#05【朗報】いろいろあったけど……妹とVTuber活動を楽しんでいます!【完】

にぃ! 大丈夫っすか……?」


 発光を止めたスマホがオレの膝の上に乗り、菜々花が心配そうに声をかけてくる。


「うん……まぁなんとか……。それよりオレ……菜々花に謝りたい事があるんだ」

「謝りたいコトっすか?」


 オレはスマホを両手で持ち、勢いよく頭を下げた。


「ごめん……! オレがみちろうの台詞を真似して、菜々花にあんな事言ったから、『もうお話ししない』って言ったんだよな? 馬鹿みたいにカッコつけて、冗談半分で言った台詞を、菜々花は真剣に受け止めてくれたのに、オレはそれをすっかり忘れてて……。本当にごめんなさい」


「ふふっ……やっと思い出してくれたんすね」

「うん……」

「だったらもういいっすよ」


「いやでも……! たくさん悩ませただろ……? 『もうお話ししない』なんて、言わせてしまったしさ……。おまけに、『ストーリー×ヒーローズ』の舞台が中高一貫校だからって、同じように――」

「いやいや、別に悩んでないっすよ! 本音を言うともちろん、寂しさはあったっすよ? けど、ジブンはココノさんに憧れてるんで、那津樹にぃとの熱い約束を交わしたつもりでいたんすよ。だからジブンは、その熱い約束を那津樹にぃが忘れてたコトに怒ってただけっす。あと、中高一貫校に通っているのは『ストヒロ』と全く関係ないっすよ。電車通学に憧れてたのと、その学校の制服が可愛かったのと、eスポーツ部があるからっす!」


「え……そんな話……初耳なんだけど……」


 てか、『怒ってない』って言ってたけど、やっぱり怒ってたんだ……。


「あー……そういえば、那津樹にぃには、言い忘れてたっすね……」

「で、でも……生霊を飛ばす程、悩んでた事には変わりないだろ?」


「いやいや、それこそ『ストヒロ』も那津樹にぃの言葉も関係ないっすよ! そもそも最初に言ったっすよね? マナさんに活動を続けてほしくて、生霊を飛ばしてしまったって!」

「そうだけど……生霊を消せない理由が増えたとも言われたし……」


「それは那津樹にぃが自分で言ったコトを忘れてたからじゃないっすかー! つまりどう考えても後付けっすよ!」

「あぁ……確かにそうだな……。まぁなんにしても元を辿れば、オレの軽はずみな発言から、ここまでの事態に発展した訳だしな……。まさか、噂の生霊の元凶が、自分自身だとは夢にも思わなかったし……。この件に関しても、巻き込んでごめん」


 あと、巻き込んでしまった、近所のご兄妹の皆さんもごめんなさい。どうか、仲直りできてますように……。


「いや~……あれはびっくりしたっすね~。でも、『ストヒロ』の、暴走した路狼さんVSココノさんの再現みたいで面白かったっすし、ジブン的には問題ないっすよ!」


 アレを『面白い』と言えるのはすごいな……。オレは自分の生霊だと分かった後も怖かったのに……いろんな意味で。


「……あのさ、菜々花……オレから言い始めた手前、こんな事言うのはアレだけど……。いや、恥を承知で頼む! ホラーゲームはできないし、幽霊は怖いヘタレで、まだまだ強くはないけど……顔を合わせて、オレとまたお話ししてくれないか……!?」


 正直、どんな風に返されても受け止める覚悟で、そんな都合のいい言葉を口にした。


「ふふっ……那津樹にぃは全然、ヘタレじゃないっすよ。だって、那津樹にぃが自分の生霊を殴った時、すごくカッコよかったすもん。逆にジブンは那津樹にぃの生霊を払えなかった訳っすけど……それでもいいんすか?」


「何言ってんだよ。たくさんの生霊達を消してくれたのは菜々花だろ? ヒーローみたいで、めちゃくちゃカッコよかったし、菜々花はオレなんかより十分、強いよ」


「へへっ……それならよかったっす。那津樹にぃ……ジブンは先に、おうちで待ってるっすね。あ、サランラップを買うのを忘れたらダメっすよ!」


 そう言いながら、スマホから抜け出した菜々花の生霊は、淡いオレンジの粒子となり消えた。


 オレは急いでサランラップを買いに行った後、帰路を走る。

 家に着くと息を整え、一度、深呼吸をしてから玄関の扉を開けた。


「……たたいま」

「おかえりなさいっす」


 玄関に足を踏み入れると、菜々花がリビングからひょっこり顔を出し、どこか恥ずかしそうに笑いかけてくれた。






 それから時は流れ、受験が終わり無事、大学生になったオレはVTuber活動を再開した。


 マナの妹・ミツキとして一年以上、チャンネルを支えてくれていた菜々花も一緒に、活動を続けてくれるようだ。


「この押入れに何かヒントがありそうだけど……お化けも出てきそうなんだよなぁ……。あ~……開けたくないなぁ……」

「そんなに怖いなら、ジブンが操作するっすけど……」

「だ、大丈夫! 今回はねぇちゃんに任せてくれ! よ、よし! 開けるぞ――うわあぁぁぁ~! も~……こーゆー仕掛けはやめてくれよ~」


 謎解きホラーゲームの脅かし要素に見事、驚き、オレは半泣きになる。ちなみに今回は、ホラーが苦手なオレマナを頼らずに、ゲームクリアするのを目標とした、実況動画を録っている。

 もう既に心が折れそうだが……。


「マナねぇ……ホントに大丈夫っすか? 別に無理しなくてもいいんすよ……?」

「うぅ……大丈夫……絶対クリアしてみせるから……見守っててくれよなぁ……」

「分かったっす! そこまで言うなら、最後までマナねぇの勇姿をこの目に焼き付けるっよ!」

「うん……頼んだ……」


 まぁこんな感じで、たまに自分の首を締めつつも、基本的には菜々花と楽しく活動している。


 こんな日々が、いつまで続くかは分からない。けれど、できるだけ長く、菜々花のこの笑顔を隣で見続けられる事を切に願う。

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VTuberのアバターに妹の生霊が取り憑きました。 双瀬桔梗 @hutasekikyo_mozikaki

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