第14話 謁見
皇都に着くなり何故か教皇様に呼ばれ、皇城に連れてこられてしまった僕とナオミさん。もうわけが分からずオロオロしている僕に対して、ナオミさんは余裕の表情。そうか、何回か教皇様に謁見したことがあるって言ってたもんなあ。ナオミさんの話によると教皇様はエルフ族の女性で、とても永く生きておられるとか。滅多に謁見が許される存在ではないらしいけれど、僕なんかがお会いしてもいいのだろうか……いや、これは千載一遇のチャンスかも。皇都に来た目的、『魔石を手に入れること』と『聖女を連れて帰ること』の両方を教皇様にお願いできるんだから。
神官らしき男性に連れてこられたのは巨大なホールで、全体的に白い。大理石かな? その中央には真紅の絨毯が敷いてあって、目に焼き付く様な鮮烈なコントラストを生み出していた。
「教皇様、二人をお連れしました」
「うむ、下がって良いぞ」
「はっ!」
絨毯が伸びている階段の上には玉座があり、そこに人影が……ナオミさんに従って膝を付き俯いていると、教皇様に話し掛けられてしまった。
「アミール・メイヨール、遠路はるばる良く来てくれた。面を上げよ」
「は、はい! こ、この度はこの様な機会を頂き、心より感謝致しております」
「うむ。しかし世間話をしに来たわけではあるまい? 要望があるなら言うてみよ」
教皇様は何もかもお見通しの様子。初対面でいきなり色々お願いすることには少し躊躇があったけど、チラッとナオミさんの方を見ると頷いてくれたので思い切って目的をお伝えすることにした。
「恐れながら教皇様に申し上げます。我が領地メイヨールは防衛装置用の魔石とそれを制御できる聖女様を欲しております。願わくは魔石購入と聖女様との契約の許可を頂きたく」
ちゃんと言えた! 事前にナオミさんと打ち合わせして言うことを決めておいて良かった。聖女様は防衛装置の制御だけではなく僕たちの結婚の立会もお願いしたいんだけど、それは伏せておく。
「そうか……」
短くそう言うとベールの向こうから出てこられた教皇様。その美しさは息を呑むほどで、彼女の周りだけキラキラして見えるほど。いや、実際にキラキラしているのだろうか? ゆっくりと階段を降りてきて目の前まで来られると僕に立つ様におっしゃり、言われた通りにすると僕の周りを歩きながら何やら観察されている様子。えっ!? 僕、何かマズイこと言った!?
「魔石は手続きして好きなだけ持ち帰るが良い。聖女は連れて帰るまでもあるまい」
「そ、それはどういう……」
「ここにおるではないか」
教皇様が指さした先……ナオミさんだった。ナオミさんはクスクス笑いながら立ち上がると、教皇様に挨拶する。
「ご無沙汰しております、教皇様。ダメですよ、後で驚かせようと思ってましたのに先にバラしちゃ」
「あら、そうだったの? ゴメンね―」
いきなりガラッと雰囲気が変わった教皇様は、まるで馴染みの友達に久しぶりに再会したかの様にナオミさんに抱き付いていた。
「色々あって大変だったわね。それで? この子が婚約者なの?」
「はい。私もようやく結婚できることになりました」
「ボソボソボソ……」
こちらをチラチラ見ながら二人で何やら内緒話。本当に友達なの!?
