第十一話 3人の行方。

 上空都市のとある一室。

 ザップが部屋のベッドに座り、端末を眺めながらダンベルを動かしていると、インターホンが鳴なった。


「こんな時に誰だよ……」


 インターホンを確認すると、そこには刑務官の格好をした人物が映る。


「……何用で?」

「ザップさん。ご同行ください」


 そのまま車に乗せられ、コンクリートの壁で囲まれた刑務所内に、ザップは手錠を掛けられた姿で連れられる。


「ま、待て。誤認逮捕じゃないのか? オレは何も……」

「アルシのチップを調べた所、貴様らも関与していることが分かった」

「改ざんしてある可能性は考えないのか?」

「不可能」


 ザップの背後からエハクが、刑務官に連れられて来た。


「よお。2日ぶり」

「マジか……。オレたち死ぬのか?」

「そうみたい。まあ自業自得じゃね、ウチらは殺してないとはいえアルシに協力したし」

「嘘だろ、オレは納得できねえ」


 冷や汗を垂らし始めるザップの肩を、刑務官が掴んで押す。


「黙って歩け」


 2人は鋼鉄の床と壁に囲まれた部屋へ連れられた。

 そこの手術台のような場所にアルシは座っている。


「アルシ! 何平然としてやがる!」

「……問題ないって、これは追放刑だし。死地でもアタシらなら生き残れる」

「……何言ってやがる」


 3人は刑務官の手で、手術台のようなモノの上に拘束された。

 出入口の扉が音を立てて閉まる。


「クソ、オレたちは上空都市の住人だろ。地上の人間たちなんて殺しても重罪にはならないんじゃないのか!? それとも上空都市の住人も被害者に紛れてたって言うのか?」


 室内に刑務官の姿はない。

 ザップの声は壁に吸われるかのように虚しく響いた。


「何でこんな」

「——では、刑に処す。ザップ、エハク、アルシの3名は極地への転送刑となる。この国へ戻って来ることは許されない」


 ザップの言葉を遮るように、スピーカーから声が鳴る。

 何かの作動音と共に手術台が床へと沈み、青い光を放つ培養器の中にザップが移され、強い光を放って消えた。


「次、エハク」


 続いてエハクが床へと沈み、培養器の中に入る。

 アルシは気怠そうにスピーカーを睨んだ。

 強い光が放たれる。


「次、アルシ」


 手術台が床下へ沈むと、鉄筒をとおり培養器の中へと運ばれる。

 アルシは強まっていく光に目を瞑った。


 アルシが目を開くと、そこは真っ黒な焦土地帯だった。

 日陰で体を起こすと、背後から巨大な手に握られる。


 アルシはその緑の太い指に噛み付くが、指はピクリとも動かない。

 その手の主は前のめりに倒れ、アルシが手から這い出た。


「待ってたぞアルシ。八生を傷付けたこと、後悔させてやる」


 レアリーがアルシに向かってハルバートを構える。

 アルシは笑い始めた。


「レアリー……。ねえ、どうしてそんなに怒ってるの。アンタには関係ないじゃない」

「アルシのこと調べたらさ、八生以外の冒険者の死とずいぶん関わってるみたいなんだよね。……確かに関係ないけどさ、誰もが見過ごすようなことだとでも思ってんの」


 アルシは舌打ちし、レアリーの方を見下ろすかのように見ながら手のひらを向ける。


「アンタは地上の雑魚どもがイキってて、気分悪くならないの? アタシは無理だな。あんなのにお金横取りされるの耐えられない」


 2人の間の空気が熱に歪む。

 日が雲で隠れ始めた。


「それにしてもアンタ、わざわざアタシを殺しにきたの?」

「そうだよ。動画にさせてもらってる」


 レアリーの頭上後方では、端末が浮いている。

 アルシは苦笑いした。


「こんな風に殺そうだなんて、アタシがやってきたコト以上ね」

「そうだね。でもこれからアルシは、殺してきた配信者と同じように死ぬ」

「……ウザ。まあやれるもんならやって見れば。レベル100のアタシを殺せるもんならね」


 レアリーがハルバートを振ると、離れていたアルシの胴が切り裂かれる。


「……え?」

「アルシって世間知らずだよね。レベルっていうのは国が与えてるバフのレベルだから、それを剥奪されたアルシはこんなのでも死ぬんだよ」


 アルシは跪き、口から血を吐き出す。

 レアリーはハルバートの穂を地面に叩き付け、目を見開いた。


「かわいそ。辞世の句があるなら聞こうか?」

「……ウザ……アタシを殺したなら、アンタも……いずれ……」

「国はアルシたちの人権も剥奪してるから、殺しても罪には問われないよ?」


 笑みに顔を歪めて動かなくなったアルシにレアリーは近付き、死体にハルバートを突き立てくちゃくちゃと斬り、見えてきたチップを拾い上げる。


「……あとはザップとエハクか。メンバー限定配信を見てるリスナーの皆、これが終わったらわたしは配信者をやめる。チップの解析して、被害者が誰か調べて。皆の家族に国から慰謝料払うよう働きかけおく。……それじゃ」


 レアリーが腕に取り付けた機械を操作すると、そこへ端末が戻り嵌る。

 レアリーはアルシの瞼を指で閉じ、ため息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る