#02【活動方針/ゲーム実況】姉妹VTuber始めました【狐蛇那マナ×ミツキ】

「て事で、今日も最後まで見てくれてありがと~。ここまではマナと」

「狐蛇那がお送りしたっ! また来週も見てくださいっす~」


 の生霊がVTuberのアバターに取り憑いた日から、二週間が経過した現在。オレは菜々花の生霊と一緒に、“姉妹VTuber”として、順調に活動を続けている。


 あの日、どんな会話が繰り広げられ、こうなったのか。振り返ってみようと思う。




「——えっと……『姉妹VTuberになれば良い』ってどういう意味だ……?」

「今、ジブンが取り憑いているアバターさんって、半年くらい前のお絵描き配信で描いてた、マナさんの妹設定の子っすよね?」


「そうだけど……よく覚えてたな」

「当然っす! ジブン、『狐蛇那マナ』ガチ勢なんで! てか、あの時のイラストを実際にアバター化してたんすね~」

「う、うん……あの配信の後、勢いで作った感じだったかな……確か……」


 嘘は言ってない。勢いで作ったのは本当の事だし。


「勢いは大事っすよね! で、話を戻すっすけど、このアバターさんをマナさんの妹として、デビューさせるんす。そして、年内は姉妹VTuberとして二人で、にぃの受験が終わるまではジブン一人で活動するってのはどうすっか? そうすれば、活動を再開しやすくなると思うんすけど……」

「なるほどな……」


 正直、かなり良いアイデアだと思う。菜々花は来年、中学三年生になるけど、中高一貫校に通っているから受験の心配はないし。安心して任せられる。けれど、菜々花的には、本当にそれで良いのだろうか……?


「ダメっすか……? あ! もしかして、このアバターさんは誰かにあげるものだったとか……」

「あぁ、そんな予定はないから大丈夫。てかそれ……菜々花にあげる予定だったつーか……」

「え?」

「その、菜々花がまた、話してくれるようになった時に……あわよくば、一緒に活動できたら良いなと思って、作ったものだから……」


「てコトは……」

「うん。菜々花の提案は大歓迎だよ。寧ろ、すごく有難いし」

「やったっす~!」


 菜々花アバターが嬉しそうに、画面の中を縦横無尽にぴょんぴょん動き回っている。ガチでマナの大ファンなんだな。ただ、そんなにファンなら……


「でも、菜々花は本当にそれで良いのか? 一緒に活動を始めたらもう、視聴者さん目線でマナの応援はできなくなるんじゃ……」

「マナさんがやめてしまったら、どっちにしろ応援はできなくなる訳っすから当然、良いに決まってるっす! て言うか、応援はできるっすよ! むしろ、こんなに近くで、推しを応援できるなんて贅沢過ぎるっす!」

「な、なるほど……。けどさ……」


 そこまで言いかけて、オレは一度、口を閉ざした。生霊とは言え、久しぶりに菜々花と話せて嬉しい反面、ずっと心の底で気になっていた事がある。それを聞くべきか否かを悩んだ結果、オレは意を決して、疑問を口する方を選んだ。


「その……オレとはもう、お話ししないんじゃなかったのか……?」

「あ……そ、それは……今更じゃないっすか……? それに! 那津樹にぃが今、話しているのはジブンの“生霊”っすから何も問題ないっす!」


「菜々花がそう言うならいいけど……あ、生霊って確か、無意識に飛ばしてるものなんだっけか」

「そうなんすか? ジブンは本体と意識が繋がってるっすけど……」


「まじか……」

「マジっす! まぁ人それぞれってコトなんじゃないっすか?」

「まぁそっか……。てかさ……そもそもどうして、オレともう話さないって、言ったんだ? もしかしてオレ、菜々花に嫌われるような事した……?」


 この際、思い切って理由も聞いてしまえ!

