屋敷建設編
課金アイテムと遺産
ネクスト男爵家にたどり着くと、そこにはネクスト夫妻の訃報を知らせる手紙が届いていた。
三人だけの家族。
ダーク君の両親がいるといわれた場所へと赴いた。
「君の両親は、魔物と勇敢に戦った。多くの兵士や騎士を救ってくれたんだ。感謝する」
そう言ってダーク君を励ましてくれた騎士は、ネクスト男爵であるダーク君のお父さんの同僚だったそうです。
どれだけダーク君の人生はハードモードなのでしょうか? ランキングを勝ち上がり首位で一年次を終えたダーク君が喜び勇んで帰り着いた家には誰もいない。
ダーク君に残されたのは、両親が帰ってくることのない男爵家の土地と屋敷だけです。
「ボロボロの一軒家ですね。辺りは空き地ばかりで、こんなにも不便な街ハズレ」
ルビナの言葉にダーク君の脳裏に様々な記憶が流れ込んできます。
ここはスラム街の一角で、幼い頃から両親と共に育った場所です。
王都を守るために、戦いに身を投じていたネクスト夫妻は、勝つために様々な手段を使う人たちだったようです。
それは自らの能力が低くても生き残るために必要な技術と知恵であったことをダーク君は知っています。
そんな両親から教えられた通り《マギガンスクール》では戦う知識を優先して学んでいました。
ですが、その結果が卑怯だと忌み嫌われる存在になってしまいました。
男爵の地位を与えられ、大きな屋敷を建てられるほどの稼ぎがあっても、家族が帰ってこなければなんの意味もありません。
「うっうっ」
気づけば、ダーク君の体は、家族を思って涙を流していました。
彼は天涯孤独の身になったのです。
それまで俯瞰的に私はダーク君に指示を出していたような気がします。
ですが、塞ぎ込んだダーク君の心はこれまでの頑張りが全て無駄に終わったと感じるほどの絶望が待ち受けていました。
どんな手を使ってでもいい。
両親を亡くして涙を流すダーク・ネクスト君を私は幸せにしたい。
そのために私は転生してきたのだと認識することができました。
「マスター!」
ルビナさんも心配そうに声をかけますが、ダーク君の心は固く閉じられ出てきません。仕方なく私は自分の意識をダーク君の体へと浮上させました。
胸が熱く、涙が流れる体を止めることはできません。
ですが、私と入れ替わったことで、少しだけ気持ちが軽くなったような気がします。
「失礼します! こちらにダーク・ネクスト様はおられますか?」
私が立ち上がったところで、来訪者がやってきました。
ボロボロな屋敷に反して、セキュリティーがしっかりした門を開くとスーツを着た女性が立っています。
「えっと、私はダーク・ネクストです。何が御用でしょうか?」
ダーク君の代わりに、私が彼を動かして来訪者を出迎えます。
「あなたはダーク・ネクスト様ですね。私は王国守護騎士隊保険管理組合の者です。ご両親が生前に登録されていた保険の相続について任されておりましたので、本日はやってまいりました。王国守護騎士保険管理組合のホットと申します」
長々とした肩書きに両親が保険に入っていたと説明を受ける。
「ホットさん?」
「はい」
ホットさんは、二十代後半ぐらいの真面目そうな女性でした。
両親が死んだことで、私に対して保険金及び、生前の貯金に対する法的な遺産相続を教えてくれて正式に授与する手続きまで整えてやってきてくれたのです。
てっきり、ただただ広い土地とプレハブのような古屋だけだと思っていたので、寝耳に水でした。
「こちらが遺産の総額になります」
そう言って渡されたのは、松竹梅の三枚のファイルと、とんでもない額が記された預金通帳でした。
ルビナにも同席してもらって、確認をしてもらいます。
松竹梅の三枚のファイルは、私が死ぬ間際に購入した課金アイテムに間違いないありません。
ファイルをめくると課金情報に書いていた通りの情報が記されていました。
「こっ、こんなに!」
「はい。それも全て両親の愛ですね」
多額の保険金は確かに両親の愛だと思います。
ですが、松竹梅のファイルは、生前の私からダーク君への愛です。
「全ての遺産受け取りが受理されました。そして、ダーク様はお父上の地位を継承されることになります。そのため本日より男爵の位を授かります。領地は現在おられる場所だけですが、開拓はなされますか?」
何を言われているのか理解が追いつかない。
開拓も何も、広い空き地をどうしろと?
