第11話

「何でお前が生きてるんだよ」

って食って掛かる奴が急に横から出てきた.

俺,今別な奴から怒られてんのに…

全ての門生を統べる長,門長からなのに.

それどころじゃないって勢い.

多分,俺の姿しか見えてない.

そんな気がした.

乱入するくらい荒れ狂ってる.

木の盆には魚がのってない.

「お前,最初だけで最期の

あの場にいなかった奴だろ.

こっちが殴り返したって文句言われんよなぁ。」

言い放つと,みるみる顔が変わった.

「何が見たくなかった?

自分が育てた奴が罪もない人を襲う所を?

もしかして倒されちゃうかもって所を?ぅくくっ。

俺が仕返しするとでも?弱腰かぁ?ぶはぁっ!」

「ぅるっせぇなぁ!新入りに何が分かるってんだよ」

って言葉を聞きながら,こっちも押し続けるんだからな.

「新入りだからって何やってもいいのかよ。

お前こそ何年いようが、

何が起こるのかを見届けられない,最期も見ない,命も食べてやれない,

そんなんじゃ報われ」

おっと,盆を離したんで,屈みながら盆を支えると,

攻撃を自然と躱せた.

今日は2人組じゃないからなぁ。

観客も多いし煽ってやれ。

心の底でにやつく.

「そこまでだ」

門長が口を開く.

静止が入らなければ,あと数発は向かって来そうな感じだった.

殴られてやる義理も無いし,こっちが殴ってやりたい間柄.

この一件が無かったら,多分俺が門長に向かいかかってた.

負ける気はしなかった.

抑えらんない腹いせを別な奴に向けて発動しただけだ.

運が悪い奴は知らんぜよ.


「食事にならん.」

そう門長が言う.

辺りを見回すと,皆食事の手が止まってる.

こちらを見ている者もいれば,盆の上をぼんやり見ている者もいれば.

門長の手が不自然に伸びた。

その動きを見ながら。

見ながら…

「あ…それ俺の…魚…」

口に放っては指を舐めた。

「他は続けるよう」

そう残して門長が背を向けて動き出したので,

他って誰だろうなって…

まさか俺が生物門とやり合う続きじゃないだろうし。

はぁ…

これは付いて来いの続きか。

苛々しながら、生物門の盆を置いて、それに続く.

背中で場の安心した空気を感じる。

食べてもいいんだなって様子があった。


俺は食事出来てねぇっ!!!

はぁ…

あの時の廊下.

あの血は,俺の鼻血だった.

開けた所までは良かったんだけど,

敷居に毛躓いた.

結構踏ん張ったんだけど,ぐらぐらして…

その後,後ろ向きに倒れた後,運悪く持ってた茶碗を放り投げて,

鼻にぶち当てたんだ.

今回は,用心深く敷居を跨いだ.

確かに踏んじゃいけなかったんだ.


座るように促される.

首を振ると,

「話をしよう.」

と言った.

「あの場所では聞けないという事だった.」

「そんなの知らないよ.何処でだって聞ける話だ.」

食事班の話は聞いてたくせに.

再度,座るように促されて…

しぶしぶ尻を付ける.

「雷魚は生物門の限られた人しか扱えない.

あそこで,お前を守る訳には」

「知らないよっ

そんな事…

どんだけ犠牲にして,生物門を優先してんだよ.

俺だけじゃないだろ,あの様子からしたら!

あんな門潰していいんだ」

宥めるような顔が嫌だった.

「功績は」

「聞きたくない!」

全身固くしながら鼻で息をする.

頭をぐしゃぐしゃっと掻いた門長を尚睨む.

「雷魚をやった後,彼らの様子は?」

様子?

溜め息を吐かれながら訊かれた.

あの時…

「動くとビクッと反応してた.」

「動くと?」

それで?って様子を見ると続けたくなった自然と.

「俺が一歩進むと,体震わせて構えてた.」

「そうか」

そう一言言って,棚から筒を取り出して,石をこすって火をつけ,

ぷかっとした.

旨そうに見えた.

「俺が,雷魚の飼育方法を」

「ならん」

そこはびしっと言われた.

「期が迫る.仕上げを.」

はぁ…

こんな事まだ続けるんかと.

先の見えない,先を思い遣った.

「魚、負荷がかかったようだな.

もっと旨く出来る」

と言った。

おぉ?仕留め方が下手糞とか言うんか。

「不甲斐無くてすみませんね精進しますとか期待しねーで。」

と無表情で言ってやったですしね。

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