第6話
「きみは浮舟稲荷神社の木の上から落ちてきたのだ。なぜ、その様なところに?」
教授が少女に問う。しばしの間思案した少女だったが、困ったように眉毛が下がる。
「すみません……覚えていないんです」
「ふむ。落下の衝撃で記憶が飛んだか?」
「いえ……自分が何者なのか、それすらわからない有様でして……」
少女は申し訳無さそうな表情で、「困ったなぁ」という表情をしてみせる。
「ってことは、記憶喪失……なんですかね?」
遼太郎は遠慮がちに聞いた。ひとの記憶に関わることなので、どうしてもそのあたりは慎重に言葉を選ばざるを得ない。
「記憶喪失――そうだね、記憶喪失には間違いない。このように日本語で受け答えが出来ていること、自分が記憶を失っている自覚がある。これは、全生活健忘と云われるものだ。木から落下した衝撃でそうなったのか、妖気に当てられたか、はたまた、なにか別の事情があるのか……それはわからないが、なかなかに厄介な状況ではある」
少女は困ったような笑みを浮かべている。そんな彼女を一瞥した教授は、安心させるように笑みを口元にしながら切り出した。
「そうだな……暫定ではあるが、きみの身柄は私が引き受けよう。今日はもう遅い。一晩休んで、警察に届けるとしよう。遼太郎くん、きみとこの七不思議係、今いないメンバーの顔合わせも明日行おうと思う。明日、学校が終わったら、このオフィスに来て欲しい――連絡先を交換しておこう。来る前にひとつ、連絡を入れて欲しい」
そう云って、教授は白衣のポケットからケータイを取り出した。遼太郎は少し慌てながらもナップザックからケータイを引っ張り出す。連絡先の交換は至極スムーズに行われ、遼太郎と七不思議係の結びつきが生まれた。
「それじゃ、今日はもう帰りますね。それでは明日」
「うむ、気をつけて帰るのだよ」
遼太郎はひとつ頭を下げると、七不思議係のオフィスをあとにした。轟天号を駆って帰る家すがら、妖怪のことをもっと詳しく知ることが出来るという喜びに、頬が緩みっぱなしになっていたのだった。
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