第9話 プロポーズ
屋敷の敷地内にある防衛装置を見てくれたナオミさん。彼女は防衛装置の扱いに詳しい様で、中の魔石が劣化していることを教えてくれた。その後、兵士数人に護衛してもらって残りの二本の防衛装置も見てもらったけれど、こちらは中の魔石がなくなっていた! 扉はちゃんとしまっていたのに、中の魔石がキレイになくなっている。寿命がくると消えるとか!?
「そんなことはないわね。誰かが扉を開けて持ち去ったのでしょう。屋敷の柱内にあった魔石のことを考えると、売っても二束三文にしかならなかったでしょうけどね」
「そんな……一体誰が……」
「そこまでは分からないけれど、この状態だったらもう皇都に行って魔石をもらってくるしかないわね。ああ、あと聖女様も」
「……」
お金がないとか、そんなことを言っている場合じゃない。こんな状態じゃ母さんだっていつまでも魔力を込められるわけじゃないし、屋敷の防衛装置が動かなくなってしまったらこの街はお終いだ。聖女様を派遣してもらうには相当なお金がかかると聞くし、魔石だってそんなに安くないはず。でも、今はそんなことで迷ってる場合ではない。とにかくお金をかき集めて魔石だけでも手に入れなければ。
「分割で買えるわよ」
「えっ!?」
「だから、魔石。皇都に行けば分割でも買えるから。このサイズが三つだからそうね……金貨百五十枚ってところかしら。金貨五枚から分割で買えるから、利子も含めて三十五回払いになると思うけど」
「ほ、ホントですか!?」
「詳しい知人が言っていたから間違いないと思うわ」
金貨五枚なら準備できる! ちょっと割高になるけれど、今重要なのは魔石を入手することだ。よし、これで少し希望の光が見えてきたぞ! これで資金に余裕ができるから、ずっとは無理でも聖女様にも来てもらえるかも知れない。
その後ナオミさんと別れて自室に戻り、現状を色々と整理する。今回はたまたまナオミさんがいたから良かったけれど、このままでは母さんがいつ倒れてもおかしくない。それどころか、メイヨールの街自体もいつまで存続できるか分からない。二本の柱の中にあった魔石を持ち去ったのが誰か気になるところではあるけれど、今はとにかく新しい魔石を入手しなければ。兄さんたちは街の防衛や討伐で手一杯だから、皇都には僕が行くしかない。途中魔物や盗賊に合わないか不安ではあるけれど……同行できる兵士もいないだろう。
母さんを安心させたい気持ちもある。今朝、母さんがナオミさんに結婚の話をしたのは、多分僕の結婚を見届けたいと言う思いから。母さんはもともと体がそんなに強くないのに加え、最近では防衛装置の維持で無理して魔力を使っているから、ナオミさんに結婚なんて言い出したんだと思う……昨日兄さんが言ったのは冗談だと思っていたけど、同じ思いだったのかも知れないな。
それからも色々と考えて、僕の中で一つの答えを出した。これが、僕がこの街のためにできる最良の決断……だと思う。僕だってもう十六歳だから、大人としていつまでも母さんや兄さんに頼っていられないんだ。そう決意して夕飯前にナオミさんの部屋を訪れる。ノックをすると中から彼女の声。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
部屋に入ると、どうやら彼女は読書していた様子。それはこの部屋にあった本で、メイヨール領の歴史が書かれたもの。
「この街の歴史ですか?」
「ええ。なかなか興味深い内容ね。私は前の街をあまり出たことがなかったので、教国内の他の領地に興味があって」
「……」
そんなことより、もっと重要なことを彼女に伝えなければ! と、気持ちは逸るけどなかなか言葉として出てこない。と、僕の思い詰めた表情を察したのか、彼女の方から話し掛けてくれた。
「何か思い詰めている様ね。私で良ければ話してみて」
「あ、有り難う……えっと、その……唐突すぎるとは思うんだけど、僕と結婚してください!」
「!!」
やっぱりびっくりしている。そりゃそうだ。こんな弱々しい若輩者に告白されたって、彼女が嬉しいハズがないんだから。でも、僕の決意は固いんだ!
