#04【ホラー注意?】妹の生霊VS兄達の生霊! そしてアノ真相は……?【間戸兄妹】

「え……この道を通るんすか……?」


 姉妹VTuberを始めてから、一ヶ月程が経過したある日の週末。オレ達は歌ってみた動画の選曲がてら、カラオケへと足を運んだ。


 その帰り道。十分程前に母さんから『帰りにサランラップを買ってきて』と連絡があった為、薬局に向かっている。しかしその途中、外では声をかけてこない菜々花が小声でそんな事を言ってきたので、オレは立ち止まり、スマホを取り出す。


「この先で、工事でもしてたっけ?」


 周りに人がいない事を確認してからそう問いかけると、はなんともいえない表情をした。


「もしかして……あの、知らないんすか……?」

「噂……?」

「怖い系のウワサなんすけど……話さない方がいいっすよね……?」

「……そこまで言われたら寧ろ、言ってほしいかな……知らない方が怖いしさ」


 正直、知るのも怖いけど。知っておきたいってのも本音だ。


「えっと……じゃあ言うっすけど……この道の先に、昔は公園だった小さな空地があるじゃないっすか?」

「あぁ……小学生の頃、よく遊んでた場所だよな」


 小さな滑り台と砂場、それと塗装が剥がれ、なんの動物か分からない置物があった公園。当時、小学生の足で行ける範囲の遊び場が、その公園くらいしかなかったのもあり、オレは菜々花や近所の友達とよくそこで遊んでいた。

 確か三年くらい前に、滑り台などが取り壊されて、今は空地になっている。


「はいっす。実はそこ……ご近所さん達の間で今は、“生霊のそうくつ”って呼ばれてて……」

「生霊の……巣窟……」

「去年の春……いや、初夏あたりからっすかね。そのウワサが流れ始めたのは。あの空地に出るらしいんすよ――仲が良かった妹に避けられるようになり、悲しみに暮れる兄の生霊達が……」

「へ……」


「最初の頃は一体だけって話だったんすけど、同じような生霊がそこに吸い寄せられたのか、いつの間にか複数体になってて……。どうやら、その空地の前を、仲が良い兄妹が通ると、不思議な力を使って仲違いさせたりもするらしいっす。そして、妹に嫌われた兄の生霊がまた一体と……増え続けているって、ウワサになってるんすよ」


 ……なんか、思ってた感じと違う……いや、ある意味、怖いけど。


「へ、へ~……まぁオレにとっては全然、怖くない話だったな……。それに、たまにあの空地の前を通るけど、何も起こらなかったし? 噂なんてあてにならないもんだし? まぁ大丈夫だろ!」

「それなら良いんすけど……無理はしないでくださいっすね」

「うん。ありがとう」


 はい、また妹の手前、強がりました。まぁ生霊なら菜々花で慣れてるし? お礼のメモをもらえた後も、相変わらず菜々花自身には避けられ続けてるし! 仮に噂が本当だとしても、生霊の標的になる事はないだろう。


 またもやそんなフラグを立てながら、スマホをカバンに仕舞い、空地に続く道を進んでいく。そうして丁度、空地の前に着いた瞬間——不気味な声が聞こえたかと思えば、複数の黒い手が伸びてきた。


「は……?」


 その手に掴まれ、空地に引きずり込まれたオレは助けを呼ぼうとした。けれど、声が出せず、仰向けの状態で地面に叩きつけられる。


「那津樹にぃ! どうしたんすか!? なつ――」


「ずるい……お前だけ……ずるい……ずるい……」


 菜々花が心配そうな声でオレを呼ぶ。けれどもそれは、複数の男の不気味な声にかき消され、次第に聞こえなくなる。


 噂が本当ならオレは今、大量の生霊達に囲まれているのだろうか。本来なら、視線の先にあるのは夕焼け空の筈なのに、真っ暗な闇の中に包み込まれていて、何も見えない。


 ……やばい……意識が遠のいていく……。ずるいってなんだよ……オレだって、一年以上、顔を合わせた状態では菜々花と話していないんだぞ……。


「生霊でも……意識が、繋がっているなら……本人と、大して変わらない。……それに……楽しそうにゲームしたり、料理をしたり……カラオケにも行って……。あんなメモまでもらって……仲がいいじゃないか……。ずるい……妬ましい……」


 おう……やけに具体的に知ってんな……まぁびっくりしたおかげで、ギリギリ意識が保てたけど。てか、今の声だけ一人分だったような……。


 そんな事を考えながら、視線を隣に向けると、三角座りをしている――オレの姿が見えた。


「は……? まさか……オレの生霊……?」


 戸惑うオレを他所に、カバンがガサゴソ動いたかと思えば、スマホが飛び出し――宙に浮いた。

 嘘だろ……。


「那津樹にぃをいじめるなっす~! うお~~~!」


 そう叫んだ菜々花は、スマホから謎の光を放ち、周囲の生霊達を消滅させていく。それでもオレの生霊だけは耐えるように、その場に存在し続けている。


 オレは自分自身の生霊に手を伸ばす。そして、指先が触れた瞬間、忘れていた記憶が呼び起こされる。




 ——夕暮れ時の公園。小学六年生のオレは、動物の置物にもたれ掛かっている。


「菜々花もいつかは、兄ちゃん離れする日がくるんだろうな〜」

「そんなコトないっす! ジフンはなつきにぃのコト、ずっと好きっすよ!」


 滑り台の上にいる幼い菜々花が、首を横に振る。


「フッ……ありがとな。でも、離れてしまってもいいんだ。離れていても、心は繋がっているからな。それに、お互いに強くなれば、また話せる日もくる。だから……二人共強くなった頃に、また言葉を交わそう……なんてな」


 おい、ちょっと待て、過去の自分! なんだそのカッコつけた言い方は! そもそも、それは『ストーリー×ヒーローズ』のみちろうの台詞だろ! いっちょ前にアレンジを加えて、何自分の言葉みたいに、得意げに話してるんだ!?


 あ~てか、これか! 菜々花が『もう那津樹にぃとはお話ししないっす!』って言った理由。確か、路狼が高校生、妹のココノは中学生になったのと同時に、二人はもっと強くなる為に、あえて決別するんだよな……。


 で、オレが路狼の台詞を言ったから、漫画の展開をなぞる為に、菜々花はオレを避けるようになったんだろうな。もうそうとしか考えられない。


 てか――


「ズルいも何も全部、自分テメェの所為だろうがっ!」


 力を振り絞り、発光するスマホの前に立ったオレは、消えまいと耐える自身の生霊をぶん殴った。すると、生霊はゆっくりと消滅し、力が抜けたオレはその場に座り込んだ。

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