 そう思い、恐る恐る問いかけた瞬間、菜々花アバターが固まり、無言でこっちを見据えてきた。


「あ、あの……菜々花、さん……?」

「……まさか、忘れたんすか?」

「え……何を? てか、怒ってる……?」

「怒ってないっすよ」


 明らかに怒ってるよな!? オレまじでなんかしたなこれ。正直、心当たりはないけど……。


「……ホントに怒ってはいないっすけど……生霊を消せない理由がもう一つ、できてしまったかもしれないっす」

「え……」


 それって受験後に活動を再開しても、オレが何かを思い出さない限り、菜々花は生霊を飛ばしたままになるって事だよな……。


「まぁ生霊を飛ばしていても、特に体に悪い変化はないんで大丈夫っすよ」

「ほ、本当に大丈夫なのか……?」

「はいっす。そんな事より、このアバターさんの名前を決めないっすか?」

「そ、そうだな……」


 あ……強引に話を逸らされてしまった……。こうなったら、自力で思い出すしかないな。頑張れオレ。責任重大だぞ。


「ちなみに、『狐蛇那マナ』って“MADONANAKA”のアナグラムっすよね?」

「あ、はい。そうです。勝手に名前を使ってすみませんでした……」

「どうして敬語なんすか? それにアナグラムなら別にいいっすよ」

「あ、それなら良かったです」


「いや、だからどうして敬語なんすか! まぁ別にいいっすけど……。で、アバターさんの名前っすけど、『MADONATSUKI』のアナグラムに、“KI”を足して『狐蛇那ミツキ』はどうっすかね? マナさんと同じカタカナ表記で。あ、でも『那津樹』と『ミツキ』って一文字違いなだけだから、良くないっすかね……」

「いや、良いんじゃないか? 名前の由来を伏せとけば問題ないだろし」


「じゃあ、『狐蛇那ミツキ』にするっす!」

「よし! そんじゃあ早速、次の定期配信の時にミツキを紹介するか」

「はいっす! これからよろしくお願いしますっす!」

「うん。こちらこそ、よろしくな」


 そんな感じでオレ達兄妹は、『姉妹VTuber』として活動を始めた。


 正直、一週間で『やめるのをやめた』なんて言ったら、責められるのではないか。そう思ったオレは内心、ドキドキしていた。けれど、視聴者さんは皆、優しくて、ミツキの事も歓迎してくれて……コメント欄はとても温かい。そんな視聴者さんにオレは、心から感謝した。


 なお、実妹に身バレしてた等、割と赤裸々に経緯を話したが、流石に生霊の件だけは言えなかった。


 菜々花ミツキにとって今日は二回目の配信で、オレマナと一緒に録ったゲーム実況動画も二本、既に投稿している。

 ちなみに動画の内容をダイジェストでお送りすると、こんな感じだ。



「誰もジブンを止められないっす~! 優勝はもらったっすよ~!」

「それどうやってんの!? てか、なんでそんなに上手いんだ!?」


 レースゲームでは、カッコいい鮮やかな運転テクを披露し、ぶっちぎりの一位を取り続けていた。


「くっ……ジブンの右手がまた勝手に動いて……多くの怪物さんを殺めてしまったっす……。怪物さん、ごめんなさいっす……」

「そういうゲームなんだし、気にしなくていいと思うけど……」


 シューティングゲームでは、中二病を発動しつつ百発百中の腕前を見せ、最後は敵キャラに謝罪していた。その割に、来週、投稿する予定の格ゲーの実況では容赦なく、無言で対戦相手を叩きのめしていたが……。うん、可愛いから良しとしよう。






「——夏だし次はホラーゲーム実況なんてどうっすか?」

「ほ、ホラーゲームか~……」


 菜々花はホラー系好きだもんな~……うん、いつかは言われると思ってたよ……。


「はいっす! 視聴者さんからのリクエストも多い、『虚空の里』とか面白そうだと思ったんすけど……もしかして、ホラーは苦手っすか?」

「そ、そんな事ないぞ!」

「でも、よくよく思い返してみれば、那津樹にぃって昔から、ホラー系は避けてたような……」

「き、気のせいだって!」


 はい、正直に言うと、ホラーはかなり苦手です。妹の手前、めっちゃ強がってます。まぁでも、ゲームだし? 大して怖くないだろ……。ヨユーヨユー……。


「ぎゃー! もうやめてくれ~! 痛っ! ゆ、ゆびがぁ……」


 うん、自分でも薄々、分かってたよ……自らフラグを立ててる事くらいさ。


「大丈夫っすか?!」


 驚いて立ち上がり、隣の本棚に足の小指をぶつけてうずくまるオレを、菜々花は本気で心配してくれている。


 うぅ……菜々花に情けない姿を見られてしまった……。めちゃくちゃ恥ずかしい……。



 その後、宇宙人を育てる、ほんわか育成ゲーム実況に変更。改めて、動画を録り始めた。のだが――


「天使ちゃんは宇宙一、可愛いっすね~。もっとも~と! すくすく成長してくださいっす~」

「天使、ちゃん……?」


 ――菜々花が育て始めた宇宙人は『天使ちゃん』なんて可愛らしい名前なのに、ものの十分程で恐ろしい怪物へと育ってしまった。これ以上、成長したら一体、どうなってしまうんだ……?


 でもまぁ……菜々花は楽しそうに、天使ちゃんを愛でているから良しとしよう。

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