「理由を聞かせてもらえるかしら?」
「はい……」
母親を安心させたいこと、兄さんや、何よりこの街の役に立ちたいこと、正直ナオミさんのことが好きなのかどうかはまだ分からないこと、皇都に行っても聖女様に来てもらえるか分からないので、魔力があるナオミさんにここにいて欲しいことを、全て隠さずに話す。こんなことを言ったら彼女は怒るだろうか……いや、普通怒るよね?
「……」
しばらくの沈黙……もっと耳当たりがいい様に言葉を並べた方が良かったのかも知れないけれど、僕自身そこまで器用じゃないのも分かってる。
「いいですよ」
「やっぱり……こんな告白じゃ普通に考えて嫌ですよね。すみません、変なことを言って……って、えっ!?」
「だから、アミール、あなたのプロポーズをお受けするわ」
「いいんですか!?」
「ええ。もとより、顔も知らないメイヨール領主様のご子息に嫁ぐためにここまで来たし、相手が長男か次男かは大きな問題ではないもの」
そう言いつつ対面に座っていた僕に、横に座るように促すナオミさん。彼女の横に座り直すと、彼女の手が僕の手に触れた。急激に心臓がバクバクと音を立てる。
「私のことはキライ?」
「い、いえ……キレイだし、とても魅力的だと……」
「私もアミールのことはキライじゃないわ。賢くて誠実で……但し」
「た、但し?」
「順序は逆だけど、これから私のことを好きになって欲しい、そして……」
「そ、そして?」
「もっと鍛えて、私を守って欲しいわ」
間近で彼女に見つめられて、心臓が止まってしまいそうだった。僕はきっと、今のままでは彼女に相応しくない。でも、これは彼女がくれたチャンスなんだ。約束したからには、僕は必ずあなたを守れるぐらいに強くなります! そして、あなたのことをもっと好きになります! だからナオミさんにも、もっと僕のことを好きになって欲しい……と、言って格好を付けたかったけれど、全く喋ることができなかった。
夕食の席で早速家族に報告する。母さんと兄さんはとても喜んでくれたけれど、姉さんはそうでもない雰囲気……あ、あれ? すでに女同士の確執が!?
「まぁまぁまぁ! ほら、やっぱりアミールにはナオミさんの様な女性がピッタリだと思っていたのよ!」
「不束者ですが、今後とも宜しくお願い致します」
「こちらこそ。聖女様が不在だから、結婚自体は先になってしまうだろうけど……」
「そのことなんだけど、母さん、兄さん、僕、皇都に行ってくるよ。皇都に行って魔石をもらってくる。もうそれしかこの街が存続する手がないんだ」
「しかし、お前一人で大丈夫なのか? 皇都まではかなり遠いし、魔物だって出るだろう」
「フレーザーまで行けば何とかなると思う。そこまでは確かに危険だけど、なんとか切り抜けてみせるよ」
「大丈夫ですよ。私も参りますので」
「えっ!?」
全く想定していなかったけど、ナオミさんも皇都へ行くと!? た、確かに皇都に行ったことがあるナオミさんに付いてきてもらえれば心強いけれど、彼女にとっては僕以上に危険な旅になるはずだ。
「私はフレーザーからここまでは一人で参りました。元いた街で手に入れた魔物避けの魔導具を持っていますので、きっとお役に立てると思います」
「ほ、本当にいいんですか、ナオミさん」
「ええ。それに何かあったらアミールが守ってくれるのでしょう?」
「は、はい!」
今日一日で、これまでの人生で最大の変化が訪れた。皇都までの道のりは険しいだろうけど、ナオミさんと言う伴侶を得たことで乗り越えられそうな気がする。あ、まだ結婚してないから伴侶ではないけど……彼女をちゃんと迎え入れるためにも、なんとか魔石を入手して聖女様を派遣してもらえるように頑張らなければ。
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