「こちらの梅プランをご覧ください」
そう言われて梅プランのファイルを開けば、カスタマイズ農園と書かれていました。王都は外部の魔物から受ける影響で、王都を出て外への食糧確保は望めません。つまり常に食料難が続いており、日々悪化の一途を辿っています。
梅プランは、食料確保を優先した農園プランが記されています。
広い土地に、畑と田んぼ、それに家畜の自動世話やりシステムのセット付きです。
さすがは近未来を舞台にしたSF魔法世界です。
発想が機械を利用していて素晴らしいです。
この世界は、魔導銃と魔導科学が主流です。
早速、梅プランを使って領地ならぬ空き地開拓を魔導機器で実行してもらいました。ホットさんは、松竹梅ファイルの全ての受け渡しが終わるまでは秘書として、全ての事務的な業務を代行してくれるそうです。
わからないことや手続きなどの手間を全てお願いしたら、代わりにやってくれました。
「次は生活圏ですね。竹プランをご覧ください」
そう言われて竹プランを開くと、近未来の叡智を結集させた《マギガンレディー》たちを成長させるのに相応しいトレーニング施設と、寮生活を送りやすい大きな屋敷。
さらには、侵入者を防ぐ外堀や門の修繕プランなどがまとめられた内容が書かれていました。
デザインや細部の細かなオプションも選びたい放題です。
トレーニング施設には、プールやランニングコースがあります。
周辺のトレーニング器具なども選ぶことができて、竹プランの限界までこだわりにこだわり抜いたプラン内容が記されていました。
「ふふふ、自分でも恐ろしいです。ここまで素晴らしい建物ができるとは」
「これはこれは随分と立派ですね」
不思議な光景だが、ボロボロの屋敷と空き地だけだった我が領。
梅のファイルを選択しただけです。
・様々な野菜が作れる農業プラント。
・様々な人工的な肉を養殖する畜産プラント。
・最後に茶畑と稲と麦の自動畑管理プラント。
三つの食料プラントが一瞬で完成した。
さらに、竹ファイルを選択しただけで。
・ボロボロだった外壁が修理されます。
・ボロボロだった屋敷は、綺麗に建て変わり。
・マギガンレディーたちが寝泊まりできる寮が建てられた。
・百名が入っても運動ができる、運動場型体育館。
・運動場に備え付けられたトレーニング機器場。
・マギガンレディーたちが、射撃訓練を行える射撃場。
・敵を想定したシミュレーションバーチャル戦闘訓練場。
・最後に、とっておきの仮想フィールド作成まで、実現されました。
これが課金アイテムの力!!!
「いかがでしょうか? 実際のフィールドと遜色がないと思います。あくまで魔石を使って生み出しておりますので、魔石が消耗してしまえば使えなくなります。こまめな魔石交換をお願いしますね」
私の驚きにホットさんが丁寧に受け答えをしてくれる。
ここまでの費用は全て、松竹梅のプラン内なので、全て無料ということになる。
生前の私よ。課金してくれてありがとう。
領地内の食料事情解決。
住むための屋敷事情解決。
《マギガンレディー》たちを育てる訓練所と、寮の完成。
全てが完璧です。
もしも課金がなければ、両親からの遺産も松竹梅セットも全てが存在しないので、収入がない状態でプレハブと、ただただ広い空き地の所有税を納めなければいけない状況でした。
超ハードモードのダーク君のシナリオでは、両親を失った後。
様々な日雇い肉体労働のバイトをしながら生活をしていくというスタートを余儀なくされるのです。
しかも、ルビナさん以外の選手も集まらないまま《アンドロイドマギガンレディー》をレンタルして《マギガンスクール》を卒業することになります。
そんなことは最初からわかっていました。
ダークくんを選択しても、最初の年は《マギガングランプリ》に参加することが不可能なのです。
ホットさんに松ファイルに関しては、まだ受け取らないことを告げて一旦お帰りいただきました。
変わり果てた我が城に、ルビナと唖然としてしまいます。
「ハァ〜、素晴らしい屋敷と訓練所はあるのに、肝心の選手がいなければどうすることもできませんね」
「そうですね。私一人では二年次を勝ち抜くことはできません」
嘆きながらも、今後の事を考えていると来訪者を告げるブザーがなりました。
「誰でしょうか? このようなイベントはなかったはずですが?」
課金したことで新たなイベントが追加されたのでしょうか? 門を開くと、行き倒れている女の子がいました。
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