「ナオミちゃんがいいならいいんだけど、もっと筋肉ムキムキの年上が好きなのかと思ってたわ。まあ、鍛え甲斐はありそうね」
「はい、それはもう。それに、アミールはとても優しくて、誠実なんです」
「なぁに、もう惚気? でもこの子ならあなたを任せても問題なさそうね」
何やら話がまとまった様で、再びこちらにやってきた教皇様。
「アミール・メイヨール、ナオミは聖女の中でも特別な存在。心して婚姻を結ぶが良いぞ」
「はい!」
「良い返事だな。そうか、結婚となると立ち会いの聖女が必要か……よし、適任者を選定して同行させるとしよう。連絡を待て」
「はい! お心遣い、感謝致します」
トントン拍子に話が進んで、思ってたよりもあっさり目的は達成されてしまった。教皇様のお計らいで皇城に宿泊できることになって部屋に案内される。部屋に入ると緊張の糸が切れてどっと疲れが……ドサッとベッドに倒れ込んで、大きくため息を吐いた。
「はぁあああ……」
「お疲れ様、アミール。ちゃんと教皇様にお願いできたし、目的達成ね」
「酷いですよ、ナオミさん! なんで聖女だって黙ってたんですか!」
「別に隠してたわけではないんだけどね。正確には聖女の資格があるだけで、聖女ではないのよ」
ナオミさんによると聖女とは、その資格がある者が皇都や領地で仕事をすることを認められて初めて聖女と名乗って良いそう。メイヨールに来るまでは前いた領地の聖女だったそうだけど、そこで聖女をクビになったそうだ。
「有資格者が次の領地で仕事をしようと思うと、皇都で登録作業が必要なの。だからアミールと一緒に皇都に来て登録申請もしようと思ってたんだけど……教皇様に先にバラされちゃったわね」
「じゃあ、メイヨールの聖女になってくれるんですか!?」
「もちろん。お母様にも安心して頂きたいしね」
「有り難うございます!」
疲れが一気に吹っ飛んだ気がした。何も知らなかったとは言え、いや、何も知らなかったからこそナオミさんに結婚してくださいと言えたのかも知れないな。今の僕では全然彼女に釣り合わないけれど教皇様にもお許し頂けたことだし、これから努力して少しでも相応しい夫にならなければ。そう決意を新たにした一日だった。
翌日は朝からナオミさんと一緒に城の庭でランニング。皇都でもナオミさんは一切手抜きなしだから厳しいなあ。でも、これを乗り越えなければ、ナオミさんを守ることは到底無理だ。聖女で、武術もできて、筋肉にも詳しくて、教皇様とも親しくて……とにかくナオミさんは凄い人。今の僕にできることは一歩でもナオミさんに近付いて、彼女の夫として相応しい人物になることなんだから!
朝食後はナオミさんが皇都を案内してくれる。大通りに面する店を回るだけで何日もかかりそうだったけど……一緒に昼食を取った後はナオミさんの用事を済ませるために再び皇城へ。聖女となる手続きを済ませてくれて、これで正式に彼女が僕たちの街の聖女様になった。聖女になると彼女自身が魔石に魔力を込められるので、魔石は格安で入手可能らしい。それでも僕の手持ちでは全然足りなかったんだけど、足りない分はナオミさんが出してくれた。
「そんな、悪いですよ」
「いいのいいの。結婚するんだし、私の財産はアミールのものでもあるのよ。それに、大して使い道もなくて貯まってたしね」
「有り難うございます」
ナオミさんに甘えっぱなしな自分に少しモヤモヤしつつも、今はどうしようもないことも分かっている。僕はそんなに器用な人間でもないから、とにかく今は努力するしかないね。
教皇様が『適任者を選定して同行させる』とおっしゃってくださったので、その人選が終わるまでは皇都の色々な場所に連れて行ってもらった。皇城内には巨大な書庫があり、興味をそそる本が沢山! 本好きな僕としてはここに住み込みたいぐらいだ。そのほか街の中には聖女を養成する学校や騎士になるための学校、劇場などの娯楽施設、博物館に美術館……とにかく文化レベルが高くて、メイヨールが如何に田舎なのか実感する。あと、二人で並んで歩いていると、ナオミさんが自然に腕を組んできたり手を繋いだり。女性と付き合ったことがなくてその手の耐性が全くなので、刺激的過ぎて頭がクラクラする……必死で誤魔化したけど。
「ナオミさんが以前いた街もこんなに大きかったんですか?」
「ここまでは大きくなかったけど、皇都に近い分似た様な雰囲気ではあったわね」
「皇都に来てみて、自分が世間を知らなかったかが良く分かりました。メイヨールをもっともっと豊かにするために、頑張らないとダメですね」
「アミール、あなたは本当に……」
「わっ……」
急にナオミさんに抱きしめられてジタバタ。
「本当に真面目ね。でもあなたが望むなら、私も全力で協力しちゃうわ」
「はい!」
皇城に戻ると初日に案内してくれた神官が待っていてくれて、同行する聖女の人選が完了したことを告げられる。皇都ではとにかく色々と収穫があったから、兄さんたちにも良い報告ができそうだ。
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