第10話
あの後,身体検査と言われながら,
身包み剥がれて白布一丁.
たぬきは口の中の石を吐き出すように生物門から指示されてた.
のらって言われてた.
のら?何だ?って思うまま.
あれ入れたまま喋ってたのかって.
雷魚を傷つけないようにって丸腰で.
たぬきは先に湖へ入るように言われてた.
生物門に従うって貸与の条件だっただろって半笑いの言葉を投げられて.
俺は,何処が傷なんだって聞かれて,
傷なんて無いってたぬきに言ったように返すと,
嘘だ廊下に血の跡が鮮明にって責めるんだけど,
傷は無いって繰り返した.すると,
申し合わせたように2人組が動いた.
傷抉れって命なんだけど,どうする?
作ればいいじゃんって.無けりゃ作ればいいって.
はぁ…
つまりは羽交い絞めになって殴られたんだ.
そのまま,湖に蹴落とされて.
任務完了までは戻らん無いよって言葉まで投げ込まれて.
湖面をバシャバシャしたくないんだけど,
獲物はここですよって言ってるようなもんだから.
だけど,耐えられなかった.
水が…水が…
俺は溺れていく.
指差して笑う様子や嘲る様子や,
あいつ駄目な奴なんだなって声が,
更に俺とは関係ない音楽のように流れる.
足に何か触れる.
なんだ深くないんじゃんとか思ったら,
足裏が人過ぎて.
たぬきの背中に乗ってた.
落ち着こう.俺.落ち着けって.
たぬき,ここまでしてくれてる.
分かんない位,馬鹿じゃない.
出してた顔ゆっくり沈めて,水の中を覗き込む.
水は澄んでいて,時折小魚や藻が流れて行く.
目は…開けてて思ったよりも痛くない.
屈むたぬきの背中を捉えて叩く.
たぬきが俺の顔確認して,指で掴んだ.
目の前で指先を離して確認させる.
どうやら血が出てるらしい.
じわじわ血が滲んでるのか.
たぬきが自歯で肘から手首に向けて傷を入れた.
湖水に,たぬきの血が滲み出し混ざってく.
離れるように泳いでった.
俺どうしたらいいんだろう.
浮かないように沈まないように足をかき混ぜながら水を踏む.
手は態勢を整えるように動かしてく.
状況確認だ.
小魚いるってことは腹空かせまくってるって訳では無いし,
藻も色が変じゃないから生き物にとって害ありまくりでもない.
元々不慣れな中なんだ.
そうこうしているうちに…
もう息が続かない.
息継ぎを.
息継ぎを.
苦しい.
苦しい.
ぶわって湖面に顔出して思いっ切り息を吸うと,
まだ生きてるって声がした.
生きてて悪いかよ.生きてないんだろお前らも.
よく分かんなくなってくる.
まだ頭が酸欠かもしれない.
視界の隅で体格の良い奴が飛び込む.
息継ぎ終わったら,湖内の様子確認しないと.
とぷんと沈むと,
ざざ,ざ,ざざざ,ざざって.
続き飛び込み音.
総勢…
数が合わない気がした.
間違えたか.
最初か…見間違え
今を…聞き違え.
影が迫る.
目を凝らすと,たぬきが背びれを掴んで乗ってるように見える.
時折,雷魚,多分雷魚が巨体を揺らして振りほどこうとしているようにも.
たぬきには雷魚が見向きもしないのか.
一直線に俺へ向かってくる.
そんな少量の血でも反応して雷魚が向かってくる.
俺へ.
俺へ向けて.
そういう風に訓練されてるんだろう.
俺,水駄目なんだなんて言ってても駄目.
そんなの分かり切ってた.
何で,こんな無理矢理強制慣れさせられるんだろうって.
悩んでても無駄.
海とは違って,目を凝らせば見える.
よく観て出来る事しないと勝てない.
生き残れない.
いや生きてないって前提だったっけか.
魂すら消滅するなんて事態は避けたかった.
辺りには人が囲む.
お前ら覚えとけよって.
絶対忘れんからなっ.
雷魚と一緒に到着したたぬきが何かを渡そうとする.
その間に,ぎちぎちな歯はこっち向かって来て,
肘は傷だらけ.
腕持って行かれそうな勢い.
尾っぽで当たってくるのも地味に蓄積する.
胸びれも改良されてるんかって思う程,鋭利で…
猪口才.
なるほど,これは凄い生物兵器.
だけど腹立つ.
誰が,こんなん作り出したんだよっ!
淡水で慣れてるけど海水じゃ,こいつどう動けるんだろう.
井の中の蛙級じゃ恥ずかしいぞ.
たぬきに反応せずに俺にだけ向かってくるし.
思ったように動かす.
何か秘密があるはずだ.
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