第11話

「戻ったか」


 七不思議係のオフィスに戻ると、教授たちが安堵の表情で出迎えた。


「吉乃くんが急にとおりゃんせを歌いだしたのでどうしたものかと思ったのだが、効果があったようだな」

「ええ、覿面でした。だけど、吉乃ちゃん、なんで?」

「頭の中にとおりゃんせのメロディが浮かんだんです。咄嗟に歌っちゃいましたけど、効果があったようでなによりです」


 吉乃はホッとした顔を浮かべた。遼太郎たちのことが心配で、気が気ではなかったようだ。


「ふむ……とおりゃんせは川越発祥のわらべ唄だ。長年歌い継がれていくなかで、なにか妖異を引きつける効用が生まれているのかもしれんな」


 教授がとおりゃんせの効能について推測する。が、それ以上のことはなにも分からないらしい。


「ときに清瀬くん、怪我は大丈夫なのか? だいぶこっぴどくやられたようだが」

「教授ぅ、血が、血が足りないです……あと、労災は下りますかね?」

「ああ、労災関係の書類はあとで用意しておこう」 


 真っ青な顔色をして清瀬がぼやいた。傷の手当は一通り終わっているし、命に別状はないという教授の見立てだったが、貧血気味らしい。そして、労災はしっかりと下りるようだ。


「よし。んじゃあ、今日は焼き肉だな! レバーを食えば貧血なんて一発だぜ!」

「お、いいわねぇ!」


 小山田が焼き肉を提案し、清瀬が乗る。先程、課の上の方から、川越全体で起きていた妖気の活性化も一段落ついたとの報告があった。となれば、あとは十分な休息を取るのも七不思議係のメンバーの仕事だ。

 この日は終業まで報告書の作成に追われた係の面々だったが、定時に上がって、市内のちょっとお高い焼き肉屋に全員で繰り出したのだった。

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