第24話・エピローグ

「新人! そんなことじゃ、この先が思いやられるよ!」


 七不思議係所属の大型車から、赤いセルフレームのメガネをかけ、ぱりっとしたスーツを着こなした男が、新入職員と思われるひ弱そうな青年をどやしつける。


「そんなこといっても、これめっちゃ重いですって。勘弁してくださいよ」

「だめだ。久しぶりの川越城七不思議の活性化なんだ。きちっと観測していかないとさ」


 青年はかなり重そうな機器を持たされている。青色吐息で荷運びをしながら、恨めしそうな顔で男の後を青年は追う。男も同じような機器を抱えているが、鍛え方が違うようで、涼しい顔だ。


「くっそ、帰ったらプロフェッサーにいいつけてやる」

「なにか、云ったかい?」

「いやいや、別に!」



「こちら、フロント。浮島稲荷に到着した、オーバー」

「こちら、観測班。確認したわ、オーバー」


 誰が持ち込んだのか、ミリタリー調の通信が交わされる。


「で、間違いないんですか?」

「ええ、間違いないわ。この波長は――」


 浮島稲荷の中ほどに、男と青年は観測機器を据え付けた。


「フロントより。機材の設置、終わりました。始めてください、オーバー」




「何が始まるんです?」


 青年は側の木により掛かりながら、男に問う。


「まぁ、なんていうかな。封印課のみんなそれぞれの心に刺さった、小さな棘が抜ける瞬間がくる――っていうのかな」


 赤いセルフレームの男はそう云って、爽やかに笑みを浮かべた。


「よくわかんねぇっすけど……」

「きみにもあとでちゃんと紹介するよ――せやっ!」


 男は機材が起動するのを確認すると、青年が寄りかかった木の側面を思い切り蹴りつけた。


「ぐえっ!」


 青年がカエルの潰れたような声をあげて、倒れる。

 その背中の上に、少女の姿。


「あれ……あれれ⁉ 私、なんで……あ、小山田さん、眼鏡変えたんですか?」

「いやだなぁ。僕、あんなにくたびれてはいないと思うんだけど」


 小山田に間違えられた男は、セルフレームの眼鏡を外した。


「!」


 瞬間、少女の眼が驚きで開いていく。


「りょ、遼太郎さん⁉」





「おかえり、吉乃ちゃん!」

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川越市役所環境部封印課七不思議係 秋葉シュンイチ @S_Akiba

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