第7話

「派手に廊下飛び散ってたな」

「何が」

「血が.あいつにしちゃ珍しい」

「何が」

「石の細工が巧くいってなかったんだろ」

・・・

あぁ,それは…

「違う…

石は,呑み込んだし」

「え?」

「裏技は,使わなかった,ってこと!」

「え?」

石消化すんのかなー

そのまま出てくんのかなー

なんて,たぬきに訊けるわけなかった.

「縄抜けはしなかったんだ?」

「してない.」

「へー近年で珍しいなぁ.

新入りが減れば減るほど下っ端が不利になるからな,

傾向と対策だよ.

全部,教えちゃうとバレた時に,こっちが困るし,

知らない振りさせながら最終通過して貰おうって.

出来ない奴は,そのまま地獄の底って話だけど,

縄抜け儀礼をしないまま俺と水潜りの訓練をする事になった.

何で?」

「あー…」

「呼ばれて付いてった姿見た者がいるんだ」

だがしかし…

「ち…

が…」

「え?

門長と縁故ありって本当なのか?

そんな甘いことやってると極まりが悪いよな.

仕掛け門が縄は正しく仕掛けたっていう話だし」

あっ

「あの縄は!?

誰に,訊いたら,いいんだ!?

俺っあれに,感動して!!!」

立ち止まって,少し離れた場所から俺の所まで下がってくる.

音もなくと言いたい所だけど,音はした.

でも,明らかに自分が踏みしめる,枯れ木や落ちたる実の音とは違う.

近付いてきてるから注目しろよという故意に出した音のような気もした.

風を切るような音も微かに混じっている気がした.

肩を掴まれた上で,怪訝そうな顔を確認する.

「お前…」

そして耳元小声で,集中して聞かざるを得ない.

「あれを扱う門は心身ともに剛健な奴らだけなんだ.

あんまり,その話声高にしない方がいいぞ.

俺だから,まだ良かったものの…」

なんか駄目な話を出してきてしまったってことだけ分かった.

「分かった.禁忌な話,なんだな.」

地面を,ふと見た後,視線を戻すと,

分かればいいんだという頷きだけをした.

「急ぐぞ.余計な力は使わない」

「あぁ」

また進み始めるんだけど,みるみるうちに離されていく.

だけど,声だけは近くで聞こえるような不思議な感覚がする.

声寄せってやつか.

「あの血は誰のだ.

どっから出た?」

「何で,そんな事,訊くんだよ」

「大事な事だから.」

・・・

「そんなっただ,水に,潜るだけで…」

「ただ,潜るだけじゃないぞ…

生物門の…」

はぁ…たぬきが溜め息をついた.

「生物門の?」

「…雷魚がいる湖でするんだ.

基本,生物門の言う事しか聞かない.

たまに生物門の事も聞かない.

あれ一匹お釈迦にするだけで損失は甚大だ.

生物門から責められるだけでは済まない.

俺は自分の身を守るだけで精一杯だ.

お前の事を気にする余裕なんて無い.」

「え!?」

「血に寄ってくる.

1週間でものにしないといけない.

傷が治るの待ってる余裕はない.」

「え!?」

湖って…何処だ?

ずっとずーっと,うっそうとした森を上がったり下がったりしながら

動いてんのに.

「雷魚って,でかいの?」

「成人2~3身ほど.

小さい奴も歯だけは一丁前だ.

頭を豆腐のように噛み砕く.」

「へぇー」

「何を他人事のように…」

想像が湧かないだけだけど…

山道をすっすっすと流れるよう動きながら,

説明も加えて,息上がりをしない.

あいつはあれで下っ端なのか.

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