫌われるシーンです。


 私は視線を、カイザー王太子の横に立つ。

 メガネに銀髪、氷の宰相と呼ばれるようになるセバスチャン・フォン・アルセーヌ君へ向けます。

 彼は私の視線を感じると、ため息を吐いて蔑んだ目で見下ろしました。


 「君にはサポーターの誇りはないのですか?」


 吐き捨てられた言葉は次の者からも浴びせられる。


 カイザー王太子の次に魅力値が高く。腰まで伸びる真っ赤なロングヘアーをした、美しき薔薇の貴公子アルトゥール・ド・ローゼンベルク。


「ふん、貴様には美しさがない! 下劣な!」


 私から視線を逸らした彼の横には、国教の司祭であり、白い髪に白い肌をした美少年。神の正しき子ラファエル・ジ・シュタインブルクが目を閉じていた。


「神はあなたの行いを許さないでしょう」


 ため息と共に教室を退出していく。


 褐色の肌に異国の王族としての威厳をもつ、ドレッドヘアーをした太陽の申し子、オリバー・ソルメル皇子。


「愚民が! 恥を知れ!」


 続け様に浴びせられる言葉は、全てダーク君へかけられる言葉です。


 青い髪に鍛え抜かれた細い体、魔剣を腰に携える勇敢なる騎士レオナルド・ハインツ。


 「礼儀を成していない者よ。万死に値する」


 騎士だからこそ不正が許せないという態度だ。

 

 オレンジ色の髪にカウボーイハットを被った、筋骨隆々な荒くれハンター、ケイン・バンデット。


 「いくら生き残るためでもやっていいことと悪いことがあるぜ。お前に誇りはねぇな」


 一人一人が私を、ダーク君を嫌っています。

 

 綺麗に剃られた頭に女性と見間違う美しい容姿。

 それをターバンで隠した神秘の使徒、ラジャン・パテル。


「神罰が降るであろう」


 王族、貴族、騎士、宗教家、様々な人種が能力を発動させてここに集まっている。


 黒髪を編み込んだロングヘアーに制服を着やすいように改造して、本をもった叡智の賢者リー・ミン。


「卑劣漢には、生きる意味などないね」


 彼らは、メインストーリーで世界を救う英雄になる。


 焦茶の髪を短く切り制服をきっちりと着こなす東方の奇跡カツヤ・トウゴウ。


「恥を知れ! 戦いを冒涜しおって!」


 種族など関係ない。様々な人種が共存する世界。


 灰色の髪を目が隠れるまで伸ばした薄幸の美少年、極貧騎士イサーク・マルコ。


「最悪だね」


 全員が、ダーク君を蔑み、罵り、傷つけ、教室を退出していく。

 

 彼らのことを私はよく知っています。


 死ぬ前にやっていたゲームの登場人物たちですからね。

 彼ら一人一人のシナリオは全て攻略しました。

 そして、この光景は私が生前に、最期に繰り返し攻略しようと課金までした悪夢の象徴です。


 ダーク君の断罪シーン。


 最も難関超ハードモードと言われるダーク・ネクストの攻略パートの冒頭です。

 

 男性キャラを育てる《マギガンスクール編》の序章の映像です。


 《マギガンスクール》通称、《マギ学》では、男子キャラを女性キャラのサポーターとして育成する学園編をプレイします。

 

 男性キャラに合わせた設定と環境、さらにはシナリオを加えることで育成の面白さにボリュームを持たせて、登場する女性キャラを攻略して選手になってもらうのです。


 男子の育成が芳しく育てられないとランクが弱い女性キャラしか育成ができません。そのため本編シナリオを攻略することが難しくなります。

 

 女性キャラ育成パートの《マギガングランプリ》を勝ち進んでいくことも困難になります。

 男性キャラ育成パートこそが、このゲーマーにとって、一番大事なやり込み要素であり、男性サポーターの育成を何度も作り続けることになります。


 ある程度のレベルになれば、本編を攻略することはできるのですが、ネット対戦を勝つためには育成がどんどんハードになっていきます。

 個性や戦術なども必要になるので、ネット対戦は専用配信者なども存在しました。


 男子キャラを育てる一年の育成パートがどれだけ大事なのか思い出したところで。十一名のことを考えました。

 彼らそれぞれにシナリオと育成難易度が存在します。

 ですが、嫌われ者であるダーク君は、全員から嫌われている超ハードモードです。

男性キャラ同士が仲良くなると、相手の育成方法や得意なスキルを授けてくれることがあるのです。

 

 彼らに嫌われてしまえば、ダーク君が個人的に持っているスキル以外を女性キャラに教えてあげることができなくなります。


「なっ! なんでこんなことするんだ! 負けた腹いせか?」


 立ち去っていく彼らに、ダーク君が勝手に声をかけます。


「はっ? お前が卑怯な手ばっかり使ってくるからだろうが!」


 カイザー王太子を中心に私を睨む男子生徒たち。

 その中でも、ワイルドカウボーイイケメンのケイン君が、太く鍛えられた腕から伸びる拳を私に突きつけて怒鳴り声をあげました。


「ひっ、卑怯な手なんて使ってない! お前たちが弱いからだ」


 ダーク君は、卑怯と呼ばれる手を使っています。

 いや、実際には卑怯ではないのです。

 《マギガングランプリ》に参加する者にとっては、あまり褒められた戦い方をしているわけではないというだけです。


「お前は、《マギガンレディー》たちを駒だとでも思っているのか?」


 カイザー王太子の睨みに、喧嘩もしたことがない私は心臓が縮み上がります。

 イケメンに睨まれるとこんなにも怖いのですね。

 ダーク君は、このような表情を二年間も浴びることになるのですね。

 地獄以外の何ものでもありません。


 ダーク君がカイザー王太子に勝利したのは、シミュレーションゲーム機です。


 仮想の《マギガンレディー》たち三人に指示を飛ばして戦わせます。

 その際に誰かを犠牲にする戦い方や、1on1と呼ばれる決闘中に他の選手が割り込むことは、ルール上は問題ないのですが、嫌われる行為というわけです。


 勝てば良い。そう言えば、それまでですが。

 

 貴族出身者が多い教室の中では忌み嫌われてしまいます。

 十二名のクラスメイトの中でダーク君だけが、その邪道と呼ばれる技法を使った戦い方をしていました。

 

 それは教科書通りに戦う彼らの意表をつく行為であり、ダーク君はシミュレーション戦をするたびに連戦連勝を繰り返します。


 どのキャラを選んでもダーク君には勝てません。


「駒で何が悪い! 勝てればいいんだ!」


 私が思っていることと裏腹に、ダーク君の口からは相手を煽るような言葉ばかりが発せられます。


「ふん、貴様は《マギガンサポーター》に相応しくない」


 カイザー王太子の言葉に全員が頷き。

 それ以降の私は彼らから事あるごとに嫌がらせを受けるようになりました。

 


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