毒舌少女
生き倒れていた女の子を屋敷の中に入れて、私はすぐさまホットさんに連絡を入れました。
今の私にとって頼れるのはホットさんだけです。
「これは?! 誘拐ですか? ダーク様! 流石に保険会社でも庇うことは!」
「ちっ、違います! 屋敷の前に行き倒れていて」
「そうです。我々は人命救助です」
ルビナも擁護してくれたので、なんとかホットさんが信じてくれた。
「ふむ。防犯カメラを見れば嘘かどうかすぐにわかりますよ?」
「断じて違います!」
「ふふ、信じます。実は、彼女のことは知っております」
「えっ?」
「彼女の両親も、昔は王国騎士隊に所属していたものですから」
「騎士隊所属していた?」
「はい」
過去形であることでわかる通り、彼女の両親は幼い頃にすでに亡くなっており、まだ幼すぎてお金の管理ができないという理由で孤児院に預けられていたそうです。
ですが、なかなか孤児院で馴染めない彼女は、数日前に家出をして行方不明になっていると連絡が来ていたそうです。
「そうだったのですね」
「家事全般は得意な子なんですが、ちょっと訳ありでして」
「訳ありですか?」
「その前の数日は食事も取らないで体も汚れているのです。まずは彼女をキレイにしますので、ダーク様は外に出ていてください。ルビナさんお手伝いいただけますか?」
「かしこまりました」
「あっ! はい」
ホットさんに指示されて、私は部屋の外に追い出されました。
手早く彼女をお風呂に入れて着替えさせてくれました。
最新の寮では、各部屋にトイレやお風呂、キッチンなども簡易で用意されているので、どの部屋を使ってもらっても生活ができるようになっている。
また、着替えもクローゼットに魔力を流すことで、新品が生成されるようになっている。
材料とかの補給は必要ではあるが、いらない服などを入れておけば自然にリサイクルして使ってくれるのだ。
今回は、新しい部屋に寝かせていたので両親のいらない服を入れて新しい服を作ってもらった。
「終わりました。彼女が起きるまで少し彼女の話をさせてください」
「はい」
他人の秘密を聞いても良いものかと思いましたが、我が家の前で倒れていたのも何かの縁です。
「まずは、彼女を救っていただきありがとうございます。王都内には良くない集団もおりましたので、彼女がそのような者たちに連れ去られていたらと思うと気がきではありませんでした」
ホットさんは優しい人ですね。
私の時にも親身になってくれて、彼女のことも本気で考えています。
「彼女の名前はウル。爵位は告げませんでしたので、姓はありません。両親はすでに亡くなっており、年齢は十六歳。身長156センチ、体重は先ほど測ったところ40キロしかありませんでした。痩せすぎなので今後はたくさん食べさせないと。バストはCでした」
「なっ! なんでバストまで」
「ふふ、それはこれからの話ですが、彼女は《マギガンレディー》の素質を持っています」
《マギガンレディー》と呼ばれる魔導銃を使って戦う選手に女性であれば誰でもなれるというわけではありません。
「そうだったんですね」
「ええ。ですが、先ほども話した通り、問題がある子で孤児院育ち。《マギガンサポーター》の方々が嫌う要素が多く。そのチャンスにも恵まれませんでした」
《マギガンレディー》として、選手登録を行うために必要な物がいくつか存在する。
彼女がそれを所持しているのか? ステータスを確認する。
年齢は十五歳以上。
性別は女性。
能力を所持している。
種族、猫獣人
「そこでダーク様にお願いがあります」
「お願い?」
「はい。あの子を、ウルを雇っていただけませんか?」
「はっ?」
「ウルは孤児院でメイド修行をしておりました。家事全般ができますので、生活を送る上でダーク様の助けになります。そして、《マギガンサポーター》であるダーク様に指導していただければ、《マギガンレディー》としての未来もひらけます」
王都では《マギガンレディー》は一番の花形職でもある。
問題ありのダーク君と、問題ありの行き倒れ少女。
「いかがでしょうか?」
「よかったではありませんか、マスター」
「えっ?」
実際に、《マギガンレディー》が見つからなくて困っていた。
「如何と訊かれましても、本人の意思を尊重しないことには?」
「いいよ」
私たちの会話に突然別の声が聞こえてきて、私とホットさんは驚きます。
扉の前に立っていたのは、ふわふわな猫耳を立たせたオレンジ髪の猫獣人美少女でした。
「ウル! 起きても大丈夫なの?」
「うん。今の話を聞いた。私をここで雇ってくれるって、本当?」
「ええ。家主であり、《マギガンサポーター》の資格を持つダーク・ネクスト男爵よ」
「そう、私はウル。能力は《必中》どうかメイドとして雇ってください」
弱々しく痩せた手足。
生気を失った瞳。
美少女ではあるが、あまり関わり合いになりたくない人物ではあります。
ですが、私はダーク君の両親が死んだ時に決めたことがあります。
ダークくんを幸せにする。
これが彼を幸せにする第一歩になるのであれば、躊躇う必要はありませんね。
「わかりました。それではウルさん。私はダーク・ネクストです。今後は雇い主となります。よろしくお願いします」
握手を求めるために手を差しました。
ですが、彼女は手を握らずに深々とお辞儀をしました。
「ありがとうございます。ご主人様」
美少女にご主人様呼ばわりをされて、心がザワザワと嬉しくなりました。
「それでは契約の一式をこちらでしておきます。ウル、くれぐれも粗相のないようにね。それと仕事はキッチリやりなさい」
「わかっているわ。ホットさん」
「ふぅ、あなたは……」
ホットさんは何やら疲れた様子で頭を抱えましたが、私へ向き直って息を整えました。
「ダーク様。くれぐれもウルをよろしくお願いします」
まるで親御さんのように頭を下げたホットさんに約束します。
「はい。私も助かりますので、契約をお願いします」
「はい。メイドの契約は一年毎に更新になります。何があろうと契約解除はできません。どうしてもの場合は違約金を払って追い出すことになりますので、くれぐれもご注意ください」
「わかりました」
ホットさんに念押しされて、何かあるのかと思いましたが、彼女を見送ってウルとルビナの三人になりました。
「改めて、よろしく頼むよ。ウル。ボクはダーク・ネクスト、そしてこっちの《アンドロイドマギガンレディー》がルビナだ」
私がもう一度握手をするために手を差し出すと。
「触れたくありません。クソご主人様」
「えっ!」
「クソご主人様は、ご自身の顔を見たことがないのですか? お元気な体をされているのに、病人のような顔をして気持ち悪いですよ。病人さんたちに悪いと思わないんですか? キモいので触ろうとしないでください」
ホットさんがいなくなった途端に浴びせられる悪態の数々に、私の心はダメージと共に初めての快感を覚えました。
なっ、なんでしょうかこれ? 物凄く言われているのに嫌ではありません。
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